第754話「最下層にある異常」
なにが異常かと言えばそれは部屋の中央にある物だ……
部屋はそれほど大きく無く、奥の岩壁まで見渡しが効く……部屋に内部の岩壁には松明がかけてあり非常に明るい。
そして部屋の中央には、バスケットボール位のサイズはあろう黒い心臓が浮かんでいるのだ……それもぼんやりとだが、光っている。
黒い心臓の周辺はユラユラと動き、空間が歪んでいる様に見える。
その存在に気がついた僕は、本来この階層に居るはずの魔物が居ない事にも気がついた。
この階層に降りたはずの魔物の姿が既に部屋にもいない……それは先に部屋に入ったエクシアも気がついていた様だ。
トレンチのダンジョンにあった球体を知っている僕は、このダンジョンにある物も似た感じの物を想像していた。
しかしあった物はとてもでは無いが、同じ物とは全く言えない。
コアと言う意味では同じ様にも思えるが、周辺の空間が所々が揺らいで見えるので全くの別物だろう。
すると先に部屋についていたマモンが、周辺を物色しながらブツブツ言いながら僕のそばにくる……
「なんだアイツ……コアに手をつけず何してやがんだ?って言うか何処に隠れやがった……アイツ階段降りたよな?俺の感知にも引っ掛からねぇ……契約者お前の感知はどうだ?」
「居ませんね………この下層階に来る為の手段は階段以外無いですし、魔法の地図を見る限りこの階層が最後のフロアである事は間違いないですね……」
何かを期待していたのか、マモンは未だに何故いなくなったのか納得がいかずに探している……
「あそこにダンジョンコアがある以上、此処がダンジョンの心臓部である事は間違いがねぇよ……そもそもヘカテイアになったあの女は、この最下層という場所を使って人の身体を捨てたんだからな!」
マモンがそう言った瞬間、誰も居ない筈の部屋奥の片隅から急に話しかけられた……
「何か計画があったのですね?それは申し訳ない……。先程は私が貴方達の為にせっかく用意したのですが……あれ程使えないとは思わなかったので、責任を持って私が処分しました。まぁ……このダンジョンは私にしてみれば、オマケみたいな物ですからね……」
その声の主は、声からして聞き覚えこそない。
しかし口調や言い回しは、既に此処から居なくなった筈の『サラリーマンの堀川聡』だった……
その堀川とエクシアは、口調こそ冷静だが言い争う様に会話を始める……
「その話し方……見てくれのままって訳じゃ無いんだろう?……それにアンタは……さっき消えた筈だよね?ちなみに……今度のその姿は何処の貴族様だい?」
「ふっふっふ……楽しんで頂けている様で何よりです……エクシアさん。今回の身体の持ち主の貴族様は『マーダル子爵』様と言います。身体については何時手に入れたか迄は既に記憶にも有りませんが、ムカつく程に領民思いの貴族でしたら……。自分の不遇さを呪って、つい手を出してしまいました……」
「あたしゃ別にアンタで楽しんでなんかないよ!聞いただけで今すぐ本体のアンタを殺したくなるよ……。それにしても本当にクソ野郎だね。どうしてヒロとアンタみたいなのが同じ世界から来たのか……本当に謎で不思議しか無いよ!!」
「良いのですか?お仲間以外に金級冒険者が居るのに……。貴女の今の発言を聞いた彼等は、あの驚き顔からして知っていたとはとても思えない表情ですが?そんな問題発言的な情報を貴女が口にしてしまって……後々大丈夫でしょうかねぇ?クックック……」
「良いも何も……テメェ相手にコイツ等が手加減しちまって、何かされたら逆に危険だろう?肉片になるまで遠慮なく斬り刻む様にする為にもね!!折角だからヒロの事はアイツ等にも教えておくさ!!お前は此処で始末して、ヒロは元の世界に帰らせるんだ……仲間は多い方がいい」
その言葉に僕はマックスヴェル侯爵の絡みが強い、金級冒険者のオリバーを見る……
彼はこのダンジョンに潜ってから、今までそれなりに情報を得た筈だ。
しかし目の前の化け物と僕が、同郷であると聞いた時点で目を剥いて驚いていた。
しかし、サラリーマンの堀川はエクシア以外に興味は無い様で、話を続ける……
「クックック……違いないですね!そこまで考えての発言だっととは……。じゃあ私も遠慮なく……話しても問題なさそうですね?」
「そもそもそんな事を気にするつもりも無かったんだろう?……姿を現したって事は……。何だい?早く言ってみなよ?もし言葉じゃなく『ヤバそうな呪文』だったら次の言葉は喋らせない……容赦なく細切れにするけどね?」
そうエクシアが言うと、仮の身体でヘラヘラと笑いエクシアと僕の方に歩み寄ってくる。
「切り刻みやすい距離まで来ましたよ……。じゃあお言葉に甘えて遠慮なく話をさせて戴きましょう……。安心して下さいください。この身体の持ち主は、剣士としても魔導師としても素質が無く政治手腕しか持ってない輩でしたから……マジックアイテムが無ければ何も出来ませんよ」
エクシアの方を向いてそう言うと、今度は僕に対して話を始める。
しかしその顔はエクシアの時とは打って変わり、怒りに震え恨みがこもっている表情だ。
「忌々しいクソガキ……言いたい事は山程あるが今は辞めておいてやる。その代わりお前達の前にあるその黒い心臓の一部を切り裂き喰らえ……そしてすぐに俺の計画を手伝え!」
唐突にそんな命令をした堀川は、僕達にとってそれ程繋がりが深い人間では無い。
僕にとっては怪我をさせられた因縁の相手で、ミクとユイナそしてソウマの3人にしてみれば自分勝手でわがままな大人であり、この世界で会ったカナミやアーチそしてミサにして見れば、誰かも分からない完全な他人だ。
その上、現在は前の世界の面影も全く無い。
それもその筈で、他人の身体を力ずくで奪い僕達と話しているのだ……
その行為を不快に感じることはあっても、その逆はあり得ない。
だから彼の計画になど協力する気が起きる訳も無い。
問題はそれだけに止まらない。
何の説明も無いまま奇妙な物を摂取させて『何かの力』を得させようとする……怪しい事この上ない。
僕達が黙っていると、堀川は更に口調を荒げながらその目的を話し始めた。
「俺は何が何でも元の世界に帰る……この世界を破壊して俺の魂への縛りをなくしてな!いいか?もはや俺達には人の身体では越えられない壁がある……その壁を超える素材がその黒い心臓だ!!この世界との繋がりを断つことが出来る力だ!!俺を手伝わないなら……お前達になど用はない。この世界と共に死ね!!」
酷い言葉を使いつつ、一方的に話を進めようとする堀川だった……
それが本当に元の世界へ帰るのに一番早い方法だとしても、彼がこの世界の現地人にした行為を考えれば、とてもではないが従うに値しない。
僕とソウマの考えは一致した様で、顔を見合わせた途端お互い嫌そうな顔をしてしまう……
そもそも僕達は堀川に、上の階で殺されかけたのだ。
嫌がらせでは無く、文字通り魔物を使って殺されかけたのだ。
だからこそ、僕達がするその顔も当然だろう。
「あはははは!!おい謎の男さんよ……交渉決裂な様だね?まぁそうだろうねぇ……。あんたまさか……上の階で何をしたか忘れたわけじゃ無いよね?アタイ達はアンタの作った魔物と戦って、打ち破ってから此処に来たんだ。戦う事はあっても従う義理なんかあるわけが無いだろう?」
「エクシア……お前達を見てつくづく思うよ……何も知らずに呑気な事を言っているお前達や、このクソみたいな世界なんか早く壊してやりたいとな!」
堀川は感情を剥き出しにしてエクシアにそう言った……
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