第744話「エルフレアの最後の手段」


「主人よ、見ての通りマザー種はどんな小さいものでも、小さい岩山くらいの大きさがある。その上この魔物は高い耐久値が売りで、身体中に付けた岩石が天然の鎧でもあるのです。まずは甲虫の群れを処理して、同時に背中の卵を全て破壊する必要があります」



 僕は何故自分がアシュラムの主人なのか聞きたかったが、今それを聞くべき時では無い。



「僕が従魔で蹴散らします……その間に接敵しましょう。エクシアさんは……チャンティコの範囲炎魔法で背中をや焼けませんか?」



 すると、エルフレアが自分が代わりにその役を引き受けると言う。



「私がマジックウエポンの『イフリーテスのフランベルジュ』の力を解放します。その武器は太陽のエルフ族の親衛隊が持つ事を許された広範囲炎攻撃が出来る特殊ウエポンです。エクシアさんの力はこの先でも必要になるかも知れません……卵の破壊程度であれば問題ないですので、此処は私にお任せを!」



「なんでも良いから早くしようぜ!これ以上甲虫が増えたら作戦自体意味がなくなるかも知れないからね!」



 エルフレアの言葉にエクシアは了承をする。


 そして増え続ける甲虫の様子を見てエクシアは、急ぐ様に僕とエルフレアに釘を刺した……



「わかりました。では僕の召喚従魔、アクアパイソンで周りの甲虫を処理しましょう……そうしたら皆で背中に登り卵を破壊、そして本体であるマザーを討伐で……」



 僕はそう言うと、手のひらに浮き出ている蛇の紋章に念話で命令を出す。



『すぐにこっちへ来て、マザー種の討伐補助に回る様に……周囲に魔物が出たら全て排除せよ!!』



 そう念話を送ると、離れたところでアクアパイソンの咆哮が起こる……



『ギシャァァァァ!!』



『グルルルル……ガァァァァ!!』



 初めて明確な指示が来た事で、二匹のアクアパイソンは捕食をやめて即座に周囲の敵を尻尾で叩き潰し道を作ると、すごいスピードで這い進んでくる。


 そしてマザー種の前に来ると、強酸ブレスと尻尾による強打を繰り出し周囲を蹂躙し始める。



「ギシャァァァァ!!グルルルル………ギシャァァァァ!!」



「ガァァァァ!!ギシャァァァァ!!」



 初めて本気のアクアパイソンの戦闘を見た僕達は、怯んで一瞬脚がすくむ。



 マザー種を見ても足はすくまなかった……と思ったが、今まで明確な指示を出していないのだからその恐怖を知らないのも当然だ。



「くそ!アタイがびびって動けなかった………行くよアンタ達。今しかチャンスは無いよ……」



 アーマー・マザーロックビートルは目の前に巨大な蛇が来た事で明確な敵と認識した。


 大きな巨体で突進攻撃をするが、その顔目掛けて強烈な尻尾の強打を受ける。



 すると強撃で外骨格の一部が破壊され、中に居たアーマー・ロックビートルが周囲に散らばり落ちてくる。


 外骨格を破壊され動きが止まるマザー種。



 そのチャンスを見逃さず、僕達は一気にマザー種の背中に上がる。



 方法は単純で、足の鎧と化した岩石部分に手や足をかけて必死によじ登るだけだ。



 動く岩壁をロッククライミングする様なもので、かなり危険な状態だがこの世界には『ステータス補正』がある。


 純粋な筋力と体力では無いので、山を登るときの様な専門道具が無くても意外と何とかなった。



 一番上に辿り着いたのは当然エルフ達だった。



 エルフレアは真紅のフランベルジュを両手に構えて持ち何かを詠唱する……すると剣から炎が吹き出した。



「剣に宿し炎の女帝イフリーテスの魂よ!我が肉体を持って化現せよ!」



 エルフレアがそう言うと、彼女の身体が炎に包まれ巨大な炎になる……そしてその中から炎のドレスを着たエルフレアが現れた。


 見た限りは頭の先から足先までエルフレアだが、中身は全く別人だという気がする。



 僕達はエルフレアが居るところに近づこうとするも、その場から全く動くことができない。



『エルフレアの願いにて化現しました。安全の為、貴方達にはその防壁に中に居ていただきます。万が一出た場合は命の保証はありません』



 エルフレアがそう言った瞬間、マザー種が炎に包まれる。



『ギィィィィィ!!ギィィィィィ!!』



 マザー種は突然全身を炎によって焼かれたので絶叫をあげる……


 何故ならば、マザー種の背中の岩石の一部は既に超高温で溶けていた……



 炎の女帝イフリーテスを化現させたエルフレアは力を解放した。


 そのせいでマザーの外骨格周辺の岩石は超高温で溶けてしまい、マザーはその溶岩を背中から被っているのだ。



 だが僕達は、イフリーテスが作った特殊な空間で護られているらしく、一切の熱さは伝わってこない。


 しかし外は、とんでも無い状況である事は見る限り間違いない。



 当然背中の卵など無事であるはずがない……


 それどころか外骨格内部にいるアーマー・ロックビートルにも被害が及んでいる。


 上から流れてきた溶岩を被り、逃げる場所もなくそのまま何も出来ず絶命する……



「残念ですが……あなた方の出番はありません……」



 そうイフリーテスが僕達に言い、手を翳すと巨大な燃える剣が現れてマザー種を両断する。



『ギィィィィィ!!!』



 突然巨大な炎の剣に両断されるマザー種……


 何が起きたかも分からない状態で下半身が無くなった……両断されてしまえば当然生きてなど居られるはずもない。


 外骨格の中で何とか生き残った個体は一斉に外に出てくるが、イフリーテスの力を纏ったエルフレアは逃す気はなかった。


 意識をイフリーテスに奪われてしまわない様に強く持ち、精霊魔法を行使する。



「我らが敵を焼き尽くせ!『アッシャムス・エペ』」



『ギィィィィィ!!ギギィィ………キゥ……』



『ギギィィ!!ギィーーゥゥゥ……』



 マザー種の周囲は、エルフレアが唱えた精霊魔法で一瞬のうちに業火に巻かれる……


 多くのアーマーロックビートルはその炎から逃げる事ができず、断末魔をあげながら身体を焼かれる。


 余りにも桁違いの攻撃力と攻撃方法に、エクシアでさえも息を呑むしか無かった。



「何だい……エルフレアの攻撃だけで終わり…………」



 エクシアがそう言いかけた瞬間、目の前にあった歪に盛り上がる岩場が持ち上がる……


 唯一このフロアにあった景色だと思っていたが、そもそもが間違えていた様だ。


 岩山に擬態していただけだった。



「待て待て待て!!………あの岩場動いてんじゃねぇか……3つ共マザー種か!?全部で4匹も居たのかい!!」



 この階層に降りた時に地図を見たら中央部付近には下層階への階段があった。


 どうやらその場所を守る形で、東西南北にマザー種が居た様だ。



 僕達はその入り口側の1匹を始末しただけで、まだあと3匹も残っているらしく、どの個体にも背中の岩鎧の下には当然外骨格がある。


 当然格納庫代わりの外骨格の中には、無数のアーマー・ロックビートルがいる様だ。



『ギチギチギチギチ!!』



『ギギィィ!!ギチギチ……』



『ギー!ギギィィ!!ギチギチ……!』



 次々とマザー種は叫びをあげると、3匹とも無数のアーマー・ロックビートルを放出する。



「くそ!マザー種1匹でも出てくるザコがとてつもない数だったのに……それがまさか3匹増えるとは……参ったねぇ……。だがボヤいても仕方ないね……叩き潰すしかアタイらには道がない!」



「その通りです……エクシア我々も王国から預かって来た武器がありますから……二匹は我々で抑えましょう。しかしエルフレアはこの戦闘で当分の間使い物にはなりません」



 エルオリアスがそう言ったので僕はエルフレアを見ると、固まった溶岩の塊の様になっていた。


 感知で見る限り生命反応には問題無いが、この現象は力を放出した際のデメリットの様なものなのだろう。

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