第591話「街に入り浸る火龍が語る意外な事実」


「起きてるかの?お客さんだぞ?」



 翌日僕は朝寝坊をした……宿の亭主の声で僕は起床したが、9時間近く寝たようで、スマホを見るとすでに時間は9時を回っていた。


「ああ!今起きました……寝坊です……はぁ眠い……」


 顔を桶の水で洗ってから、下へ降りるとそこには宿の亭主に朝飯を貰う、悪魔っ子に龍っ子そしてゼフィランサスが居た。



「あら!やっと起きたの?ここの朝食も美味しいわ!優しいお爺さんね!それにしても記憶喪失の悪魔なんて貴方って本当になんでもありね?」



 一目で悪魔っ子を見抜いたゼフィランサスは一体どうして分かるのだろう……鑑定スキルでも持っているのだろうか?



「寝過ぎました……思った以上に疲れてた見たいですね……」



 昨日僕は異世界仲間全員で帰ってきて、積もる話もあるだろうという事で早々に部屋に入った。


 しかしスライムとモンブランの食事を渡してから、着替えて布団に座ってからの記憶が曖昧だ。


 少し横になって……と思ったら朝だった。



「貴方……聖樹の香りもするんだけど?もしかして聖樹も持ってるの?」



 ゼフィランサスはなんでもお見通しなのだろうかと思ったが、今の言葉を思い起こすと『香り』と言っていた。


 リュックを開けてみると、小さな花が咲いていた。



「あら!やっぱり!聖樹が花を咲かせるなんて……珍しい事もあるもんね?その苗木は神霊力が満ちている証拠ね!あなたの周辺に精霊でもいるの?でも……4大精霊やその他精霊でもある程度数が居ないとダメなんだけどね?」



 ゼフィランサスの言葉に反応したのは風の精霊と土の精霊だった。



「あら!よくわかったわね?ゼフィ?」



「お久しぶりですね!ゼフィ!」



「ちょ!嘘でしょう?貴女達……復活したの?まぁアレから500年以上は経っているものね!新しい主がまた私の関係者って……嫌味かしら?」



 風っ子の挨拶の後に土っ子が挨拶をする……その姿を見たゼフィランサスは驚きが隠せない様だ。


 そしてまだ会話は続いていた……



「何を言ってるの?ゼフィ!今度は『敵』では無いでしょう?風で尻尾は切らないわよ!」


「そうですよ!ゼフィさん!今度は翼を破る痛い攻撃は無いから大丈夫ですよ?」



「はぁ……アレは痛かったわ!羽に穴は開くし!尻尾は切れるし!!もう貴女達精霊種とは会いたく無いし、戦いたく無いって思ったけど……まさかこんな形で再会なんて!まさか水や火とか木や雷に氷も居るのかしら?」



 会話からして相当ヤバイ事この上ない……


 どうやら話のニュアンス的には相当な激戦だったようだ……そしてゼフィランサスは彼女達に負けたようでもある。


 そしてフラグのように水っ子と森っ子が現れる……



「何よ!?ゼフィランサス!居たら悪い?また身体の炎消してあげようかしら?」


「私は燃やされたく無いのですが……今度ばかりは何かあったら新緑の騎士様にお願いするしか無いですね……」



「ちょっと辞めてよ!今は敵同士じゃ無いでしょう?水!!それに森はとうとう出会ったの?新緑と!?最悪だわ!って事はヒロは新緑とも知り合いよね?」



 そう言った水っ子と森っ子そしてゼフィランサスは精霊達にかなり因縁のある相手のようだ。


 新緑の騎士に過剰反応していると言う事は、そこでも何か問題でもあるんだろうか?



「ママ!パパはアラーネアって人も知ってるって!更にアシュラムって人も知ってるって言ってたよ!昨日洞窟の巣で話してた人だよね?」



「何を言っているのかしら?この子は!あの騎士とお姫様が生きているわけ無いって……昨日言ったじゃない!?」



「だからママ!嘘じゃないの!生きてるってば!今は魔物になってるよ!嘘じゃ無いよ!ねぇ?パパ?」



 ゼフィランサスと龍っ子は昨日どんな話をしていたのかは知らないが、余程僕の周囲にいる人(魔物・精霊)と関係があるようだ。



「ゼフィランサスさん……アシュラムさんはちょっとした事情があって今蘇って、『デス・ロード』になりましたね……アラーネアさんは『アラクネ』になってます。両方とも世界を破壊できる位とか?ギルドでは言われてましたね!」



「デ……デスロード!?にア……アラクネ!?………嘘でしょう?貴方と一緒にそのメンバーで戦われたら……もう私なんか粉々にされるわ!?なんでそんな戦力を……ま……まぁ……今は私の娘のパパだからね!そんな事にはならないわ!!安心して可愛い私の娘ちゃん!!」



 半ば顔が引き攣っていたが、龍の方が強そうなイメージがあるのだが……


 話を聞くと、アラクネの出す糸は物によって燃やせない場合があり、デスロードの召喚するアンデッドはいくら破壊しても蘇るそうだ。


 二人が騎士と姫の間柄なのだから、間違いなく2対1になるのは目に見えている。


 更に二人がユニーク個体であると言うと、ゼフィランサスはお爺さんがおかわりを入れたばかりなのに、スープを吹き出していた。



 そして『絶対に戦わないわ!ユニーク2匹とか無理だし!嫌だし!絶対それって尻尾痛いし!アシュラムのアンデッドになった無限斬なんて食らったら最悪だわ!!体力関係ないから無尽蔵の斬撃じゃない!更にアンデッドの時点で疲れないじゃ無い!付け込み様がないわ』と言っていた。



 話を聞くと、龍の卵をかっぱらいに来た人とアシュラム達王国の人を間違えたそうだ。


 そしてお互いの意見が通じず闘いになったそうだ。



 たしかにゼフィランサスの勘違いだから、話し合いなど通じる筈もない。



 戦いの末、休戦にも連れ込んだそうだが、アシュラムが国力を使い火龍の卵を盗んだ犯人を発見したので、連行し卵を返したそうだ。


 ゼフィランサスは謝罪して、人族がしでかした間違いをアシュラムとアラーネアが謝罪したそうだ。


 勘違いの謝罪として、今アシュラムが持つ剣をゼフィランサスが渡して話は終結したそうだ。



 ちなみに剣は過去の英雄が持っていたらしい……喧嘩を売られたから『パクッ』としたそうだ。


 名工の作であると分かったのは、アシュラムが持ち帰り鑑定した結果で、歴代の英雄の一人が持つ剣だったと言う。



 その英雄は突然行方不明になったのだが、『龍を狩るもの』の肩書き欲しさに分不相応の戦いを挑んだ様だ。



 物が物だけに人族が初めに間違いを冒した事もあり、謝罪ではもらえないとアシュラムは律儀に返しに来たそうだが、その剣の詳細を聞いてしまったゼフィランサスは『内容を聞いた今更受け取れるか!』と突っぱねたそうだ。



 ちなみに卵を盗んだのはこれまた小国郡国家の中の一国で、その日に地図から小国郡国家の2/3がなくなったと言う。



 アラーネアは……と言うと、回復魔法と防御魔法の支援がかなり優秀で、ゼフィランサスがアシュラムに与えたダメージが防御支援で軽減され、やっと与えたダメージなど気がつくと全快されてしまうそうだ。


 アシュラムは気が付いていなかったが彼は英雄の才覚があり、アラーネアはスキルの関係から見て聖女候補だったそうだ。


 あの二人には口が裂けても言うつもりはないが、人間だからと甘く見た結果、続けていればゼフィが負けていたと言う。



 精霊との戦いは教えてくれなかった……『また今度ね』と言われてしまい、精霊達は『前の契約者については語れない』と言われた。



 僕は朝寝坊をしたので急いで身支度を整えたが、ユイナにカナミそしてアーチにミサとミクは僕より寝坊していた。


 珍しい事に全員が寝坊だ……普段ユイナは朝は何があってもしっかりしていたが昨日は例外だった様だ。


 後で聞いた話だが、修学旅行の夜のようにずっと話していたそうだ。



 珍しくユイナは凄いパニックを起こしていたが、今更慌てても仕方がないと年下の皆に言われていた。



 ソウマだけが真面目に起きて朝練をロズとやっていたようで、朝練が終わり風呂に入り出てきた時にゼフィランサスと会ってビックリしていた。



 ソウマは湯船で寝ていたようで、かなり長風呂だったとお爺さんが言っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕はゼフィランサスと龍っ子のオネダリで、昨日のオルトスの肉を焼く事になった。


 オルトスの切り分けた肉をマジックグローブから取り出そうとすると総重量が分かった……


 オルトスの肉が170kgでオルトスの霜降り肉が130kgだ……これだけで300kgにもなる昨日皆で食べた分と、ビラッツに渡したのを入れると大凡500後半から650kg近くだ……どれだけ大きかったんだと思ってしまう。


 僕はゼフィランサスに聞いてから宿の亭主にもおっそわけする事にした。


 ゼフィランサスも龍っ子も美味しいご飯を貰っていたので、その肉で調理して貰えると毎日の楽しみが増えると言っていた。


 しかし僕は『毎日来るつもりなんだな……やっぱり……』と思ってしまう。



 すると匂いを嗅ぎつけた訳では無いだろうが、客人が来た……


 今朝早くにボルトの街に帰るはずだった筈の、性根を入れ替えたリーチウム伯爵だ……


 外は冷えるのか息が真っ白で宿に入って来た……

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