第705話「小型竜巻サイズの塵旋風に逃げ惑う冒険者」
ちなみにウィンディア伯爵が参加していても、この領地の領主なので取り分は決まっている。
だから既にその分は分配率からは差し引き済みなのだ。
更に彼等悪辣貴族は、薔薇村のマジックテントとジェムズマインのトロールテントの件を既に調べていた。
それは間違った解釈だったが、詳細が彼らに分かるはずもない。
それに報酬を得る可能性が増えた今、彼等には全てが喜ばしいことだった。
しかしテカーリンは貴族達に『まだ話の途中ですので、ご静粛に!』と言って話を続ける。
「本来、ウィンディア伯爵様は街の治安維持で遠征には行くべきでは無い。だが、この街の前任管理者であったザムド伯爵様がウィンディア伯爵様の補佐を行う。帰還する間は街の運営に携わることになった。遠征と街の管理者は不在にはならない。冒険者達は安心して遠征に向かう様に!」
そうテカーリンが詳細を告げると、冒険者達も安心し始める。
管理者である領主が参戦して死んだ場合、報酬が有耶無耶になる場合が多いのだ。
「それでは、ジェムズマイン領主管理地である鉱山迷宮への進行を許可する!第一陣の先発隊は速やかにダンジョンのある鉱山中腹へ向かい、侵入準備をする様に!」
そう言われた銀級冒険者達は我先にと、ジェムズマインと高山を繋ぐ貴族専用の道へ馬車を走らせる。
本来ダンジョン遠征では準備が整った順に隊列を作る。
その順で侵入を開始して後続の通路を確保するのだ。
誰よりも先に侵入すれば、それだけ多くの魔物と戦う事になる。
だが収穫の面で見てみれば、中途半端にダンジョンへ入るより確実に多い。
それに防衛戦では他の冒険者に比べて、自分達に有利な場所を選べるのは間違いが無い。
今回は踏破が目的の大遠征なので若干違いがあるが、ルールはさほど変わらない
暫く進むと冒険者の荷馬車が多く停車していた。
先に着いた全員が、異様な光景を見て馬車を進めようとはしなかった。
その様を見たエクシアが絶句する。
「なんだい!?アレは……旋風?いや……竜巻か?うぉーー!!危ねぇ!って……なんか飛んで来たよ……って……ロックベアーの首!?」
鉱山中腹の開けた場所に着くと、夜のうちに配置したゴーレムが既に魔物と戦っていた。
配置したゴーレムは人型2体と伯爵考案円形ゴーレムが1体の合計3体だ。
石材工房で作るペースは早くは無い。
時間の関係で間に合ったのがこの3体だった。
そしてその人型のゴーレムは、主にゴブリンやオークと戦っていたが、その相手は鉱山付近を寝ぐらにする野良ゴブリンとオークだった。
鉱山付近は横穴や洞穴が多いので、ゴブリンやオークが好む場所のため平野より多くいる。
伯爵考案の丸いゴーレムがいない……と思ったらどうやら竜巻の中心部がそのゴーレムのようだ。
飛んで来たのはロックベアーと言う大型のクマの魔物の一部だった。
どうやらロックベアーは少し前に竜巻に飲み込まれ、斬り刻まれ部分的に放り出されたようだ。
竜巻の中心にはクレイモアをぶん回し、塵旋風を巻き起こす奇妙なゴーレムが居た。
伯爵は特注の大型クレイモアを両手に装備させた為、ゴーレムはそれを扇風機の羽根のように回転させたようだ。
その結果足元の小石や砂を巻き上げて旋風の様な状態を作り出し、今はその規模が大きくなって小型の竜巻の様になっている。
伯爵達は面白半分で、かなり危険な物を作り出したようだ。
ちなみに、ゴーレム達はそれぞれの戦闘範囲に分かれて行動している。
魔物反応に応じて、一番近いゴーレムが接敵するように命令をインプットした。
だが人間が近くにいる場合は、回るゴーレムは停止する命令を追加した方が良いだろう。
「ヒ……ヒロ男爵!?アレはなんだ?私たちの設計したゴーレムに何をした?」
「寧ろ僕が聞きたいですよ!!脚をなくして球体にしたせいで回り始めたみたいです……更にあのクレイモアは不味いですよ……」
「見た時点でそんな事はこの私でもわかるわ!!何故回転しているのかと言うことだ!!何を命令した?」
「僕は何も教えてませんよ?両手に持たせたせいで回転攻撃を覚えた様です……まぁ剣を振るより、あんな風に回転しながら薙ぎ払った方が効率が良いんでしょうけど。一番効率よく戦うのは当然でしょう?そう設計したんじゃ無いんですか?」
「ま……待ってくれ!!アレはまさか……私達が原因と言うことか?」
ウィンディア伯爵がそう言うので、細かく説明する。
「なんと……ヒロ男爵の所為で私達も常識から外れた物を作り出してしまった……非常に不味いぞ。こんな凶悪な物を作り出したと陛下に知られたら……王家に逆心ありと疑われてしまう……」
そう青ざめて言うウィンディア伯爵だったが、よく考えると王都のゴーレムより遥かに危険なゴーレムだ。
王都のゴーレムが持つ武器は、岩の塊を剣に加工した物だ。
しかし此方のゴーレムが持つ武器は、大振りのクレイモア……肉厚な鉄の刃だ。
刃の厚みは異常な分厚さで、それを鋭利な刃になる様に研いである。
多分フルプレートメイルでもいとも容易く両断するだろう。
「問題はクレイモアじゃなくて、回転で起きる副産物の竜巻ですね……あれはヤバい……まぁ竜巻というより塵旋風でしょうけど……」
僕がトドメを刺す様に言うと、ウィンディア伯爵は『どうしよう……帝国に知られたら……絶対もめる……』と言って現実逃避をしていた。
僕は念話で命令を出し、円形ゴーレムの動きを止める。
急に止まったゴーレムから竜巻が離れていく……
ゴーレムは両手のクレイモアのお陰もあり、かなりの重量があったので浮かび上がることも、飛ぶ事もなかった。
しかし魔法では無い竜巻は、ゴーレムが止まっても消えることは無い……
「逃げろ…………ウォォォォ!やべぇぇ………竜巻がこっちに来るぞぉぉぉ!!」
一番近くにいた銀級冒険者が荷馬車を捨てて逃げてくる……
竜巻は一瞬こっちに向かって進んだが、鉱山の地形が助けになったのか僕達から離れていき鉱山の岩肌にぶつかる。
しかし岩肌にぶつかると激しい轟音を音を立ててその姿を消した。
竜巻が家屋に接触する時の恐ろしさがよくわかる……それだけ破壊力は大きかった。
雲を纏ってないので竜巻では無いが、此方の世界ではその区別などは曖昧だろう。
現に皆は『竜巻』と言っているのだから……
しかし竜巻でなくて良かったと思う……自力でそれを起こせるゴーレムなどまさに凶悪な天候兵器だからだ。
ゴーレムの居た場所を見ると地面がツルツルになっている。
石同士が擦れ合いそうなった様で相当な摩擦だったのだろう。
しかしこれは、表に出してはならない物だ。
塵旋風なら人為的に起こせるゴーレムが作れてしまったのだから、大量生産して対人兵器にしたら人が吹き飛び大変なことになる。
ちなみに塵旋風は地面を擦った熱とクレイモアの羽根が起こす風、それらがこの塵旋風を起こしたのだろう。
ちなみに周りの冒険者達は肉眼で確認はできないが、塵旋風を見た瞬間の風っ子は『非常に力強い良い風だ』と大喜びだった。
それはそうだろう……皆が命の危険を感じる風量と破壊力だったのだから……
「皆さんもう大丈夫です。見ての通り『伯爵達様考案』の円形ゴーレムが発生源でした。地面が起こす摩擦熱と両手にクレイモアを持ち回転する事で風を起こした結果、さっきの塵旋風を作った様です。今は動作を止めたので塵旋風はもう起きません。なので各自の荷馬車へ戻って大丈夫です。速やかにダンジョンへの侵入準備をしてください」
周囲の冒険者達は『何してくれてるんだ』という顔でウィンディア伯爵を見るが、伯爵にしてみればこの運用は想定外だ。
悪辣貴族はそのゴーレムの権利を譲ってもらえないかと伯爵に躙り寄り、伯爵は僕が暴露をした所為で白目になっている。
その話を聞いて一番強い反応を示したのは、エクシアだった。
「伯爵様……アンタもとうとうこっち側か……ヒロと長く付き合いすぎたね?ご愁傷様……」
そう笑うと馬車を丸いゴーレムの真横につけ『ヒロはこれに用事があるんだろう?さっさとやっちまいな!』と言う。
流石エクシアだ……話が早いと感心してしまう。
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