第732話「エルカーヤとピエネ」
「全く………駄々っ子は駄目ですよ?私の専売特許ですから………あれ?エルフレアさん………あれ?死んでる!死んでますぞー?アシュラムさん!!手加減してって言ったじゃないですか!!」
「主人よ……死んでませんぞ?普通に失神しているだけであります故……どうぞご安心を……。それでは一度村へ戻っております。何かあればまたお呼びを……」
ピエネが……一番危険なのは『この娘』じゃ無いかい?バンシーより遥かにヤバいものが今目の前に召喚されたんだけど?アンタ達は『アレ』は平気なのかい?だとしたら……そもそもバンシーなんか可愛いもんじゃ無いか!……と怒っていた……
そして村に着くまでエルフレアをロズが担ぐ事になったが、テリアが『なぜロズさんが?エルフレアさんは女性ですよ?他の人がいいんじゃ無いですか?』とムッとして言い返すロズと口喧嘩になっていた……
どうやら目に見えて分かり易いヤキモチの様だ。
結局ベンが『俺が担ぐよ、お前たち幸せだからって見せつける喧嘩は良く無いぜ?』と言うと、ロズはようやく気がついたようで、エルフレアをベンに渡してテリアに平謝りをしていた。
ロズは天然脳で非常に鈍感らしい……
◆◇
「あら?ピエネ……そちら様方は?」
「エルカーヤ様、実は上の階段付近で見かけた冒険者達です。許可を取らず連れてきてしまいました。ですが多分問題は起こさない筈です。まぁ何かがあったら、私が責任を持って、全員を土塊に変えますからご安心を」
この短いやり取りで再度『ヒュー』と言って白目になるエルフレアだったが、話が進まないので僕達はエルフレアをこの状態のまま寝かしておくことにした。
仲間にチャンティコになれるエクシアや、そもそもがヤバいマモンとヘカテイカが居るのは黙っておいた……念の為だ。
そんな気持ちを他所に、テーブルの上の果物を勝手に食い軽々しく声をかける輩が居た……エクシアだ。
「アンタがエルカーヤかい?噂を聴いていたんだが……だいぶ噂とかけ離れているんだけどねぇ?」
「うふふ……そうですか?どんな話かは存じ上げませんが……。まさか私を探しにこのダンジョンまでお越しに?ちなみにご用件は?此方の方が熟れてて美味しいですよ?」
「ああ、ありがとうね!腹減っちまってさ。えっと此処にきた理由はアンタに用事とは違うんだ。要件は別のことで此処と言うかダンジョンへに来たんだが……何というか……話がこんがらがっていてね……。何から話したら良いもんだか……」
そう言ってエクシアは僕を見るので、僕は準を追って説明をした。
精霊が危険なこと、そしてそれを救いに来たこと。
その最中にケイブとケイブスクリーマーに追い立てられる様に戦闘をしつつ、境界を越えて森林エリアにたどり着いたこと。
森林エリアでアンデッドを多数発見し、それがエルフのリッチであったこと。
その最中の会話に出てきた『エルカーヤ』の話と元老院の事件。
そしてエルフレアが現状に至る理由までも話したところで、エルカーヤは大爆笑をした。
「まぁまぁ……ではこの子は私を恐れて卒倒したんですね?まぁ……どうしましょう……なんて謝りましょうか……?」
「いやいや!!アンタは悪く無いだろう?そもそも『リッチ』じゃ無いんだろう?エルカーヤ……アンタはさ?」
そうエクシアが聞くと、全く違う返答が返ってくる……
「いえ?リッチですよ?元リッチと言いますか……現状リッチと言いますか………進行形でリッチと言いますか……。実は私も説明が難しいんです。多分あなた方が『見た』と言ったのは私の本体でしょう。この先の神殿に本体がありますが、見たまま『リッチ』でございます」
「え?………まじでリッチなの?噂通りのリッチってことかい?金持ちのことじゃ無いよ?」
「はい。そうです。エルフの都を追われ、襲撃にあったのでその時リッチになりました。そしてお金もありませんからリッチはリッチでもヤバイ方のリッチですね。因みにお話の通り刺客は返り討ちにして、アンデットにして送り返したのは事実です。」
「え!?……って事は話の本筋は語り継がれている通りってことかい?」
「若干異なりますが……概ねは……エルフの都から太陽のエルフを多く攫った『忌み子エルカーヤ』です。エルフから魔物のリッチに変わりまして、一時は意識が混濁したのですが、それもわずかな期間で6日ほどです」
エルカーヤは淡々とそう言いながらも、笑顔は絶やさない……
逆にそれが怖くも感じるが、話は終わっていない様でその先を話し続ける。
「私とて馬鹿ではありません。リッチになれば混沌に支配される可能性もあります。ですので事前にエルフ族特有の方法で、魂と意識を器に分離させておいたのです。元の意識を保てる様に」
エルオリアスとエルデリアはその言葉に凄く興味を持ったようで『魂の器の新しい使い方ですか?』と鼻息を荒くして聞いていた。
エルカーヤは二人のその勢いが嫌なようで、少し距離を保ち続きを話す。
「そ……そうで御座います……だから今は混沌の力が増すこの場所ではリッチの身体を封印しております。ちなみにエルフの王都を襲ったのも、住民を攫ったのも事実ですし、宣戦布告も事実です。全エルフ族は私の敵ではありますよ?……一応は……」
それを聞いたエルデリアとエルオリアスが『ヒュー』と言ってぶっ倒れる。
にこやかに『自分達以外のエルフは全部敵宣言』をされれば倒れたくもなるだろう。
しかし僕には『なぜ此処にいるのか?……』という情報の方が大事だ……
「じゃあ……何で此処にいるんですか?エルフへ宣戦布告したなら普通はその国へ攻め入るんじゃ無いですか?まさかその準備を……此処で!?」
「ちょっかい出されたのは私の方ですから。それは宣戦布告もしたくなりますでしょう?そもそも父と母を殺されたんですよ?ちなみに今は普通に暮らしているだけで準備はしてませんよ?準備しているのは畑の肥料位ですね……そろそろしっかり栄養をあげないとならないので!」
僕の言葉にエルカーヤの流石に口調に鋭さが増す……しかし畑の話をすると口調がすぐに戻る……
周りはハラハラしながらその会話を聞いていたが、エルフが二人ほど冒険者を掻き分けて飲み物を持ってきた……
二人のエルフは何処となくエルカーヤに似ている。
『お客さんすまないね!通してくれるかい?』と言いながら、女性のエルフが僕らの前にお盆を持ってくる……上に銀細工のコップと果物で作った飲み物と、乾燥させた果物のお茶菓子があった……いわゆるドライフルーツだ。
「話の最中に申し訳ないね……エルカーヤ、お客様にお茶を持ってきたよ!」
「あら、お母様にお父様!お茶をありがとうございます。畑の収穫はもう終わったのですか?すいません手伝えずに……急な飛び入りがあったので……」
僕はこのやり取りに……『はて?』と思う……
親は『殺された』と言ったが、今『お父様、お母様』と聞こえた気がするからだ。
「お父様聞いてください!お父様達が昔に殺された事件の事は、未だにエルフ族では間違った内容で語り継がれているようですよ?困りますね……あの話の殆どは、元老院が真実を捻じ曲げて作った話ですし……ほぼ全部が元老院の嘘なのに……」
その言葉を聞いてなのか、死んだふりをしていたのかは定かでは無いが、エルフレアが飛び起きる。
「ど!どういう事でしょう!?『元老院の嘘なのに』とは?」
「私の日記があったという話ありましたよね?その日記なら未だに手元にあり私は今も書き続けています。リッチになって少しの間は意識が混濁して書いていませんが、それ以降は毎日書いていますよ?書いてないのはたった6日間だけですから……」
そう言ったエルカーヤは、その話はあまりしたく無さそうな気の進まない顔をする。
それを見たピエネは割って入る様に口を挟んだ……
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