第672話「人工ダンジョンの場所と数」


「魔法って『覚えれば使える』物でしょう?マリンちゃんとデービスくんだって、悪魔っ子に習って使えているんだから。悪魔っ子は誰かに教えて貰ったのかもしれないじゃん?そもそもヘカテイアは悪魔っ子では無いよ?」



「でも院長先生は怖い人だって……ヘカテーは御伽噺では悪者だったよ?」



「まぁヘカテイアは怒らせると怖いけど、ちゃんと話せば無茶はしなそうな感じなんだよ?言葉遣いの割に相手を気にかけてるし……。それに意外と面倒見のいいお姉さんだしね?」



「お兄ちゃん知ってるの?ヘカテーの事?」



 つい知っているので、ありのまま話してしまう。


 僕は慌てて魔法の話から手に入れたスキルの話にすり替える。



「ああ……まぁね……今日僕はヘカテイアのおかげで、ダンジョンでレジェンドスキルの『拡張』を手に入れたんだよ?毎日誰しも何かを覚えて賢くなるんだから、昔の情報は当てにならないよ?僕がそのうち悪魔っ子と同じ様に、魔法を全部覚えて使えるかもしれないでしょう?だから御伽噺で悪者だったヘカテイアは、今の彼女を知らない人が書いた事なんだよ!きっと!」



「お兄ちゃん、スゴイ!私レジェンドスキルなんか持ってないのに!!お兄ちゃんスゴイねー。やっぱりお兄ちゃんだねー!レジェンドスキルかーいいなぁ……明日マリンちゃんとデービスくんに自慢しよう!私のお兄ちゃんがスゴイって!」



 しまった……王都でそんなことが子供達から貴族にバレたら、酷く面倒なことになってしまう……


 僕はひとまず悪魔っ子とご飯にしながら、その事を『妬まれて面倒になるから』と言って内緒にする約束をする。



 悪魔っ子は『妬まれたら嫌だよねー。嫌がらせされたら……また住めなくなっちゃうのも嫌だから……じゃあ黙ってるー!』と言ってご飯に意識が向いていた事もあり、呆気なく了承をしてご飯を頬張っている。



 その後ミクとアーチが降りて来てご飯にすると、ユイナとカナミも降りて来てワイワイと団欒が始まる。


 当然小さい少女の姿をしている悪魔っ子を皆が可愛がるので、悪魔っ子も上機嫌だ。



「悪魔っ子ちゃんは今日はお泊まり会?」



「今日はないよ?なんで?オネェちゃん……」



「じゃあ今日はお姉ちゃん達と寝ようか?」



 アーチは孤児院の事を思い出したのだろう、一緒にお泊まり会をする事を勧める……


 どうやら悪魔っ子の今日のお泊まり会は『女子部屋』に決定の様だ。



 悪魔っ子は僕をじっと見ているので『どうぞ!』と言う素振りをする。



 早めにご飯を食べた僕は先に風呂を済ませて部屋に戻る……


 当然『倉庫』で買ったカップ麺などの変質調査が必要だ。


 しかし、見計らったかの様に連絡が来る……アーティファクトだ。



『用意が既に整いました!今は平気ですか?マイ・マスター』



 出来る子アーティファクトの返事が返って来た……どうやら話せるタイミングを見計らっていた様だ。



『アーティファクト、今は平気だよ!もしかして話して構えない事がわかるの?』



『はい、マイ・マスター。マスターとコアが完全に連結した為に、多少遠方でもマスターの身体状況に異常が無ければ把握することが可能となります。距離にして150km迄であれば『遠隔操作コアの範囲内』なので応答及び状態確認が可能。』



『成程!さっきマモンから『念話』は思考が全て相手に話が伝わると聞いたけど、アーティファクトが的確に返事をくれるのもその関係かな?』



『いいえ違います。マスターとコアは連結している為、遠隔コアがある場合のみ想定外の思考の流れ込みが起こります。有効距離は遠隔コアから5メートルです。主に意識外のことが多く流れ込みます。意識外である理由は、明確な指示が意識中枢になされていない為です。意識下の場合、常に返答の希望の有無も伝わっています。尚その場合は必要の有無に応じて、解答案を複数用意して返事をする形になります。』



 どうやらマモンが言っていた念話と『ダンジョンコア・アーティファクト』の念話では、仕組みが違う様だ。


 だが今は聞くべきことが別にある。



『ありがとう……それで報告だけど結果を教えてもらえるかな?』



『はい、マイ・マスター!まずダークフェアリーのアーカイブ情報と、以前水鏡村で手に入れた人骨収集事件での3箇所の地図情報を照らし合わせた結果、同一箇所と判明。うち一箇所は既に破壊済み。その箇所は森精霊の新緑の騎士の依頼箇所と同一です』



 って事は1箇所はやはり踏破済みなのか……と思っていると、アーティファクトは残り2箇所の説明をし始める……



『残り2箇所の所在ですが、一方は平原の3階層ダンジョンで、マスターの予想の通りです。ただし中には投棄されたコア『暴走不具合』しか無く、異世界人及び人族によるコアの制御はされていません。設置時の破損が原因との事です。もう片方はマスターの領地外の国境付近『渓谷沿い』にあります。位置は人族徒歩の場合は最短距離がこの街より10日の位置です。馬であれば歩行可能な道がない為、迂回路を使わなければ到着出来ず所用日数が8日かかります』



『3箇所目の方だけど、そのコアに……人族は?もう取り込まれている?』



『設置時の情報は有りますが、その後に別個体のダーク・フェアリーが管理しているので『不明』。ダークフェアリーの管理情報は同種族であっても『相互関係が無く』種族内でも開示されていません。確認は実際に現場へ行く、もしくは該当するダークフェアリーを捕まえる必要があります。尚、そこを管理するダークフェアリーは不明で、あくまで情報としては設置協力止まりです。』



『ありがとう……』



 参った……と思っているともっと困った情報を言い出す……



『ダークフェアリーのアーカイブ情報と、地図を照らし合わせた3箇所は以上となります。その他に44箇所の人工ダンジョンが作られています。そのうち『ダークフェアリー・個体名称、アカナイタム』の管理ダンジョンは今の地図の箇所以外に8箇所です。情報は緯度と経度の座標になりますが、情報を読み上げますか?YES………NO』



 もう驚くしかない数のダンジョンだ……


 その情報を読み上げられても、土地勘がないので場所が分からない……それにとても一人では踏破など無理な数だ。


 僕はひとまず自分の足元について聞くことにする。



『アーティファクトに質問、僕の所持する領地内でその8箇所に該当する部分は?』


『該当がありません。人間の扱う地図情報と照らし合わせた結果、座標8箇所全てが領地外となります。尚、コアへの異世界人及び人種の主な運び役はアカナイタムでは無いので、現時点でダンジョン内に人族が居るかは不明です。最古の情報で67日前に無人である情報がアカナイタム・アーカイブとして残っています。尚アーカイブには『魔物での動作チェック完了』との記録があります」



 僕はそれを聞いて少しほっとする。


 鉱山遠征前に、これ以上大きな問題を抱えたくないからだ。



『ありがとう。少し考えてまた連絡と質問をするよ。アーティファクトも休んでくれ』



『はい、マイマスター。情報整理の為休息に入ります』



 そう言ってアーティファクトからの報告が終わったので、時間を確認すると既に23:30になっていた。


 食品の注文だけでも……も思いベッドに寝転んで日持ちする何を買うべきか考えていたら、いつの間にか寝てしまった。


 ハッとして飛び起きると、既に窓から日が差し込んでいて、既に夜があけて朝だった……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『コンコン』



「ヒロさんや?起きてるかの?急用でザムド伯爵様が来てるんじゃが……出来れば起こして欲しいと……」



「はい?丁度今起きたところです。今顔洗ってから下へ降りますね」




 食堂には目の下にクマを作った伯爵二人がいた。

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