第743話「超大型種のフロアガーディアン」


「ヒロさん、ミミからの伝言です。アシュラムさんからの報告で、巨大な魔物からこの甲虫が湧いてるって言ってました!ここからもう少し奥に行った辺りにいるそうです。アシュラムさんも攻撃を開始しているそうですが、それを仕留めない限りは多分無限に産み続けるだろうと……」



 アーマー・ロックビートルが凄い多いのには当然理由があって、多分トンネル・アントの様にクイーンクラスがこの階層の何処かに居るのだろうとは思っていた。


 そこから永続的に個体を新しく生み出し、侵入者を襲っているのだろう……その考えは的中した。


 アシュラムがアーマー・ロックビートルの群れに斬り込んでその母体を発見したらしい……



「この階層にはフロアガーディアンがおるのか……儂とした事が……準備を怠ったわい……悔やまれるのぉ……」


 フレディ爺さんの説明では、フロアガーディアンというのは間仕切りがない階層に生息する、超大型種の魔物だという……


「仕方ないのぉ……老体には応えるが………儂が道を作ってやろう!『コンティノアール・インフィジャールシェーム』……焼き尽くすが良い炎龍よ!」



 フレディ爺さんがそう言うと小さな炎の矢が手から迸る……


 そして敵に刺さった瞬間貫通して魔物を火達磨にしながら巨大な炎になり、更に後続に突き刺さると、それは周囲を巻き込みながら龍の形になって真っ直ぐ奥へ奥へと放たれた。


 龍の形の炎は続々と押し寄せる魔物を、一直線に容赦無く焼き払う……


「ふぅ……老体にこの魔力消費は応えるのぉ……」



 そう言ったフレディ爺さんはマジックバッグから杖を取り出すと、杖にもたれかかる様に休み始める。



「ほれ!今のうちじゃヒロにエクシア……行ってこい。ちゃんとあそこのエルフ達の支援もパーティーに入れていくんじゃぞ?相手は『アーマー・マザービートル』じゃ……こんな大量の魔物が生み出せるのは其れくらいじゃからな……」



「マザー種か!どうりで……クイーン種だったらまだ精鋭部隊で済むが……マザー種は不味いね。さすが爺さんだな、知識量はピカイチじゃ無いか!」



「カッカッカ!儂が後100くらい若ければこんな群れ両手で抑えられるんだがな……」



 フレディ爺さんの100くらいはどのくらいの尺度の100歳なのか正直微妙だ……


 数百歳なのか、それとも文字通り100歳なのか……生きている年月を考えれば、爺さんにとって100年程度問題ないはずだ。



 僕がフレディ爺さんにツッコもうとすると、先に爺さんに核心をー言われてしまった……



「ほれ!折角作った道じゃぞ?早く行かんと後続の甲虫に埋め尽くされるからさっさと行け!!お前達には果たさねばならない目的があるんじゃろう?儂はテロル騎士団をここに連れてくるので既にほぼ魔力が無く今の大規模魔法で完全にカラッポじゃ……悪いがここまでしか役立てん……」



 それを聞いたテロルも盾を構え、まだ周囲に残っている敵の攻撃を受けたまま頷く。



「うむ!エクシアにヒロ……我々がここの場所を死守しよう。マックスヴェル侯爵様、ソーラー侯爵様………このテロルあの世までご一緒致しますぞ!!」



「ふん!実に嬉しく無い申し出だな。オッサンばかりで黄泉路を歩くのか華がないではないか!!……ソーラー酒はあの世で奢ってもらうぞ?せめて酒くらい貰わんとな!」



 僕はエクシアと共に死地へ向かう人選をする。



「ソウマさん僕が奥に行っている間、皆の事を頼みます」


「帰ってくるんだよな?」



「ここが最下層じゃ無いので戻ってくるに決まってますよ!殺さないでもらえますか?」



 ソウマが笑いながら、ユイナ達に指示を出す。



「馬鹿がちょっと奥まで遊びに行くそうだ……。俺たちはここでお留守番だから……ここを守り切るぞ!退路が無くなったら帰るに帰れないからな、この大馬鹿は……」



 皆笑いながら『馬鹿だから仕方ない』と言うと、カナミとミサは自分の荷物袋をアーチへ託す。



「あーちゃん行ってくるね!そんな心配そうな顔しないで?こんなの慣れっこだし!今までは、もっと凄い化け物を一人で倒して倒してたんだから!」



「そうだよ!私も雛美もあーちゃんよりずっと前にここにきたんだから!私達は物凄く強いの!!だから死なない……また音楽を一緒にやるんだから……死んでなんかやれないわ!」



 エルオリアスにエルデリアそしてエルフレアは部下にユイとモアにスゥを託す……



「いいか?お前達は何があっても姫達を地上へ返せ!俺たちがここの魔物を仕留めて3人の誰かが転送陣を必ず開ける……それは絶対だ!そうしたら姫を転送陣で地上へ出せ……誰が死んでも振り返るな……そして王国へ連れ帰れ。精霊の危機を知らせ、元老院の悪事を暴露して必ず王国から元老院を切り離せ!3種族ともだ……いいな?」



 そう伝えた3人も自分の荷物を最低限にして仲間に託す。



「アンタ達時間をかけ過ぎだよ……まさか死ぬ気じゃ無いだろうね?アタイはこの土精霊のダンジョンを終えて、さっさと火炎窟に降りたいんだ。アタイの力の源で絶対に失えないんだから……分かったらさっさとしてくれ。『まだ前半戦』で、さっさと13階層に降りたいんだ!アタイは」



 エクシアの言葉でエルフレア達は気付かされる……ここで終わりでは無い事を。


 今までの連戦は非常に大変だった……


 だからこそ、この階層が最後の関門と勘違いした。



 少なくともこのダンジョンは階層がまだ下に1層続き、下手をすればそこにもっと酷いボスが待ち構えているかもしれないのだ。



「前言撤回だ!すぐに戻る……ここは我々が足踏みなどする場所では無い、よく考えれば奴らはデカい虫で、エルフの敵なんかでは無い!!」



 エルフレアがそう言うと、赤く輝く剣を抜く……


「エルデリア、エルオリアス出し惜しみしている場合じゃ無い。エクシアの言う通りさっさと済ませて先を急ぐぞ!」



 「「エルフの清き行いを!!」」



 エルオリアスは青く光る剣を、エルデリアは緑に輝く剣を抜き放ちエクシアの後ろの行く。



「準備は良いね?種数精鋭で短期決戦だ……マザー種をフルパワーで叩き斬るよ……」



 エクシアは超高熱でグズグズに焼け焦げたロックビートルに飛び乗ると、その上を走り出す。


 ロックビートルは背中が岩石をになっているので、動かなくなった時点で足場が悪い通路になっていた。



 エルフ達はその足場の悪さをものともせず突き進む。


 エクシアは勿論カナミとミサも長い間修羅場で戦ってきただけあり、苦も無く越えていく。



 僕はデスアサシンのスキルで歩行困難でも苦もなく進めるものの、同行しているメンバーは戦場経験値が段違いなので、なんとか足を引っ張らずに着いていける。



 暫く進むと、いとも簡単にアーマー・ロックビートルの群をバラバラに切り裂くアシュラムが見えた。



「主人よ、おいでなさったか……あれが我が呼んだ理由です。マザー種の『アーマー・マザーロックビートル』です……虫とは言えどもマザー種となればなかなか数が多く、雑魚が邪魔で斬り込む隙が無いのです」



 既にバラバラに散乱しているアーマー・ロックビートルだったが、どんどん新手が湧き出して来る。



 マザーは非常に大きく大きさは10メートル近くはある。



 背中には大きなカゴをひっくり返した様な外骨格の中に、無数のアーマー・ロックビートルを抱えている様だ。



 そして群を外に吐き出すと、新しい個体を即座に孵化させて外骨格の中に取り込んでいる。



 因みに孵化させる卵は背中の岩石部分にくっ付いている様だ……感知に無数の反応がある。



 よく足回りを見ると、卵を受け取り背中によじ登る働き蟻の様な個体が居る。


 多分産んだ卵の番人で、背中の岩場に持っていくのが仕事なのだろう……

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