第590話「ユイナとミサのアイデア・ステーキ」


「コレは凄いですな!!ヒロ殿今料理長を呼んできますぞ!、食べやすいサイズに切り分けて下さいますかな?サイズは鉄板に乗るサイズまでで、厚さは厚過ぎると綺麗に焼けませんので此方でやりますぞ!」


 そう言ってビラッツはギルド内の鉄板を指さすと、店に走って行く。



 僕はオルトスの血抜きした頭や肉から外した各部位の骨をその場に置く。


 すると解体担当の部下が、それを必死に解体部屋に移動する。



 顔は大きく重いので持てない様で、肉の切り分けの後で移動をお願いされた。


 僕はそれをマジックグローブの中にひとまずしまう。


 血液が邪魔だったのでバラスに言うと、樽を持ってきたので全部それに移す。


 樽はなんと、10個以上にもなった。


 バラスは大喜びだ。



 冒険者も手伝い、ギルド内に向かうのに邪魔な樽を移動させる。


 魔力容器の大きさが血液分小さくなったので、ギルドの入り口を開け放ち中へ入れるが、中央広場の前での解体ショーだったので、街民の目を大いに引き皆がギルドまで見にきた。



 すぐに切り分ける用の肉以外は、マジックグローブに仕舞う様に料理長のユイナから指示が飛ぶ。


 程よい大きさに切った肉をユイナが預かり、そしてミサが包丁を片手に調理台に向かう。



 ミサは調理スキルを持っていて、ユイナは栄養士免許を持っている……まさにゴールデンコンビだ。



 調理は料理長を待つ事なく、普通に何事もないかの様に始まった。


 異世界調理は順調に進み、オルトスのレモップル・ペッパー・ステーキが仕上がると、町民までもが押し寄せてきた。



 当然、冒険者が肉の護衛に当たり、狩りをしたゼフィランサスと娘の龍っ子からの給仕だった。


 切り分けが終わった僕はゼフィランサスに強制的に座らされた……街の人の目が非常に痛い。



「パパは凄いわね!あんな解体は初めてみたわよ?それに流石私の娘!パパに良く懐いたわね!本当に見る目があるわ!……それにしても……あの二人貴方って貴方の連れよね?初めてみる料理だけど……なんなのあれ!この刺激的な匂いだけで我慢できないわよ!!」



「ペッパーとレモンですね。食べやすくてさっぱりしてますよ。レモップルなので、見た感じ甘いソースも用意してそうですけどね!」



 そうゼフィランサスと話していると、肉の調理が終わった様だ。



 ゼフィランサスと龍っ子に届けられる肉……彼女達は大口で肉を頬張ると、用意されたパンをムシャムシャ食べ進める。



「「おかわり!!」」



 凄まじい速さで食べ終わったが、ユイナもミサも既に調理は終わっていた。


 ちなみに他の人の肉は、売店の女将が焼き始める。


 ユイナとミサはゼフィランサス達の専属の調理人になって、片っ端から肉を焼く。



 しかし肉の量はかなり多い……弾力と歯応えのある脚の部分を食べ終わる頃にはゼフィランサスと龍っ子も満足していた。


 龍の巨体になればペロリと全て食べるのだろうが、人間の形だと胃袋も小さいので限界を迎えた様だ。



「こ……この私がお腹いっぱいだなんて……幸せ!!人化で食事経験がなかったけど、これは良いわね!満足感が半端ないわ!」



「でもママ、すぐにお腹空くから!!後で食べる分を絶対に用意した方がいいよ!」



 そう言われたゼフィランサスは巣に持ち帰る分をユイナとミサに焼いて貰う。


 ちなみにビラッツと料理長はあれからすぐに帰ってきたが、総理長のユイナが調理していたのでサポートに周り、ビラッツはレシピメモが忙しかった。




「ゼフィランサスさん一応一人分として20人前は焼きましたよ。巣に帰っても食べれる分では足らないかもですが……」



「ありがとう!貴女達……人間にしておくのは惜しいわね?龍族にならない?私の眷属に欲しいわ!寿命は人族に比べて天地ほどの差があるわよ?」



 ユイナとゼフィランサスの会話だったが、ミサは『私コレでも200年生きているんで大丈夫です……龍種になりたくなったらお願いします!』と小声で言う。


 するとゼフィランサスは同じ様な小声で『じゃ貴女達もパパと同じ異世界人なのね?寿命なんか関係ないのねぇ!』と問題発言をした……



 3人で顔を見合わせて……『寿命ないって事ですか?』と聞くとゼフィランサスは



「何を言ってるのよ?そもそも貴方も貴女達もこっちの生き物じゃないじゃない?誰が貴方達に寿命をあげられるの?変な人達ね!」


 と言う……驚愕の事実だ……ゼフィランサスに寿命を設定できる身体ではないと言われたのだ。


 だから長谷川くんは『肉体崩壊』まで生きる羽目になったのかもしれない。



 全ての調理を終えると、テカーリンが来た。


 魔力回復薬の残りはお前にやろう!今回の解体の功労者だ。遠慮なんかするな!



 そう言ったが、自分のMPだけで賄えたのでと言うが、『後で役に立つ場合もある』と言われて強制的に貰うことになった。



「テカーリンと言ったかしら?この街は気に入ったわ!変な奴が来たら私に言いなさい!一度だけ貴方達の街を守ってあげるわ!でも私たち家族に変な気を起こさない事ね?大火傷じゃ済まないわよ?」



 そう言って口を開けると、メラメラと炎が上がる。



「しませんよ!あのゼフィランサス・レム・シューティングスター様にちょっかい出す馬鹿が居たら、俺がそいつを殺しますから……この街ごと黒焦げで死にたくないですからね!」



 ゼフィランサスはテカーリンと軽く会話を交わして『じゃあまたすぐ来るわよ?ほら帰りましょ!貴女の妹達が待っているわ!』と言って冒険者と遊んでいた龍っ子とギルドの屋根に登り2人は帰っていった。



 全てが終わった後、ザムド伯爵とウィンディア伯爵はドワーフの姫のハルナとミドリを伴ってギルドに来た。


 ギルド職員の知らせで何時でも2人の姫を逃がせる様に、街中を転々としていた様だ………



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 全てが終わった後で、冒険者から文句を言われると思っていた僕は覚悟をしていたが、僕には誰も何も言って来なかった。


 寧ろ龍と勘違いされて、怖がられて居るのだろうか?と思ったがそれでも無かった……



 伝説の火龍を目の前で見れただけじゃなく生き残れた上に、自分のレベルまで上限一杯に上がった。


 その上、食べる事等無いだろうと思っていたオルトスの肉まで無料で食べれて、相当嬉しかった様だ。


 それに、何時も一緒に騒いでいた娘が『火龍の娘』と知った彼等は、その事実を誰でも良いから自慢したかったのだ。


 その為現場に居なかった冒険者を捕まえてはその事を話し、居なかった冒険者は鉄板にあった焦げた肉のはし切れや、余計な脂身部分を切り離した廃棄部分を食べて幸せに浸っていた。


 それを見たミサは『仕方ないなぁ』と言って、ギルド売店の肉倉庫に隠しておいた肉を取り出して、少しだけ焼いてからホーンラビット亭の白パンに挟みこっそり渡していた。


 ミサの人気は非常に高まり、それらの冒険者達から『女神さま』とまで呼ばれていた。


 新領主のウィンディアは非常に疲れ果てて、ザムドはオルトスの焼肉定食を食べ終わると、うたた寝をしていた。


 余程心労が尽きなかったのだろう。



 僕は伯爵達が連れてきたドワーフの姫達に薔薇村の溶鉱炉の話をする。


 すると、余程鍛冶職人として腕を振るいたいのか、すぐに行きたいとお付きの戦士団に駄々をこねていた。


 僕自身は、明日に鉱山のダンジョンアタックの打ち合わせがあるので、流石にそれが済むまで同行出来ないと言うと、何か方法を探して向かう言い切っていた。


 なので村長とマークラのことを教えておく。


 僕は姫達と別れ、オルトスの頭を解体室へ届けておく。


 バラスから非常に感謝された。


 解体室から出ると、取り調べを受けていたはずのステイプが、何故かギルドに来て僕を探していたので話を聞く。


 するともう疑いが晴れたと言う……どう言うことか詳しく聞くと、例のグラニュー侯爵一派が他の王国領地で拘束されたそうだ。



 ビーズの話を元に、王国中のギルドがすぐに手を打ったそうで、運良く移動中の彼等を発見し捕まえたそうだ。


 ギルドは国家間の揉め事は中立の立場だが、人工ダンジョンとなれば話は別の様だ。


 その結果、恩赦が与えられたのは情報提供に徹した、ビーズとステイプだった。



 しかしすぐに自国の領地に帰ることは許されず、暫くは制限付きの外出までは許される形となった。


 グラニュー侯爵一派を捕まえたが、どうやら逃亡者がいる様なのだ。



 ステイプと話をして居る最中に、ドワーフの姫が来た。


 僕はステイプが王国の人間ではないので悩んだが、ステイプをドワーフの姫に紹介する流れになったので紹介したら、姫達はなんと彼の傭兵を雇う契約を交わした。



 ステイプは3日から4日有れば自分の傭兵団を呼ぶことが出来ると言ったので、ドワーフの姫は即刻契約をしたそうだ。


 報酬は王国貨幣や小国郡国家貨幣が足らないので、ミスリル製の武器払いとなった様でステイプは大喜びだった。


 ステイプの傭兵団は一度ドワーフ王国に行ったことがあって、ハルナとミドリの姉妹が雇ったことがあるそうだ。



 その事から今度は彼女達が契約を結んだ……と言う形になった。


 ステイプは急いで傭兵団に連絡する為に、衛兵詰所に戻っていった。



 衛兵に手紙を書いてもらい伝書鳩を出す為だ。


 現時点では手紙の文面は自由に書けず、衛兵がそれを書くことになるそうだ。



 今の状態でステイプの傭兵団など呼べるのだろうか?と思ったが、取り調べの結果ダンジョンの領地侵犯はステイプには関係無い事だから平気だと言う。


 ステイプが残されて居る理由は、証言が必要な場合は彼をその席に座らせる必要があるからだとか……


 なので拘束したグラニュー侯爵一派の問題性が確認されれば、ステイプはある意味お役御免らしい。


 僕はその話が終わった後宿へ戻った……流石にMPも大量に消費したので、いい加減休息が必要だからだった。

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