第601話「人生の最大の厄日…… 逃げ回る天翼の獅子メンバー」


「ふぅん?それで?魔物は全て人間以下というのかしら?いい気になっているんで無くて?お兄さん?だったら一回やり合いましょうか……是非!!」



 ゼフィランサスだ……それも人型の戦闘フォルムになっている。


 お尻からは鱗とは色味が違うシャインレッドの尻尾が生えて、その尻尾はガチムチ冒険者の腕っ節なんかよりずっと太い。



 そして龍っ子は、尻尾に加えて腕にまで鱗を出して逆立てながら、今にもその冒険者を引き裂きそうだ。


 ゼフィランサスに腕を掴まれているおかげで、目の前の冒険者は今この時点でも命がある。


 しかし龍っ子は相当キレている様だ……



「パパに敵意を浴びせて剣を向けやがって!!すぐにくたばる人間如きが!!娘の私が粉微塵にしてやる!!がるるるるる!!ママ腕を離せよ!!」



 真後ろが危険が危ない状態なのに彼が何故こうも鈍感なのだろう……と思って鑑定すると、マジックアイテム効果で『恐怖無効』『恐慌無効』『集中状態』になっている。


 しかしその状態も、あと16秒で終わる……



 マジックアイテムは『恐怖・恐慌』無効、完全集中、全効果45秒の時間制限付きタリスマンだった。



 ウルフハウンドは無効解除と同時に周辺を転げ回る………



「ひぃぃぃぃぃぃ………なんだ!?なんだぁぁぁあ…………あが………」



『どしーーん』



 恐慌無効の効果のせいで、突然真後ろから直に状態異常を受ける。


 彼は恐怖の余り、完全停止して意識を失った………



「あら!?だらしない!!気を失ったわよ?あれだけ大きなこと言ったのに?突然……何なの?嘘でしょう?」



「ママ離せよ!!分かったからギルドは汚さないよ!!あの人間今からマグマに沈めてくんだから!!離せよ!!」



 龍っ子や……マグマはやめてあげて!装備どころか骨も残らないから………



「ゼフィランサスに龍っ子!お茶にしよう!じゃあ気分転換にココア入れようか!」



 ゼフィランサスと龍っ子はすぐに尻尾をしまう……椅子に座るのに邪魔だからだ。



「ココア!?いいわねぇ!はぁ……あの馬鹿の相手に力を発揮して……馬鹿みたいね私ってば……恐慌が効かないから少しは遊べると思ったのに!!もう!!本当にココア飲んで気分転換だわね!」



「パパ!!私チョコも食べたい!私パパのために頑張ろうとしたんだよ!ご褒美頂戴!!ねぇーーー!!」



 僕は熱いお湯を持って来てもらえる様に受付のオレンジに言うと、『かぁーしこまりましたーーーー!!たぁーだいまぁーーーーー!!』と変な口調で言う。



 ウルフハウンドの方をチラ見すると、へたり込んだ仲間が周辺に見える……



 しかし龍っ子はめざとく僕に絡み付くグレート・アナコンダの幼体を見つけて、引っ掴むと力技で引っぺがしてから自分の元に引き寄せると、ペシペシ叩いて起こす。



「あなた!可愛いじゃない!私のペットになりなさいよ!妹達もまだ居ないから寂しかったのよ!!ねぇ!いいでしょう?ママ?……貴女は何蛇さん?餌はママが取って来てくれるから!すぐ大きくなるよ!」



「クルルルルゥウ!!クルルルル!!」



 何故かグレートアナコンダの幼体はご機嫌に、龍っ子に懐いている。


 蛇とトカゲで食う側と食われる側だったのが、今や異世界がらみで龍と蛇で立場が逆転している筈だが……



 しかしコレは非常にヤバイ事になりそうだ……誰も逆らえない状態、且つ人族の危険がマックスだ。



 グレートアナコンダの幼体は力関係を理解しているのだろうか……人間より龍と……


 しかしグレートアナコンダは、僕にも懐いているのは変わらない様で、僕にも絡まってくる。



「ヒ……ヒロ男爵様!!今いいですか?そのなんと言うか……ゼフィランサス様は……ご機嫌は?」



 テカーリンのタコ頭は冷や汗がひどい……



「貴方!!あの人間の躾がなってないわよ!まぁ拍子抜けでやる気も失せたから良いけど……啖呵切ったら最後までやりなさい!少なくともリチウム位には私と話せる様になってよね!!何よあれ!!」



「ゼフィランサスさん、リチウムじゃなくてリーチウムですよ……覚えてくださいよ!!今のを聞いたら最後……名前変えちゃいますよ……きっと……」



 彼が居なくてよかった……ゼフィに覚えてもらえるなら、この際改名するとか言いそうだからだ。



 僕が入れているココアを飲みながら、謝るテカーリンと話すゼフィランサスだったが、懲りていないのか……はたまた直前の記憶が飛んでいるのか、起き上がったばかりのウルフハウンドと呼ばれた冒険者は僕の元に駆け足で来る。


 仲間は彼を追いかける事もしない……もう怖くてその場から動きたくないのだ。


 彼が何故ここに来たのか見てみると、『恐怖無効・恐慌無効・完全集中』の効果がまたもや発揮されている。


 効果はあと23秒だが……どうやら勝手に装備者のMPを吸収変換して発動するマジックアイテムの様だ。



 切れた合間にパニックを起こす可能性がある大変危険なアイテムだと分かれば、装備などしない方が身の為なんだが……



「貴様!話の最中に逃げやがって!俺にどんな手を使った!!この『天翼の獅子』のウルフハウンド様に向けて……ブ!ベラァァァァ………」



「おい!ウルフ!テメェ何騒いでんだ!ウチのギルメンのヒロに喧嘩売るたぁ……同期の銀級でも……殺すぞ!?ああ?前から人のギルドメンバーと揉めやがって!!人の商売は邪魔するし!!テメェはそんなに偉いのか!!ああ!?コラ!!」



「姉さんを止めろ!ベロニカ!ベン!ヒロ!手伝え!!犬猿の仲なんだこの二人は!!……オイ!ギルマスの馬鹿野郎!!何でヒロとウルフをぶつけた!?こうなんのは分かってただろうが!!」



 怒髪天を衝く程の怒りで、勢い良くぶん殴ったのはエクシアだった……


 ロズが大慌てで止めに入る……エクシアとウルフハウンドはかなり仲が悪いのだろう。



 まぁウルフハウンドの言葉使いからして、何となく察しはつくが……彼はかなり上から目線だ……



「いてぇな!!何しやがるエクシ………ゴファァァァァ!!…………」



 しゃがみ込む様な体勢から、メリ込む凶撃を腹部に撃ち込んだのは『シャイン』だった。


 なんかデジャブを見た気分だ……いつ以来だろう……このパンチ……



 僕の席からは笑顔で帰ってきたシャインが見えていたが、ウルフハウンドが絡んで来てからは……それは……それは……表情が怖かった……



 兄のテイラーと新領地の仕事を終えて帰ってきた様だが、今は僕の周りでは危険しかない。


 シャインはゼフィランサスの事を知らない、そしてゼフィランサスはシャインのことを知らない。



 ゼフィランサスはウルフが魔物全般を『無知の生き物扱い』した事に腹を立て、そして家族を大切にする龍族は僕に対しての侮辱も許さなかった様だ。


 二倍で馬鹿をやらかした訳だが、シャインは普通に僕をお説教するのでゼフィランサスと喧嘩にならないか怖い。



 しかし今はゼフィランサスがシャインに興味を持っている。



「ふぅぅぅう………ふぅぅぅう………何を言ってやがるんですか!?ウルフ!同期のアンタでも、絶対にヒロ様の侮辱は許しませんよ?このシャインの大切な人を馬鹿にして……生きていられるとでも?今すぐ侮辱した代償として、全身の骨を砕いてあげましょう!寝たきりでダンジョンの最下層で暮らすと良いわ!!」



 テ!テイラーさん!止めて……シャインを止めて!!


 彼は一応鉱山の主要メンバーリストに入っているの!!馬鹿でもゴミでも何でもいいの!!今は僕の仕事を増やさないで!!



 そう思っていると、ゼフィランサスがシャインに……



「あら!貴女は彼の奥さん?だったら第一夫人は貴女なのかしら?って事は私は2番手?それとも3番手かしら?何人かいるの?」



 そう言うゼフィランサスの顔をみると、シャインはすぐに真横に居た僕を見て、次に龍っ子をみた……

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