閑話『trick or treat」2


「「「お待たせしました!!」」」


 凄い勢いで帰って持ってきたらしく各商団『5箱の木箱』に詰まったスライム芋を納品してきた。


 合計15箱だが問題はない……あっという間になくなるだろう……



「ゼフィ頼みたいことがあるんだけど……魔力容器の中に炎を充満させて貰いたいんだけど?」


 僕がそう言うとすごく不思議そうな顔をする……魔力容器には小石が詰まっているからだ。



「良いけど中に何かが入ってるわよ?石?」


「溶かさないくらいの熱でお願いね、石を焼いてそれでお芋焼くんだだから溶けちゃって溶岩は困るんだよね……そもそも溶岩だと容器持たないかもだし」



 ゼフィは『石が赤くなるくらいで良いかしら?』と言って手加減して炎を容器内に吐く……


 するとあっという間に石が焼けて準備が整う……もっと時間がかかると思ったがそれこそ一瞬に近い。


 腐っても火龍だと言うことだ……腐ったらドラゴンゾンビかも知れないが……



 焼けた石を密封してから中の容器を二重にして、芋をどんどん放り込む……そして内側容器に細いスリットを開けて熱が届く様にする。



「貴方って本当に不思議なことをするわね?炎で焼いた方が早いんじゃない?」


「ゼフィランサス様これは落ち葉焼きと同じですな。程よい熱が甘さを際立たせるんですじゃ……まぁそれを石でやろうとは思わなんだですが……。ヒロは本当にアイデアを沢山持っているので羨ましい!」



 お爺さんも副職としてやれば良いのに……と思ったので僕は石を使わない時は好きに使って良いと言うと、お爺さんは『お言葉に甘えて宿前で販売しようかのぉ……』と言う。



 その代わり30kgの石は、宿の裏口に置かせて貰う約束を取り付けた。



「ヒロ!またお前が何かをやらかしたと聞いたぞ、ハロウィンだと?準備が大変じゃないか!だが良い企画だ!スラムの子供達も喜ぶし、孤児院の子は言うまでも無いな!用意は……………オマエ……何をしてるんだ!?オレ達の準備が霞むからやめてくれ!!」



「ヒロさん準備が………って!何してるのよ!何箱……ひぃ……ふぅ……みぃ……15箱!?それも焼き終えてる……」



 ギルマスを連れてきたのはミオじゃなくイーザだった。


 ミオはどうやらこの企画の発案者として奮闘中らしく、替わりにイーザを伴ってギルマスがお礼に来たそうだ。


 そしてこの箱に至ると言う訳だが……



 悪魔っ子には5箱を王都の孤児院に届けて貰う約束を既に取り付けた。


 残り10箱をミオにお願いして、ギルドで捌こうかと思っていた。


 だが予定外にも、上手い事に向こうから来てくれた訳だ。



「貴方これ美味しいわね?炎で焼くのと石で焼くのはこんなに違うの?」



「ゼフィ!ワテクシにも下さい!!お芋は大好きです!生でも森で探して食べてますのです!!」


 既に言葉までおかしいエーデルワイスに僕は2本渡すと、エーデルは皮も剥かずにそのまま齧り付く……



「ホックホク!山火事で焼けたお芋と同じくらい美味しいわ!!」


 エーデルワイスが言う例えの物騒さは段違いだ……山火事で生き残れる生き物はそうそう居ないのだから……



「ギルドへの配達ですけど………」



「ああ、こっちでやるさ!こんな良い匂いだから皆の目を引くだろう……ギルドとすればこんな美味しい仕事はない!イーザ荷馬車の………」



「話はしっかり聞きましたぞ?是非、私共がお運びしましょう!我々が持ち込んだ『スライム芋』の試食は……」



「じゃあ皆さんで1本ずつ食べて良いですよ?代わりにお手伝いと言う事で……」



 何故か更に箱から1本取り出すエーデルワイスは、尻尾を生やし器用に刺していた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 マッコリーニ達に一足先に持ち込んでもらった。


 僕はその間に周囲を片付け、水魔法で石を冷やす。


 宿が延焼などしてしまうと困ってしまうからだ。


 ユイナの準備が終わったら、悪魔っ子にお芋とお菓子を渡し院長先生への伝言の手紙を必ず渡す様に言う。


 当然女子チームが作ったお菓子も孤児院に渡される……アーチの古巣なのだ当然で忘れる訳は無いだろう。



 其れ等が終わった僕達は、外出準備をしてギルドへ向かう……



「トリック・オア・トリート、食べ物くれなきゃ悪戯するよ!」



「ひゃぁ……じゃあお芋あげるからイタズラは勘弁してください!」



 メイフィとコーザはコントの様に驚いてはスライム芋の焼き芋を配っていた。


 どの子も薄汚れていて、粗末で穴が空いた洋服を着ている。


 しかし今だけは幸せの笑みを浮かべているので、少しは役に立った様だ。



「大成功だな?ヒロ……」


「そうですね、テカーリンさん。少しはあの子達もお腹が膨れると良いんですけど……」



 僕達がしんみりとして居ると、そこの現れたのは龍っ子にゼフィランサスそしてエーデルワイスだった。



 3人とも何故かまた焼き芋を持っている。



「楽しいわぁ!こんな催しは良いわね!」


「ワテクシは幸せ!……はぐはぐ……お芋美味しいわぁ………もぐもぐ……この甘く濃厚な味が最高!!」



「ママもエーデルワイスも大喜びよ?流石私たちのパパ。じゃあママとエーデル行きましょう!!」



 僕とテカーリンは『はて!?』と思う……まさか2週目!?と思ったが、状況はもっと酷かった……


 彼女達は『ハロウィン』が人間の催しと思っていたのだ……そのまま『何処か』へ向かう気なのだろう。



 しかし思い当たる場所は1箇所しかない……僕の管轄する『薔薇村』だろう……



 僕とテカーリンがそれを理解したのは、彼女達が人の姿まま背中に羽根を生やし飛び上がったからだ。



 既に声が届く高さでは無い高さまで急上昇する3人は、薔薇村ではなく『王都』に向かい始める……



 そう……悪魔っ子と僕の話を、耳聡く聞いていたのだ……



 もはや今となっては『トリック・オア・トリート、食べ物くれなきゃ……滅亡させるぞ!?』にならない事を祈るしかない……



『ここからは……龍っ子目線』



「ママ!もうすぐ王都のあたりだけど、人が多くお城の外にいるよ?」



「あら?本当ね……あの虫相手に苦戦しているのかしら?」



 娘の報告でその周辺を見渡すゼフィランサスだったが、既に三匹とも人間の形ではなく完全な龍の肉体で飛んでいた。


 飛行するのは人型でも問題はないが、魔力の燃費が悪いからだった。



「ゼフィランサス……良いかしら?彼等があそこで戦ってたら『ハロウィン』どころでは無いのでは無いかしら?」


「エーデルワイス、貴方なかなか分かってるわね?城から半日って距離だから早く終わらせないと『ハロウィン』が出来ないわね……私達で蹴散らしましょう!」



「「賛成!!」」



 ゼフィランサスの一言で、戦線が崩壊して阿鼻叫喚の地獄絵図になるとは、この時三匹は思いもしなかった……



『ズドォォォン』



「な!何が…………りゅ………龍種!?何故此処に!?………」



「隊長!避難指示を!!今すぐ!!」



 誰とも知らない『隊長』はすぐに指示を出す……



「全員避難!!竜種の攻撃に巻き込まれるな。全員意識を保て……さもなければ死ぬぞ!!」


 龍種の威圧は人族に影響が大きいので、ゼフィランサスは二人に威圧禁止を指示していた。


 そのおかげで意識こそ保ってられるが、怖いことには変わりはないので『恐怖』の異常ステータスになっていた。



『ゴアァァァァァ!!』



 ゼフィランサスは何の前触れもなく目前のトンネルアントの群れにブレスをお見舞いする……


「早く貴方達はお城にお戻りなさい?『ハロウィン』が出来ないじゃ無いの……こんな虫相手にしてたら」



 突然ゼフィランサスに話しかけられた隊長は、驚き過ぎて声にならない。



「隊長!すぐに避難を……戦線が崩壊してもう維持できません……王都へ一度退却を!!」



「人間達よ!此処は私たち、緑龍エーデルワイスと火龍ゼフィランサスそしてその娘に任せておきなさい。貴方達は王都へ戻り『ハロウィン』でもしてるが良いのでは無くて?」


 そう言った後エーデルワイスは、酸のブレスをトンネルアントに向けて吐き出して一瞬のうちに壊滅させる。



「エーデルワイスが言った通りよ、弱い貴方達は城で『ハロウィン』でもしてなさい!何故かと言えば今日しかハロウィンは出来ないのよ?こんな所で虫相手に時間を使う事は無いでしょう?」


 龍っ子もそう言うとトンネルアントの群れに突っ込んで行き、火龍無双を始める……


 炎を使わないのは接近戦の修行なのだろう……



「全員避難、王都へ転進!!到着後手分けしてすぐにハロウィンを調べろ!!いいか、龍族が知っている『ハロウィン』をせねば我々の命は無いものと思え!!」


 隊長の命令で本陣に逃げ帰る兵士達。


 これがきっかけとなり『ハロウィンの恐怖』が世界中に知れ渡る、最初の日となった……

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