第673話「狼狽する伯爵2名……消えたドワーフの姫」
「ヒロ……すまんドワーフの姫二人と戦士団の行方を知らんか?」
ザムド伯爵様の第一声がそれだった……
「知りませんけど……何かあったんですか?まさか……襲われたとか?」
「いや忽然と姿を消したのだよ……昨日から帰っていないんだ。一度真夜中にこの宿まで来たんだが、泊まってないし、そもそも見ていないと言うのでな」
ザムド伯爵がそう言うと、僕が口を挟む前にウィンディア伯爵も話し出す。
相当心配なのはこの町の領主であり、身の安全をドワーフの王様に進言しているからだろう。
「ザムドの言った通りなのだが、今朝になっても姿を見せんのだ。街にいるとばかり思ったのだが何処を探しても見つからんのでな……ふっと姿を消すなら、心当たりは此処しかない……と言うことになってな」
酷い言い方だ……まるで僕がお化けの様に……煙じゃないから消えるはずも………『煙』!?まさか……薔薇村の『鍛冶屋』の炉を作るために抜け出したのか?と思う……
「伯爵様……二人とも居なくなったんですか?」
「うむ……2人共だ!綺麗さっぱり街におらんのだ。何か心当たりでも?」
「鍛冶屋に行くとか……なんとか言ってませんでした?」
「ウィンディア……知っているか?」
「それはさっき話しただろ?鍛冶屋に行き『炉』の話し合いに行くと言った限り、いつまで経っても帰ってこないのだ。だから方々探し回ったではないか?」
僕は頭を抱える…………
「「お前!!その素振り……何か知ってるな!?」」
「薔薇村で『ドワーフ炉』と鍛冶場を作る話を彼女にしたんですよ。一応基礎工事が終わって、建てる準備が出来たと。だから急ぎの仕事が終わったら、そのうち一緒に行こうと!でも勝手に行くなんて……」
僕はありのまま伯爵二人に告げる。
「薔薇村の鍛冶屋か!!ウィンディア!もしかすると……もしかするぞ!?」
「それは盲点だ!たしかに……彼女達は考えそうだ!!ドワーフ炉が欲しいと言っていたのは確かだ!数日鍛冶屋で喧嘩して帰ってきていたが……先日は帰ってきてすごく機嫌が良かったのだ。とうとう説き伏せたのかと思ったが……『薔薇村』か!こうしてはおれんぞザム!急ぎ向かうぞ!」
ザムド伯爵は『うむ!すぐに準備して行くぞ!騎士隊をすぐに編成せねば……先に向かうぞ、ウィン!』と言って出て行く。
「亭主スマン。昨日から色々情報提供で世話になった。これは礼だ」
そう言って金貨10枚が入った袋を宿の亭主に渡し、ウィンディア伯爵もザムド伯爵の後を追う……
「ヒロ兄貴?今日は薔薇村に行くのか?」
それを聞いていたのか、食堂で何故か飯を食べていたロズが言う……
「ロ……ロズさん?なんで此処で?朝飯を?」
「ああ?亭主とは仲が良いんだぞ?毎日此処で飯食ってるしな……今更もなにも……だよな?爺さん?」
「ああ、そうじゃぞ?ロズはかなり前から食ってからファイアフォックスに行っておるからな?此処に昔泊まってた常連じゃ……今はタダ飯ぐらいに来るがな?はっはっは……」
それを聞いたロズは『食材は買って渡してるじゃないかよ!裏の畑だって主な力仕事の労働力は俺だろう?』と言う。
それを聞いた僕は『だからあの広い畑を維持・管理出来ているのか!と感心する。
飯でロズを上手く使いこなす『ひだまり亭の亭主』は、なかなか食わせ者だった。
「なぁ!薔薇村に行くなら俺も行くぜ?ハウンドのところの『テリアが行きたい村』って言ってたからよ、一緒して良いかい?ヒロ兄貴?」
どうやらロズには春が来ている様だ……しかし行くなら龍っ子の背中のライド・オンだが……大丈夫だろうか?
「龍っ子の背中だよ?平気?だったら良いけど……時間的にさ……」
「ああ、そう言う意味なら平気だよ。俺達は馬車でいく筈だ。ファイアフォックスのメンバーを拾って来る仕事もあるからな、折角行くなら丁度良いからさ」
「じゃあ馬車だけ用意してグローブで回収しようか?そうすれば龍っ子で一緒にいけるじゃん?」
「おい!ヒロ………ロズの邪魔すんなよ……」
「ソウマの言う通りよ?気が付かないにも程があるんじゃない?」
「「「「そうだ!鈍感!!」」」」
そう言ってきたのは、階段で聞き耳を立てていたソウマとユイナに、まるで一つの生き物の様な動きをしている4人組だった。
「お!お前ら……」
「ロズさんいる?ファイアフォックス行ったら、まだ朝早いから此処だろうって……」
そうロズが一言話したと同時に、宿の入り口を開けて入って来るテリア。
ロズは彼女を見ると、一気に口にパンを詰め込みスープで流し込む。
「おっちゃん、ご馳走さん!じゃあヒロ兄貴『薔薇村』でな!」
「あ、ヒロ男爵様に皆さん!全員がこの宿だったんですね?おはぁぁぁぁぁ…………あうあう………」
そう言って、テリアの手を取って出て行ってしまう。
『あうあう』と言いつつテリアは、挨拶も中途半端に連れて行かれた。
「確定ね!あれは間違いないわ!ロズは今……春爛漫よ……」
ユイナの一言でヒートアップする女子達……
「あーちゃん!あれは監視対象1号です!」
「みんちょちゃん間違いないわ!恋愛バスターズ……今活動よ!」
「ダメでしょう?バスターしちゃったら!」
「ミクちゃん、あーちゃんはおっちょこちょいだからこれがデフォルトだよ?」
最後のミサの一言で幕が降りたのか全員がテーブルに向かい座る。
「早く食べて、揶揄いに……じゃ無かった!応援に行きましょう!」
「「「「あーちゃんに賛成!!」」」」
どうやら彼女達も薔薇村に行く様だ。
難しい顔をするのはソウマだけだったが、ベロニカが朝ご飯を何故か宿の食堂に食べに来たことで、それを境に『ターゲット』に変わっていた。
当然、食事を流し込んだソウマは、二階に『用事も無い荷物を取りに逃げた』のは言うまでもない。
ベロニカの話ではもう数回デートをした様だ……
そうこうしていると、今日も衛兵長と衛兵数名が僕を呼びに来る。
「ヒロ様!すぐに!すぐに正門へおいで下さい。ヒロ男爵様の娘さんと奥様が!!今日はケルベルスを狩ってきたのです……急に空からケルベルスが降ってきて皆が大パニックを………今すぐ正門へ!!」
オオカミ肉は最近良く食べているけど……オルトスに加えてケルベルスとは……
そう告げる衛兵の横に呑気に背伸びをしながら歩いてくる、ゼフィと龍っ子。
「あら!おはよう。早起きね?アナタ。今日はケルベルスを狩って来たわ!あの子ってば、戦いのコツをアナタと一緒に学んだそうよ?あっという間にケルベルスのコアを抜き取ったの!勇猛果敢な姿を見せてあげたかったわ!」
「そうなの!!私ね、爪の攻撃をパパッって避けて噛みつきをササッって避けて、頭の一つに埋まってたコアをガシ!って引き抜いたのよ!パパ、スゴイでしょう?」
そう言った龍っ子の腕はまだ血に濡れてた。
「スゴイのは分かったから手を洗いなさい!龍っ子は女の子でしょう?手がそのままだとダメだよ?血で真っ赤じゃないか!」
ソウマとユイナは『そうじゃない!!問題はそこじゃない!』と言っていたがこの二人の基準を人間に当てはめて考えてはダメだ!
と思ったら、問題は僕だった様だ。
『血で真っ赤じゃないでしょう……こんな小さいうちから、どんなモンスターハンターに育てるつもり?』とユイナに言われて、僕は聞こえないふりをして正門へ向かった。
日頃からいっぱい異世界食品を食べている悪魔っ子や龍っ子は『非常識』の数値が爆上がりなのだ仕方がないだろう……と言うことにしておこう。
僕はひとまず正門へ向かうと、安定的にギルド解体部門のバラスとテカーリンにデーガンそしてミオが居た。
僕を見るなりギルマスは……
「オイ……オルトスにギガンテック・ブラックマンバ………今日は『ケルベルス』ってなんだ?18メートルの成体だぞ?」
ギルマスの言葉に『うんうん』と頷きながら近寄ってくるバラスは……僕の肩を掴んで……
「おいヒロ!いいか、このケルベルスは解体が難しいぞ、よく見ろ、頭が三個あるだろう?だから上手く切らないと素材が変になっちまう……」
「バラス!?そうでは無いだろう!!」
ギルドマスターに言われて『ハ!』とするバラスだったが、目は既に『解体したい!解体したい!解体したい!』と訴えかけていた。
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