第710話「悪辣貴族とダンジョン中層」


「分かった!エクシア……もう茶番はいい。私は儲けさせると言う約束が果たされるなら文句など無い」



 マックスヴェル侯爵はエクシアにそう言うと、貴族へ向き直り怒り混じりに声を荒げる。



「お前達は従えないなら今すぐ帰れ!我の邪魔をして王国で無事過ごせると思うなら好きにせよ。だが一族、遠い親戚に至るまでその血筋をこの世から消し去る!必ずだ!」



「おい……マックスヴェル。お前は偉そうにそう言うが、一体どこまでついてくる気だ?『武器もまともに扱えないお前を守り切れない』と言っているに等しいのだぞ?」



「ソーラーお前は自分の身を案じていろ。私の連れてきた冒険者は3グループだ。その内2パーティーに私の身を守らせて、アスマが仕切るパーティーはエクシアに貸し与える。何せアスマは金級冒険者で、我が家系の稼ぎ頭だからな!」



 マックスヴェルにそう言われた貴族達は、エクシアの発言にケチなど付けられない。



「貴族さん達……話はまとまったかい?なら終了だ。詳細は8階層まで進めたら教えてやる。降りてヤバかったら次の転送陣で上に帰りな。そこがアンタ達の限界だ」



 エクシアはそう言うと、早速悪辣貴族のパーティー指揮権を奪う。



「いいかい?アンタ達の中から銀級2パーティーはアタイ達と一緒に最前列で戦闘だ。アンタ達で2パーティーを今すぐ選びな」


 貴族が連れてきたパーティーは、エクシアの言葉を受けてそれぞれで相談を始める。


 しかしエクシアの仕事はまだ終わら無い……


「テイラーにウルフハウンドそしてトラボルタ……アンタ達は下層域まで温存だ。ただいつでも替われるように準備をしといておくれ。あと他の知ってる奴も同様だからね!呑気な顔してたらはたくからね!」



 3グループは『やれやれ』と手を振る。



「エルフの御三方と姫さん達は、これから進む進路で他の通路から魔物が来たら弓で牽制をしてくれるかい?」


 エルフ達はエクシアの指示に従い即座に弓の準備をする。


「ギルドが決めた下層組の他の奴らも油断するんじゃないよ!入れ替えは頻繁に行うし、パーティー連携も組み入れる。ちなみに連携が無理って言った奴等を使う事は二度と無い……邪魔なだけだからね!それだけの敵が最後のボスだ……いいね?此処から先はかなり飛ばすよ……」


 そう言ったエクシアは僕の方に歩み寄り耳打ちをする……


「さっきの精霊喰らいの魔物が1匹も出てこない……どうにも嫌な予感がするからね。此処からは急いで行った方がいいかもだ!」


 エクシアの指示が終わると、一行は深部を目指して先に進む。


 悪辣貴族はエクシアのダンジョン踏破を甘く見ていた。



 1フロアに関してかける時間は本当に僅かで、どう言うわけか拠点を作らないからだ。



 何時もは拠点を作り安全を確保しつつ、ゆっくり時間をかけて踏破していた。


 貴族達の踏破方法は、1階層を攻略するのに最低でも1日を費やしていたのだ。



 しかしエクシアの歩む速度は、尋常じゃないほど速い……僅か短時間で2階層降りて7階に到着したからだ。


 貴族達にしてみれば新記録どころの話ではない……


 しかし冒険者達は……と言えば、通路罠の仕掛けを見破れない冒険者は、即時後続パーティーと交代させられた。


 一人のヘマで、此処にいる全員が全滅する恐れがあるからだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「アンタ達……通路の罠も見破れないのかい?全くチャックを見習いなよ……アイツあれで銅級資格なんだぞ?全くどうなってんだ銀級だろうアンタ達?……次のグループ!シーフが居るパーティーは今すぐ前に来な」



「すいません……もっとスキル磨きます……」


「エクシアさん!次は自分たちが行きます。パーティー自慢のシーフですから」



 通路探索を任されたパーティーは、エクシアの怒声で次々とビクつく……



 もはやエクシアは、このダンジョンで魔物より怖い存在だ。




「シーフは常時罠探知、仲間は周囲警戒を怠るな。それでヒロ……地図の方向どうだい?8階層への階段は右の扉から進入?それとも左の道の奥?……」



「エクシア姉さん……左には魔物が居ますよ?数は4……いや8?……10……奥が割と広いみたいですね……」



「ベロニカ、ありがとさん。おい索敵班。何やってんだ!?索敵報告はどうした?下層の魔物は雑魚じゃないんだ。見つけたら即報告だって言ってんだろうが!」



「「「す……すいません………」」」



 せっかく自慢のシーフが仕事を確実にこなしているのにビビって声が出ない冒険者達はエクシアに怒られ、そして仲間割れをはじめる……



「おい……俺の索敵範囲狭いんだからお前ちゃんと遠く見ろよ!」



「奥に居るって今報告しただろう?リーダーはお前なんだからちゃんと言えよ!」



「エクシアさんって怖いですよねー?私にバッグ放り投げて『銅級だから大人しく』って言うんですよ?あんなんじゃ怖くて言えませんよね?」



「え……いや……それは………」



「おい!アーチ和んでんじゃ無いよ……マッタク……」



「エクシア姉さんが怖いんですよ!良いですか?怒られると萎縮するんです!!髪は赤くて所々オレンジ色だし……。あんな鉄の棒で魔物ど突いてたの見たらびびって言えませんよ!って言ったんですよーー」



 そう言ってアーチは、あっかんべーをする。



「いや自分達は……そんな事……」



「お前達……『エクシア相手でも遠慮するな』ってアーチちゃんが目の前で今言ったんだろう?何聞いてんだ?」



 テイラーがそう言うとエクシアが笑いはじめる。




「アンタ達……アタイが言うくらいでビビってたら、最下層では戦えないよ?」



「ああ!その通りだぜ?ニンゲン共……だよな?ヘカテイア」



「ちょっと、マモン!!寄り道って言うからどこかと思ったら……。なんでこんな場所に?」



「契約者と繋がってるんだぜ?俺達は?美味い匂いがするからに決まってんだろう?」



 そう言ってマモンは奥の通路を指さす。



「アッチにアンタ達が探している奴がいるぜ?数は12個体。穢れに取り込まれて自我崩壊してやがるな……まぁ探し物には違い無いだろう?穢れを俺にくれるならアイツ等を元に戻すぜ?そういえば文句を言ってたヘカテイアは要らねぇのか?」



「要らないなんて言わないわ?あのね、マモン……私はそんな事いつ言ったのよ?此処まで戻されて独り占めとかされたら……アンタその身体バラバラに砕いて殺すわよ?」



 突然黒穴から現れた美男美女の二人組に、悪辣貴族は驚きが隠せない。


 僕は注意を怠ったせいで、彼等の目の前に超危険な存在を放ってしまった。




「折角だから私からも言うわ。向こうにはあなた達が大好きなお宝も有るわよ?この周辺には金鉱脈があるから、それがダンジョンの一部になったみたいね……。貴方達光物大好きでしょう?」



 ヘカテイアのその言葉に貴族は『是非向こうへ行こうじゃ無いか!我々は稼ぎに来たのだからな!!』と言う。


 運が良いのか悪いのか、地図が示す下層階段の方向も同じ方面だ。



「エクシアさん、下層階への方向も向こう側です。なのである意味約束も守れるし丁度いいと思います」



「だとさ!アンタ達ついてるね。お目当ての物が手に入るかも知れないよ?」




 貴族達は期待を込めてヘカテイアに詳細を聞こうとするが、貴族の半分は彼女の魅力に気を取られ関係ない方に話が向いている。



 それを見たエクシアはカツを入れる。



「おい!馬鹿貴族共……アンタ達アタイが言った事を理解してなかったのかい?儲けさせるのは事のついでだって言った筈だ。ヘカテイアにマモン、アンタ達も一緒に来るならヒロじゃ無く、私のルールでやって貰うよ!ロズにベン、今からはアンタ達が前衛だ気合入れ無いと死ぬよ!」



「「オウ!」」



 ヘカテイアとマモンは確かに言ったのだ……『自我が崩壊した探しもの』と。


 だとすれば間違いなく精霊だろう。


 それも個体数が多い……下層から此処まで上がってきたとなれば、いったいどれだけの精霊が穢れの餌食になったのだろうか……




「ロズにソウマ……タンクのアンタ達には期待してる……でも絶対に油断すんじゃ無いよ?じゃあ行こうかね……」



『ニグゥゥゥ………ブバァァァ………』



 エクシアがそう言った瞬間、背後の壁から巨大な顔が浮き出て、前に歩み出るエエクシアに噛みつこうとする。



 それに運良く気が付いた僕は、咄嗟に前に走り出しエクシアを突き飛ばした……

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