第632話「緊急事態!?殿を買って出るエクシア」
突然後ろから来た貴族が粗相をした……無理を言ってついて来た……ついて来させた……
まったくダンジョンを知らない『欲深く、無知で救いようの無い馬鹿を連れて来てしまった……』とソーラー侯爵は思ってしまった……
よりによって彼等に『動くな!』と言葉を口に出して止める前に、頭で考えてしまった。
だから入ってしまったのだ……転んで入った階層主の部屋から『安全部屋』に二人とも。
この状況に声が出せないソーラー侯爵とリーチウム伯爵……そして『天響の咆哮』パーティーも声を出す前にだ……
『天響の咆哮』パーティーのトラボルタにしてみれば、この状態で次々と馬鹿貴族がこぞって侵入するとは考えてもいなかった。
そして階層主の部屋から何食わぬ顔で戻ってくるとも……
そもそも彼としては貴族の面々は安全部屋に置いて行く気だったのだ。
だから、何が起きているか分からず思考が停止した。
だがルーガ子爵とトール伯爵は、事態の重要さに気がついても居ない。
誰よりも早く声を上げたのはホプキンスだ……
「エクシア!今すぐ仲間と戻って来い!」
来るまで仲良く話して居たホプキンスが、エクシアに大声で警告をする……危険なのは既に分かりきっているからだ。
しかしエクシアの言葉は、予想に反した内容だった……
「無理だ!!そっちにいくにも距離がなげぇし、誰かが尻もちせにゃならん!……そもそもあからさまにヤベェ!これだと多分だが魔物で部屋が埋め尽くされて『スタンピード』が待った無しになっちまう!!絶対に減らさにゃならんだろう?」
「馬鹿を言うな!!死ぬぞ!?」
「アタイだって死にたくはないさ!だがね……街を守るのが『冒険者』だろう?それにここで肩慣らしって言ったのはアタイ達だ!責任は持たんとならないからね!」
ホプキンスとエクシアの会話に合わせたかのように、階層に揺れが起きる……
『ゴ…………ッゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………』
石畳が揺れる……そして所々がひび割れたかと思うと、その割れた破片が浮き上がる……
この階層の異常状態を見ても、何故か僕は落ち着いて居た……理由は簡単だ。
前回この階層で、ダークトロルが現れた事を思い出したのだ……
後で知った情報だったが、トロル王国の兵士だった筈だ……ならば今回呼ばれるのも下手すれば彼等かもしれない……それも多分あの王子だろう。
穢れに巻かれて変異した可能性もあるが、今は遠隔操作コアがある。
万が一彼でなかったとしても、来るのがダークトロルになった彼等なのであれば、遠隔操作コアで『穢れを除去』したら意外と知り合いの誰かかもしれないのだ。
そうなったら、トロルパワーで共に魔物を倒して貰い助かる見込みができる……そしてダンジョン外で待って貰っていれば良いだけだ。
そう思ってエクシアに話そうとするが……想定外にも念話が頭に響く……
『クックック……『またお前達』か?………巡り合わせとは面白いな……今回は最下層ではなく……こんな上か……まぁいい……遊ぶには暇して居たところだからな!」
目の前に現れたのは3匹の『オーガ』だった……それも例の……
「出たのがオーガか。それも3匹……肩透かしだったな此れならば我々でなんとでもなる……、だが人語を話すオーガは珍しい、皆の者十分気をつけろ」
「ソーラー侯爵様、これはレア物の部位が期待できそうですぞ!隊長含め我々にお任せを!」
人語を話す魔物の脅威度を知らない様な素振りを見せる騎士団達……対魔物戦闘が少ないのは明白だ。
困った事に注意を促す前に、ソーラー侯爵の騎士団が武器を持ち入って来てしまう。
これで既に『魔物3パーティーの増援』は決定済みだ……
「馬鹿野郎!なんで入って来た……。コイツはオーガじゃねぇ『獄卒』様だ!それに今のは『念話』だろうが。そんな事も見分けがつかないのか!!オーガが念話なんぞ使うか馬鹿騎士ども!」
ベンの言葉に、騎士団より先に獄卒が笑い声を上げた……
『クックック……お前……覚えて居てくれたか?嬉しいぞ!意外と人は脆く再開を果たす前に死んでしまうからな……知り合いが居ないと張り合いもない!さぁて……今回はお前達がちょっとしたプレゼントを多めにくれたからな?我だけで無く他に3匹多く来たぞ?』
「そんなこと……アタイは望んだつもりはないよ。アンタ一人で十分だったんだけどね?できれば今すぐソイツ達と帰っていただけないかねぇ?」
僕の当てが外れた………万事休すといった所だが、ひとまず物理攻撃無効で凌ぐしかない……と思い召喚準備を始める。
詠唱をしつつ観察は怠らない……緊急回避出来る様に身構えつつ『アクアプリン』の詠唱を無事終わらせる……
次にアクアパイソンかアクアプリンを召喚しようと考えつつ、観察するが……声も出さず二匹は僕をじっと見ている……
獄卒が多いので物理無効が囲むしかないと考えて詠唱に移るも……最下層で会った獄卒が『三匹多くって』いったが……あれ?3匹目って自分?って不思議に思っていると……
次のアクアプリンの詠唱に割り込んでくる様に話し始めた……
『オイ……何故お前はそっちに化現している?』
『ああ……俺も気になった……まさか……遊ぶ方を俺たちにしたって事か?散々地獄で遊んでただろう?』
意味がわからない会話だった……『僕と獄卒が遊んでた?』……そう思った時……『まさか後ろ?』と思って振り返って見ると、髪が長い女性の獄卒が僕の後ろに立っていてた。
側にいた筈のシャインとユパは、既に威圧効果で動けない様だ。
髪の長い獄卒は、ゆっくりとした口調で話し始める……
『ええ、そうよ?運が良かったわ『選ばれる』なんて……。こっちにつく理由なんか気になるの?だって……こっち側についてアンタ達を追い返せば……出られそうじゃない?地獄から……。送り還されたそっちのお馬鹿さんの話を聞いて思ってたのよ。ずっとね……。ダンジョンの最下層では暫く遊べたんでしょう?ならば……捜せば出る方法があるかもしれないじゃないか?って……ねぇ?坊や?』
彼女はそう言ったかと思うと、目に見えないスピードで二匹の獄卒の首を捥ぎ取る……
僕には何をしたのか分からず、動いた認識もない……
『馬鹿ね……油断は禁物よ?』
そういうと、首だけになった二匹の獄卒は……
『汚ねぇぞ!もっと遊ばせろよ!ひひひひ……』
『オマエそういう事は早く言えよ!俺も外で遊びたかったぜ!けっけっけ……』
そう言い残して灰になる……。
女性の獄卒は驚異的なスピードと力を備えている……と言うより、以前戦った獄卒は『遊ぶのに飽きた』から帰っただけだ……と気が付いた。
そして目の前の獄卒は、裏切り行為を見ても平然と話し始める……
「ククク……なるほどなぁ。面白い事考えやがるぜ!だが……この『魔法陣のルール』があるんだ……『相手は変えてはならない』………だ!馬鹿な事を考えたな?ヘカテイア……『強制送還』が待ってるぞ?次はいつ来れるかなぁ?残念だ……クックック……」
僕の後ろにいる獄卒を『ヘカテイア』と呼んだソイツは嫌味ったらしく笑いを浮かべ、強制送還を知らせた。
しかし、僕の後ろに居たヘカテイアは、僕の横に来ると『ニタニタ』と笑いながら話し始める。
お互いまだ隠し球があるのだろう……
「馬鹿はアンタだよ?獄卒まで地位を落として外に遊びにいくなんて考え……軽く誰かに話すもんじゃ無いよ?私は『死の女王』だよ?死人の目を通じて見る事が出来るに決まっているだろう?」
「なんの話だ?それが『魔法陣のルール』に関係があるのか?」
「あるもある!大ありさ!!仕方ないね……。アンタにはアタシに情報をくれた御礼も兼ねて、冥途の土産に教えてあげるわ。この子にはポッカリ隙間があるんだよ!見てわかんないかい?『悪魔種』『魔王種』を持っているのに、『悪魔の心臓』も『魔王の心臓』も持って無いのさ!」
ヘカテイアは何故か唐突に僕について話し始める……
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