第663話「人知れず開始……ガラスの靴争奪戦」


 僕は机の上にあった、コップを取りちょろちょろとフラッペの顔にかける……



「ふわぁぁぁぁ?ぶはぁ!……何を!なさるんです………あら?」



「フラッペさんが気絶して倒れたんですよ!大丈夫ですか?因みに……ガラスの靴の鑑定を依頼したって言うのは……どうやったんですか?ここから王都には7日かかりますよね?帝都になったらもっとでしょう?」



 僕は商人らしい特別な手段があるのかと思っていた……


 しかし話はそんな方向に行くこともなく、フラッペの話で呆気なく答えがわかる……



「今、この街では石像ゴーレムを買えると話が持ちきりだそうで……、その真偽を確かめる為に多くの鑑定士がこの街に来ています。今日第一陣が到着したとかで……右へ左へで……もうそれは凄い事に、折角なのでちょっとした路銀を多く稼ぐ為に出張鑑定もしているんですよ?」



「ああ!だからそんな事がわかったんですか?ですが所詮は出張の如何わしい鑑定士ですよね?」



「いえいえ!私のガラスの靴を見せたら即刻国へ伝書鳩を飛ばすって走って行きましたから!王様がお知り合いだそうで、すぐに再確認をと言われて、鑑定結果を足に結んで飛ばしてましたよ?……所で私も聞きたい事が……」



 困った事に王宮関係者の鑑定士とフラッペが接触した様だ……


 僕もこの能力というか変質を知らずに居たのが失敗の原因だ。



 それも既に王様の側近絡みが内容を知っている可能性がある……


 そして倒れた理由からして、ハリスコとラット商会の団長もガラスの靴の持つ特殊な能力を知っているのだろう。



 しかしフラッペが間髪入れずに問題を大きくする……


「所で……石像ゴーレムってなんでしょう?王都のあの馬鹿でかいゴーレムでは無いですよね?多分ヒロ様が噛んでいるのは間違い無いと推測しましたが?薔薇村付近で前に見かけたので……その鑑定士には伝えておきました!飛ぶように向かって行ったので後で連絡が来ると思いますよ?その際は是非!氷菓屋をお使いいただければ!手間賃は安く致します!!」



 フラッペが話しちゃった様だ……稼働中のゴーレムの居場所を……



「『おい!いつまで経っても連絡が無いが……突入は?入って良いのか?……』ってタコの人が怒ってるよ?良いのこのままで?」


「ああ!スラ、ごめんごめん!今急に問題が……『突入して取り押さえた後、マラライの保護とテムバイ確保を最優先で!』って伝えてくれる?」



「はーい!……チョコ欲しいな……お駄賃……」


 僕はマジックグローブからチョコを3個掴んでスラに渡す。



 すると器用に包装してあるビニールだけを溶かすと、チョコはゆっくり味わって食べるのかじわじわゆっくり溶けていく。



「最近思ったの……チョコは消化液を薄めた方が美味しいって……3個ゆっくり溶かして食べる!……ああ……おいひぃ……あ!伝えたよ?タコの人に」



 スラは小躍りしながら机を行ったり来たりする……相当ご機嫌なのだろう。


 龍っ子はじっとスラを羨ましそうに眺めているので、小皿に分けて龍っ子とゼフィの前に置く。



「貴方……分かってるわね!しっかりと娘の表情が。娘ちゃん良いパパだねぇ?」


「うん!ママ……私幸せ!今日ね沢山魔物ぶっ叩いて来たよ?後ユイナがギガンテック・ブラックマンバを料理してくれたの!すっごくおいしかったよ?」



「「え!?」」


「私……食べてない……」


「私も食べたい……」



 超反応で僕に返すゼフィとエーデル……



「ご飯沢山作ったじゃ無いですか?あれだけ用意したのに?もうお腹空いたんですか?」



「「ハ!」」とした二人は身の回りを探し回る……食べ物を貰った事を今まで忘れていた様だ……



「あはははははははは……お腹空いたのは食べてなかったからでした!」


「あはははははははは……右に同じ……」



 皆の前で食事を始めるゼフィとエーデル……


 龍っ子は、目の前に大量に盛り付けられたご飯を見て我慢できず『ユイナー!!ご飯ーー。お腹空いたー』と言って走って部屋を出ていってしまった。



 しかし壊したガラスの靴に関しては致し方ない……


 それに魅了付きのマジックアイテムになった物など、そうそう一般には販売が出来るわけもない……


 1時間の魅了効果でも、『禁断症状』とか言う永続効果が出てしまうのだ……


 もはや鑑定結果を見た時点でアウトな奴だろう。



 だが渡すと言った手前、ガンとしてひかないフラッペだったので、マッコリーニとフラッペに渡した靴から一足だけ渡す事で話がついた。



 王様への献上品話が出てしまっているので、それはもはやどうすることも出来ない……


 僕は回収した4足のうちから『3商団の連名』で出す事にした。



 言い逃れできるスケープゴートは必要だ。



 その話をフラッペとしていると、マラライを連れて戻ってくるテカーリン……。



「ヒロ、その言い難いんだが……帝国の王宮鑑定士と王国の王宮鑑定士が、お前に会いたいとギルドに押しかけているんだが……会うまでは梃子でも動かんと言っているんだ。更に部下を宿にも向かわせたらしいぞ?何があった?ま……まさか……また秘薬を!?いやそれは違うか……そんな情報は貰ってないしな」



「ギルドマスターさん知らないのですか?今王宮ではヒロ様の争奪戦が大変なのですよ?ガラスの靴のお話で持ちきりなんですから!」



 お?新しい情報だが……何故それを先に言わないのだろう……フラッペは……



「それも特殊効果迄齎らすガラスの靴だったので、それはもう……因みに……ハリスコのガラスの靴は?」



「うむ……粉々とまでは行かないが完全に割れてしまってな……まぁ無惨だった……高価だと一眼でわかるが。そんなアイテムを隠し持っていたのか?ヒロは……」



「そ……そうですか?ならば……『値段はもっと釣り上がりますね……』………うふふふふふふふふふ!これで私は王都や帝都に店を構えられそうですわ!……ヒロ様それでは……」



「あ!フラッペさん靴ですが1足はフラッペさんの持っているのを、テカーリンさんに『王国献上品』として渡して、もう一足をハリスコさんに渡してくださいね!じゃないと何かしでかしそうですから!」



 すると『ちぃ』と小さな声が聞こえた……多分何食わぬ顔で売るつもりだったのだろう。



 だがドアの向こうから鼻水を垂らした『ハリスコ』が飛び込んできて、僕にお礼を言い始める。



「ありがどうございまず!ありがどうございまず!………フラッペ……早く!靴を!!早く!!1足は儂の曾孫の結婚祝いにするつもりだったのに……全部がぁぁぁ……良かったぁぁ……縁組が!縁組が無くなるところだったぁ……」



「あ……貴方!?そんな手を?何処の貴族ですか?何処の!!………」



「王様だぁ………王様の娘用に献上する約束で、王の遠い血族に当たる領主様と婚姻が決まったのダァ!……」



 どうやら王様の血族を探してそこに打診をしたのだろう……そしてハリスコの曾孫とその貴族が結婚が決まり、代わりにガラスの靴を献上し、その血族から王様に献上するのだろう……


 まぁそうなれば、確かにぶっ倒れても仕方がない……相手も不敬罪どころの話ではないだろう……



「し……仕方ないですわね………末代まで祟られたら敵わないわ……ハリスコ行きますわよ!……あ!テカーリンさん全てが終わったら、後で氷菓屋の倉庫にお願い致しますね?」


 そう言ってフラッペは帰っていく……



 そしてマッコリーニが代わりに入ってくる………手を揉みながら………


 商人らしいといえばその通りだが、『本当にやっている人が居るんだなぁ……』と思ったが、この動作の時は大概お願いをされている側が居る……


 どうやらその相手はこの部屋では僕しかいない様だ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る