第629話「篩い分け?階層主戦の突入順」


 エクシアはそう言ったあと、頭を掻きむしり一度移動を止める。


 僕が止めるより前に、その提案を実行してしまった。



「ちょっと止まりな!各貴族のお連れのリーダーこっちに来な!大事な話だ!!」



 金級冒険者のグループの天響の咆哮と、各貴族が連れてきたお供の冒険者をエクシアが呼ぶ。



 そしてコレから話す事は、街で他言無用だと約束させる。



 しかしエクシアがそれを言ったところで、悪辣貴族は守る訳はないだろう。


 そもそも特定条件は言わないので、彼等では偶然意外それを満たせる訳では無い。



 その条件を知っているのはごく僅か……それも『ファイアフォックス』の主要メンバーだけだ。



「いいかい?これから五階の階層主で肩慣らしをする。危険な場所だ、貴族の馬鹿が入ったらすぐに安全部屋へ逃がせ!五階のボスの姿を一度見せるのを忘れるなよ?しっかり馬鹿どもに見せて、最下層はそれ以上だと認識させろ!!いいな?これはアンタ達の役目だ。私達は戦力をお前達の主の護衛には割かない。意味はわかるね?」



 エクシアの言葉に一斉にどよめきが起きる。


 後ろで聞いていた貴族も『自分達』がお荷物だと言うくらいは理解済みだ。



「あとな、しっかり説明しておけよ?『真横の安全部屋なら魔物は入らないから死ぬ事はない。』ってな……だが、『ボス部屋で戦うアンタ達』は別だ。この人数で乱戦だから、かなり疲弊する筈だ!アンタ達も五階でダメなら地上へ帰れ!最下層は遊びじゃないからね!」



 それを聞いたトラボルタとホプキンス、それにソーラー侯爵までもが笑い始める。


 ソーラー伯爵は自分のパーティーと騎士団に檄を飛ばす。



「やってやろう!おい、天響の咆哮パーティー。その金級の名に恥じない働きをせよ。宝箱を持ち帰った後は、それぞれに好きな土地に、家事全般のメイドと庭付きの家を約束しようでは無いか。安定した生活と冒険が出来るはずだ!宝を持ち帰るがいい!!当然騎士団員も其れに含まれるぞ!いい働きをせよ!!」



 ソーラー侯爵の話とは裏腹に、悪辣貴族の面々はあまり喜んでいない……ボス戦と聞いて怖気付いた様だ。


 僕は分かり易く説明を加える……ちなみに自分の目的と、このパーティーでやるべき内容は隠したままだ。



「実は既に転移陣が見えています。階層へはそこを使います……歩いて行ってたら何日もかかるので……部屋は小さいから前もって突入準備をしておく必要が有ります。戦士達は貴族を連れて飛んだら後続の邪魔にならない様に!!」


 そう言って手順を説明する。



 なぜ僕がするかと言うと、皆何故か僕を前に突き出すからだ……


 色々やらせて、後から斜め上の行動を取る……と言われるのは心外だが……致し方無い……自分が蒔いた種だ。



 方法は僕達が先に飛び込むのは変わらない。



 僕達異世界組とファイアフォックスに続き『希望の盾』の3パーティーが突っ込む。


 ちなみにテイラーにシャイン、カブラの他に3名が増えていた……


 普段は割と別行動だが、今回はテイラーが『面白い事やるなら混ぜろ!』と僕とテイラーの同期男爵組を理由に強制参加してきたのだ。


 増えたのは『ランサーのクラウン』と『シーフのポッケ』に『ビショップのユパ』の3人だ


 クラウンは男性でなかなかハンサムな顔をしている。


 ランサーで戦士系だが攻撃は主に槍を使う……そのまんまだがダンジョンでは取り回しが悪いので選択する武器にはあまり好かれない。



 ポッケは女性のシーフで両方の御団子に纏めた髪の毛が特徴的な子だ……おてんばの様でカブラとふざけてて大概怒られている。


 どうやらカブラとは幼馴染の様だ……職種のシーフは当然ダンジョンで手に入れた宝箱担当だろう。


 最後にビショップのユパだが……彼は男性で、非常に強面の反面性格は気さく……相反している感じが顔のインパクトを強めている。


 ビショップは当然僧侶であるが回復師が二人も?と思ったら全く意味が違っていた。


 彼は『元鑑定神殿』に勤めていたそうだ……要はスキルでは無い魔法の方の『鑑定持ち』なのだ。



 仕事柄多くのアイテムを鑑定するが、魔法の鑑定レベルを上げるために『外部修練』だと言う。


 以前テイラーが所属していたのパーティーで事故があった際に、偶然そこで出会ってそこから行動を共にしているそうだ。



 因みに大所帯と言われる所以は……総勢14パーティだからだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『内訳』


1、ヒロパーティー『異世界組』 7名(ヒロ・ユイナ・ソウマ・ミク・カナミ・アーチ・ミサ)

2、エクシアパーティー『ファイアフォックス』(タバサ含む)(6名)

3、テイラーパーティー『希望の盾』(全6名)

4、ギルド職員Aグループ(テカーリン・ガウス・マグネ・モブA・モブB)(6名)

5、ギルド職員Bグループ(デーガン・イーザ・モブC・モブD・モブE)(6名)


6、天響の咆哮(6名)

7、ソーラー侯爵と精鋭騎士団(全6名)全7名※侯爵含む

8、リーチウム伯爵と雇った銀級冒険者パーティー(6名)全7名※伯爵含む


9〜14、悪辣貴族と仲間達(全35名)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ギルドメンバーに何故かイーザが含まれていたのには驚いた。


 てっきり案内とか纏め役と思ったのだが……主要メンバーとは恐れ入った……


 しかし考えてみれば以前トレンチの下層域まで共に来た事があり、王都に行く最中もエルフ達やエクシア達から冒険者の立ち回りを教わっていたのだ。


 鉱山遠征の避難誘導員にはもってこいだろう……この世界では男も女も無い……


 生きるためには皆協力しないとならないので、仕方がない事だ。



 ファイアフォックスの主要メンバーが少ないのは、流石にダンジョンの部屋に多く入りすぎると危険だからだが……


 コア部屋にはあまり人は入らせたく無い……何があるか正直分からないからだ。



 その為エクシアと相談して、銅級資格者はファイアフォックスのサブマスターと共に、鉱山遠征の準備に明け暮れている。


 サブマスターだけでは手が足りない体が、元ヤクタの侍女達の手助けもあり順調だと言う。


 彼女達も、もう暫く街営ギルドで経験を積めばギルド窓口の正規職員として、ファイアフォックスで無事働けるだろう。



「………と言う順番で入ります。なので僕達が先に入るのは『安全』の為です……」



 掻い摘んで説明するが、それを聞いた『悪辣貴族』は壁にならずに済んだと、少しホッとした様だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃあ……僕達3グループで先行します。残った人たちは順番を決めて『同数』で入場してください。一人だけ時間を置いて『ずれて入る』と1グループと判別される傾向があるので……絶対にそれだけはしない様に!!………では!」



 僕達は第一層の転送陣を使い、一度に纏めて五階層の安全部屋付近の転送陣へ飛ぶ……


 部屋の内部を伺うと、冒険者グループは居ないようだ……魔物は既に沸いて居たのでギルドのお達しが効果をあげていたようだ。



『明日トレンチのダンジョンで大掛かりな階層検査を行う!ダンジョンで階層主から宝物を得たい者は、明日のみ『許可制』になるので申告しておく様に!!』


 テカーリンとデーガンだけでなく、窓口の受付嬢もくる冒険者全員に言ったので、『やばい事があったかも』と噂になったのだ……



「誰も居ないねぇ……ギルマスの言葉なかなか効果があって良いじゃないか!?じゃあさっさと行こうかね……」



 そう言ってエクシアは皆を見る……



「それにしても大所帯ですね。所でエクシア……アイツら全部が入ってくるまで待って居たら死人が出るぞ?」



 テイラーが馬鹿正直にそう話すと……エクシアは、



「馬鹿だね?アンタ……あんなヤツ等待つかよ!テカーリンには事情をそれとなく伝えたんだよ……。必要な『奴は既に配置済み』さ。まぁ機会があったら話すさ……さぁ後がつかえちまう行くよ!」



 エクシアの『行くよ!』といった後に続く様に僕達は部屋へ侵入する……


 僕にとってもはや慣れた『五階層の階層主戦』だ!!

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