第783話「油断と危険……最下層の罠」
僕は念話では無く、皆にも聴こえる様に声でアリファーンに話をする……
「アリファーン……無事ですか?ダンジョンコアの破壊も、グレーターミミックの討滅も無事終わりました。貴女の教え子である、炎の双姫フランムとフランメも無事です。フランムは上の階層にいて、フランメは今理由があって回復措置を施してます。ですが、状況から見れば寝ているだけらしいです」
それを聞いたアリファーンは、喜びの表情を浮かべて僕にお礼を言う……
しかし僕の耳に直接聞こえてきたのは、アリファーンのお礼ではなくベロニカの叫ぶ声だった。
「エクシア姉さん!!まだ戦闘は終わってない。反応が消えないんだ!!」
「な!?なんだって?……まだグレーターミミックが此処にいやがるのかい………いったいこのフロアに何匹いるんだ!?……くそ……マックスヴェル!ソーラー!!まだ戦闘は終わっちゃいない!!何勝手に持ち場を離れてやがるんだ……さっさと帰って来い!!」
ベロニカの声を聞いて、僕は激しく後悔をする……しかし戦闘中は感知を使う暇が殆どないのだ。
その上今はアリファーンの事があるので、彼女の身の安全に注力していたのだ。
そして既に三匹も倒したので、流石に終わりだろうと『勝手に』思い込んでいた……
当然マモンとヘカテイアも油断をしていた。
二人は、雑魚オブ雑魚なグレーターミミックと思っていたのだ。
それが床に擬態していたらどうなるか……そんな事は一目瞭然だ。
僕は床のソレが本当に『グレーターミミック』なのか、鑑定で確認をする……そこには最悪な結果が待っていた。
「マックスヴェル侯爵様とソーラー侯爵様!!今すぐ入り口付近へ走って『床も』グレーターミミックです!」
この部屋では、何処までがグレーターミミックなのかも分からない。
そして僕は、グレーターミミックを倒した場合その下がどうなっているのかが気になった。
うっかり倒せば最悪な結果が待っている気がしたからだ。
僕は即座にクロークから剣を出して、足元にいるグレーターミミックを深めに切り付けて真下を確認する……
「嘘だろ!?溶岩の海だ……。クソ!!……『そう言う事』か。流石火焔窟だ、ヤバイこの場所は……ガチでヤバイ!!」
僕は切り裂いた場所から下を覗くと、今いる場所はかなり高い位置にあり、真下はほぼ溶岩しか見えない。
浮島の如く幾らか地面が見えるが、それは地面なのか溶けている最中の崩れた岩なのかも分からない。
「どうした!?……なんだこの真下の明かりは……。な!?アレは溶岩か?真下が溶岩だと!?お前たち、何がなんでも下に落ちるな!!下は溶岩の海だ。落ちたら骨も残らんぞ!」
全員がアスマのその言葉を聞いて、一斉に部屋の入り口に集結する…………いち早く上の階層に移動して、後続の妨げにならないためだ。
真上で逃げ惑うのを感じたのか、足元のグレーターミミックが床となっている身体全体から、獲物を逃すまいと棘状の触手を撃ち出す……
「ぐわぁ!!最悪なコンボだ……このままだとダメージばかり受けてジリ貧だぞ?ウルフ!!」
「きゃぁぁ!……」
「ぐおぉぉ!?……真下から攻撃………だと?……避けようが無い……くそ!!……いいか階段待ちのやつは、少しでも多くの触手を斬り払え。自分が受けるダメージを極力減らせ!」
皆悲鳴やうめき声をあげる……しかしウルフハウンドは棘状の触手を斬り払う様に言う。
しかし現状の問題は斬り払っても所詮触手で、本体へダメージは期待出来ない。
その上、真下が溶岩地帯な為に全員避難するか最低限の足場を確保するまでは、この魔物を倒せないという事だった。
マックスヴェルとソーラーは受けた怪我の状況が酷く、配下の冒険者の手によって上層へ続く階段に連れ込まれた……
その脚には何箇所も、棘状の触手が突き刺さった痛々しい傷があった。
「皆をすぐに収容しろ!!階段に入った奴は上に行け後続の邪魔になる。誰も階段付近では止まるな……上の階へ行け!……大丈夫か?マックスヴェル?」
「く……しくじった。このマックスヴェルがとんだ失態だよ……ソーラー。だが、この程度の傷ならポーションを使えばすぐに回復出来る……」
マックスヴェルはソーラーにそういうと、ポーションを脚にかけて回復させ残ったポーションを一気に飲み干す。
そして自分を庇って痛手を負った冒険者達に惜しみ無くポーションを使う様にいった後、殿を務めるエクシアに大声で見たものを報告をする。
「エクシア!!さっき触手攻撃を受けた時に足元に地面の様なものが見えたぞ!!もしかすると僅かかも知れんが、足場がある場所とない場所に分かれているかもしれん……」
エクシアはマックスヴェルからの情報を聞くと、器用に触手攻撃を交わしつつその棘を斬り払う。
そして足場を確認すべく、歩き回り数カ所を剣で突き刺す。
するとマックスヴェルの言った通り、剣が刺さらない場所が見つかった。
その場所周辺をザクザクと切り開き、下を確認すると確かにマックスヴェルの言う通り地面があった……
「オイ此処にいる奴は全員よく聞きな。良いかい?……足元にはしっかりした足場がある場所もある。剣を刺した場所が真下に剣が沈まなかったらそこは地面だ!状況をよく見て足場を確保しな!!……」
エクシアは冷静に、足元で確認した事を皆に伝えた。
僕はエクシアのその言葉に従って、数カ所に剣を突き刺して確認する。
すると僕のいる場所から僅かに歩いた場所には、確かに真下に硬いものがあり剣が奥まで刺さらない所があった。
僕は剣で触手の攻撃を斬り払いながら、地面がありそうなその周囲を切り裂いてみる。
「確かに場所により足場があります。各自触手による攻撃を避けながら、自分の足元を確認してください。最悪入り口に戻る迄の足場にはなりますから!」
天井と違い全員が攻撃できる位置だが、全員が逃げる場所を確保するまでは足元の魔物を切り裂きすぎるのも問題なのだ……本体なだけにダメージが入ってしまうからだ。
うっかりダンジョンの主を倒せば、何人が溶岩の海に飲まれるか分からない。
だが足の真下に魔物が居れば、攻撃の的になりダメージを受けるのは間違いがない。
「皆よく聞きな!ダンジョンコアは破壊したし、精霊も助けた。一旦部屋から出るよ。入り口から遠距離で魔法攻撃をする。魔法の手段がない奴は邪魔だ、立ち止まらずに上に行きな。その階段は狭いから崩れたらお終いだ!一辺におしくら饅頭したら、崩れて此処から出られなくなるよ!」
そう指示を出された皆は、魔法を使えるメンバーを残し上の階層へ駆け上がる。
「マックスヴェル侯爵様も、ソーラー侯爵様も上に!!」
「ソーラー!俺たちは此処に残るぞ……王への報告義務がある、確認者が必要だ!!それに……アイツらの進む道を確保せにゃならん……」
「分かっておるわ!どうせ先の無い老いた身だ。思い残す事などないわ!寧ろこの鉱山が墓標になって目立っていいでは無いか?」
「ガハハハハ!デカイ墓標だな?気に入ったぞ?その案は……」
マックスヴェルは『ガハハハハ』と豪快に笑うと自分の子飼いの冒険者へ指示を出す。
「いいか?お前たちは上に行き、ウィンディアとテロルを助けろ!いいな?俺たちの片方、もしくは両方とも最悪は死ぬかも知れん……それをウィンディアに伝えろ!分かったな?では伝えに行け!!」
マックスヴェル侯爵とソーラー侯爵は死を覚悟して皆に後の指示を出す。
ソーラーは息子のリーチウムに……
マックスヴェルはお抱えの冒険者たちに……
しかしその命令に食い下がったのは、ギール男爵だった。
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