第592話「予想外の事実に新たな問題」


「すまん!亭主!ギルド職員にヒロと言う男爵がここにいると聞いて来たんだが……って!聞いた通り此処にいたか!おはようヒロ男爵!今日は昨日より寒い………って!うぉぉぉ!?ゼフィランサス様!!おはよう御座います!!今日は一段と冷えますね!!朝早いのにもう街へお付きなのですか?」



「あら!おはよう!確か名前は………リチウムさん?」



「はい!リチウムです!」



 彼はボルトの街の領主と言うだけあって、彼はリチウムバッテリー生産拠点でも目指しているんだろうか?



「リーチウムですよ!リチウムじゃなくて!貴方も今更ビビってないで、ちゃんと名乗らないと!電池でも作る気ですか?まったく……それで……どうしたんです?」



 僕は調理したてのオルトスの生姜焼きを既に居た人数分出す。



 しかしリーチウムは、朝からゼフィを見て緊張が隠せない様だ。



「リーチウムさん朝飯は食いました?」


「いやまだだが?もしかして……俺まで頂けるのか?」



 そう言ったリーチウムだったが、ゼフィランサスと同じ食卓を囲むのには躊躇いがあったようだ。



 しかし、ゼフィランサスが『座って食べなさい?ちゃんと食べないと飢えて死ぬわよ?』と言う。


 ここで食べないと死ぬ訳では無い……いつでも腹ペコの龍族と人間は違うのだ。



「ありがたき幸せ!貴重な肉なのに申し訳ない!……」



 そう言って僕からご飯を受け取り着席すると、美味そうに頬張り彼は世間話をする。



「リーチウムさん緊張してた感じでしたが、話しているうちに意外と慣れましたよね?」


「私もそう思ったわ。よくよく調べると隠れ要素が満載ね……無駄にしてて笑えるわ……それに……意外と勇者や英雄の素質がありそうね?この子は!」



 その言葉にびっくりするリーチウムだったが、ゼフィランサスの話では火龍の存在を知って尚、おいそれと側により食事に同席出来るほど、龍種の威圧は優しくないと言う……



 ゼフィランサスの存在を知って尚、平常心を保っていられる時点でその素質は少なからずあると言う。


 宿の亭主は、ゼフィランサスの存在を童話の類いの名前でしか知らなかったので、今までは平気だった。


 しかし彼女がその存在だと聞いた瞬間、かなり萎縮している。



「私の中にその様なものが?」



「そうね……もっと早くから訓練と特訓するべきね!勿体無いわ。よほど馬鹿な道を進んでいたのね?でも私達龍種にすればよかった事になるのかしら?貴方がそんな存在になったら間違い無く龍種と衝突するもの!まぁ妻である私に手を出したら、娘のパパであるこの人が黙ってないけどね?うふふふ」



 そう意地悪く言って笑うが、絶対に負けないだろうと言う自信がゼフィランサスにはある様だ。



「力ある龍族に手出しなんてできましょうか!?しかし素晴らしい事が聞けました!今日からは武芸に打ち込みたいと思います!ヒロ殿からマジックウェポンも貰いましたし!これは兄に献上して、汚い地位を貰おうとしていた、自分の戒めに取っておくつもりです。これを見る度、初心に帰ろうと!」



「ふふふ!いい心がけね!ひとまずは……そうね『斬撃強化とタフネス増強のスキル』を取りなさい!貴方は近接戦闘向きよ。武器全般を扱える特訓をしなさい!それに……貴方って実は頭で考えるのは苦手でしょう?あと……主人が住むこの都市を命がけで守りなさい!彼に何かがあれば、私の娘が悲しむの!そうしたら……この王国なんか私要らないから!意味わかるでしょう?王国が無いのにその地位が必要?」



 ゾッとするリーチウムだったが、龍っ子が『ママ!!メ!』と言うと『冗談ょぉ?貴女も大人になったら分かるわ!』という……



 絶対に冗談じゃない……そうリーチウムも僕も思った。



「それで?リーチウムさん何の用が?」


「うむ!実は昨日君が帰ったあれから、この街のギルドマスターから通達があったんだ!鉱山のダンジョンアタックをすると……それで……ヒロは行くのか気になったのでな……」



 すると僕の代わりにゼフィランサスが『この人が行かないはずないじゃ無い!土精霊がピンチなんだから!!』と一番言っていけないことを言う。



「な!?何と!?なんと仰いました……ゼフィランサス様それは本当ですか!?ならば私は兵を率いて来なければ!!」



「そんな多くの兵はダンジョンでは邪魔になるわよ?精鋭部隊にしておきなさい!狭い通路でどうするつもり?もっと戦いの基本を学びなさい!兵士の利点は数で押すことよ?まったく!ちゃんとダンジョン探索用の精鋭を準備しておくのも貴方の役目よ?この人みたいに今の貴方では単独無双できないでしょう?」



「な!成程……ならば精鋭部隊を編成し直します!ゼフィランサス様ご指導ありがとう御座います!……ところで……ヒロ男爵はそんな力量が?」



「そうね……ダンジョンは物によるけど、彼ならこんな王国だったら1日で破壊できるわよ?私と娘なしでね?」



 人じゃ無いものを見る目で僕を見るリーチウムだったが、絶対にそんな事はしない。


 そんな事をする予定があれば、そもそも王国の姫様達を助けたりなどしない。



 それにアラーネアと対立は間違いない事になる。


 彼女の子孫を根絶やしにする事になるのだから……



 雑談をしつつ食事をする。


 宿の亭主はビビっているが、ゼフィランサスは『絶対に貴方に危害は加えないわ!貴方に何かしたら娘に殺されちゃう!』と笑う。


 龍っ子は『お爺ちゃんに何かしたらご飯貰えないよ!本当にわかってるのママ?生肉を毎日なんて絶対に私やだからね!!』と本気で怒りお爺さん側に行く。



「お爺ちゃん困ったら言ってね!パパとアラーネアさんて言う人と、アシュラムさんて人でママを懲らしめるから!!」



「本当にやめて!絶対このお爺さんには何もしないから!マッタク誰に似たのかしら!!」



 そんなコントの様な親子の会話を聞いて、やっとお爺さんは笑い始めた。



 威圧も出していないゼフィランサスだったが、名前だけで畏怖の効果が有るのは流石だと思う。



 それから少しして、寝坊組の朝飯はおじいさんが持っていってくれた。


 ソウマは既に食べた後らしいが、僕たちに混ざって更に食べていた。



 ソウマは意外と龍っ子に気に入られていて、肩車をせがまれたが持ち上げられなくて凹んでいた。



 実体が5メートルの龍を持ち上げられたら、それはそれで人では無い気がする……


 ご飯を済ませた僕達は、一路ギルドを目指した。


 昨日話す予定だった鉱山ダンジョンの攻略会議が、誰かさんのお陰でお釈迦になったからだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ギルドに着くとすぐにオレンジと言う職員が読んでくる。



「ヒロさん!よかった!実は依頼の品がかなり溜まっていて……その上……本当に品がもらえるのかって話になっていまして……」


 彼女に案内されて、駆け出し冒険者のカウンターに行くと山の様な光草と光鈴蘭に光苔があった。



「おお!これは凄い!念願の素材ですね?それで……こんなに早く1000束を納品した人が居るって事ですか?」


 僕がそういうと、例の冒険者2人が来る。


 腕と脚を欠損したガウスに、腕を欠損したマグネだ……さらに凄いのは駆け出し冒険者のマラライと言う女の子に、テムバイと言う男性冒険者だ。



 マラライと言う子はポーションの事を聞きつけて冒険者登録をしたそうだ。


 僕の元に来て何故かポーションを懇願する。



「私頑張って集めたんです!!頂けるんですよね?ポーション!」



 あまりの悲痛な表情でどうしたのか聞くと、弟が丁稚奉公する店で大切な品物を弟が破損させてしまったと言う。


 何故かその代金の支払いを求められたのが、丁稚の弟では無くこの娘だそうだ。



 家族は既に病気で死んでおり、弟は以前口減らしでその店に売られたと言う。



 この子はそれから今まで一人で生きていた様だ。


 ちなみにその代金は金貨で50枚、弟の身柄を買い取るのにさらに金貨50枚で合計100枚が必要だと言う。



 そんな時に、この素材集めで金貨100枚相当のポーションが貰えると聞いた様だ。



 それにしても丁稚奉公で働いていた子の不手際を、何故この子がしないとならないのかが不明でしか無い。


 何はともあれポーションが必要で有ることだ。


 受付のオレンジさんの確認では、光草を1143束も納品したそうだ。


 他3人の証言では、彼女は寝る間も惜しんでほぼ毎日ずっとそこで採集していたと言う。



「大丈夫だよ?ちゃんと有るから!」


 僕はそう言って、以前作った初級ポーションの残り14本を出して見せて安心させた………

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