第588話「大激震!!突如現れた龍っ子の母親」


 僕は目の前の母火龍に事情を話したが、信じて貰えているのか謎だ。


 非常に母火龍は掴みどころがないのだ……


 龍っ子は母火龍に肉を渡すと、自分の分を買いにすっ飛んで売店へ行く……売店の店員は非常にやり辛いだろう……焼かなければ、自分がどうなるか……とか考えているかもだ。



「これだけは言っておきますが、龍っ子に何かをするつもりはないので……出来る限りあの洞窟にいる様には仕向けてますが……出て来るとどうしようもないので……だから毎日ああしてご飯を持ち帰らせてるんですから!」



 僕がそう言うと、母火龍は


「大丈夫よ何もしないわ!貴方に何かをしたら娘が怒りそうだし、そもそも貴方のおかげで『人化』出来てしまっているもの!『人化』するのに本来300年はかかるのよ?早くても……それをもう出来るなんて!あの子の母親としてビックリよ!」



 そう言った母火龍はかなりご機嫌の様だ。



「でも娘を変な事に使おうとしたら……意味はわかるわよね?」



 唐突に先程の殺気をお見舞いして来る母火龍だったが、普通に話せる気がする……


 僕には耐性がついたのかも知れない……気のせいかも知れないが……



「しませんよ!龍っ子が来たいと言う場合止められないだけですから、何かあったらそっちで止めて下さい」



「は!?ははははは!ビックリよ貴方にビックリ!!もう私の殺気が通用しないの?何者なの貴方?………4500年生きて来たけど初めてよ?まぁ娘の事は悪用しようとしなければ良いわ。まぁ嫌な事なら言う事聞く子じゃないけどね!龍の子は!」



 僕は突然の事ばかりで聞き流して居た……母火龍の言ったとても大切なことを……だいぶ後になってその事を知る事になる。



 串肉を買ってきた龍っ子はお肉を冒険者に渡そうとするも、誰も受け取れない……恐怖と恐慌で動けないからだ。


 それに気がついた龍っ子は、母火龍に突撃する。



「ママ!!恐慌と恐怖しまって!!じゃなとお祭り終わっちゃうよ!!」


 龍っ子はバシバシとママを叩くとママは『あら……意外と人間寄りね!』と言いながらも、状態異常を起こすのをやめる。




「あらやだ……私とした事が失礼致しました。皆様にもお近づきの印として、自己紹介だけはしないとですわね!この子の母親で名前は『ゼフィランサス・レム・シューティングスター』と申します。龍族の火龍でござます。主人と娘ともども今後ともよろしくお願い致します」



 恐慌は絶対わざとだろう!とは誰も言えない……


 しかし僕はその名前を聞いてある花言葉を思い出した。



「ゼフィランサスってことは『花言葉』で『汚れなき愛』ですね……」



「まぁ!貴方ってば!素晴らしい事を言ってくれるわね!この子が懐くのも良くわかるわ!」



 しかしこの知識は、あるモビルホニャララの名前を調べてて知ったとは言えない……


 殺気を引っ込めたことで、自由になった冒険者だったが直後の龍っ子のお肉攻撃に胃がもたれている。


 食べても食べた気はしないだろうし、この状況では消化などし辛いだろう……



 しかし状況は冒険者にとって悪い方に向く……



「お待たせしました!!ヒロ様!!このビラッツ!!ヒロ様がこの街へ帰宅されたと聞き、料理を沢山作って持ってまいりました!!あーーーら!お嬢様!覚えておいでですか?ビラッツで御座います!沢山食べても食べ尽くせない様に、今回はそれは沢山お持ちしましたよ!!」



 そう言って飛び込んできたのは、自己紹介の通りビラッツだ。


 母火龍がいる目の前で、龍っ子の頭をなでなでしつつ、店員から衣服を汚さないように布を受け取って龍っ子の膝に置く。



「今すぐご用意致しますね!お嬢様!」


 そう言ってビラッツは周りも見ずに龍っ子へ給仕を始める。



 周りは気が気じゃない……母親のゼフィランサスが目を細めてビラッツをじっと見ているからだ。



 ビラッツはシェフに即用意する様に言う。


 シェフは出来立てのホーンラビット・ステーキをマジックバッグから取り出して、移動型コンロで最後の焼き工程をした後、すぐに振る舞う。



「どうぞ!お嬢様!今日は特上ホーンラビットのステーキからで御座います!どんどんお肉は焼いて参りますから、ご堪能ください!!」



 そう言ってからビラッツは僕にも用意する。



「あら……良い匂いね!私にもくださらない?そこの人……」



「申し訳ありません。皆様の分は用意してありますが、ヒロ様とお嬢様の分を先にご用意させていただきますね!すぐに用意しますのでお待ちください!」



 ビラッツがゼフィランサスの分を後回しにしたせいで、周りの緊張が最高潮になる……


 皆がゼフィランサスの表情を伺うと、彼女はイラッとした顔になっている。



「ゼフィランサスさん、これ食べて良いですよ?別に僕は急いでないし……」


「ママ!私の分もあげる!一緒に食べよう?」



 僕と龍っ子がそう言った瞬間、ゼフィランサスの表情はにこやかになる。


 そして龍っ子の『ママ』の一言で、ビラッツの首がフクロウのようにゴリゴリ音を鳴らしと後ろを見る……



「お母上様!?お嬢様のですか!?こ!これは失礼致しました!!このビラッツ!!痛恨のミスに御座います!!冒険者ギルドでしたので、てっきり相席された何処かの貴族様かと!!」



 ビラッツの説明は、それはそれで貴族のリーチウムに失礼だった。



「我々は常々、店の大恩たるヒロ様を優先させて頂いてまして……此方のお嬢様には更に優先させて頂いたのですが……まさかヒロ様の奥様であられるとは!!シェフ!!直ちにもう一枚特上厚めを仕上げなさい!」



 そう言ってビラッツは、1.5倍厚のホーンラビットのステーキをシェフに焼き上げさせて、ゼフィランサスの前に出す。



「まぁ!!いい香り!!この肉厚も良いわね。人として食べるとこんなに分厚く感じるのね!!」



「人として??」



 ビラッツは不思議に思ったが、しっかりと口に出て居た……


 ゼフィランサスはペロリと平らげると、おかわりを言う。


 そして待っている間に、片腕を龍化させて鱗を一枚剥がす。



「ビラッツと言ったわね!これを……。コレがあれば大抵の魔物は貴方達には近寄らないわ!恐怖に慄いて逃げるからね!娘の為に肉を届けてくれたわね?コレはその時のお礼よ?とっておくと良いわ!」



 メタルレッドの火龍の鱗を貰ったビラッツは、ゼフィランサスの名前をよく思い出す……


 その鱗は普通に見るとメタルレッドだが、光の当て方を変えるとオレンジっぽく光る。



「奥様……お名前はゼフィランサス様と仰いましたか?ま……まさか……神話や童話に出て来る!?あのゼフィランサス・レム・シューティングスター様?」



「ええ!そうよ?なんで今更?………ああ!娘にはまだ名前が無いものね!分からないのも無理は無いわね!この子が私の娘で、まだ名無しよ。いずれ人族や魔族から何か名前を呼ばれる筈よ。恐怖の対象か、はたまた神の如くかはわからないけれども!でも……それまでは名無しでも我慢してあげて頂戴!」



 ビラッツは恐れ慄きながらも、商売人の根性を見せる。



「いいか!皆の者全力で肉を焼くのだ!!ゼフィランサス様にお腹いっぱいだと言わせる迄は帰らんぞ!!」



 ビラッツを侮っていたが、すごい商売人魂だ……


 それから肉を焼いては出して、足らなくなったら店から補充するの繰り返しをした……


 その結果勝敗は『ビラッツの負け』だった。



「む!無念で御座います!!肉の在庫が切れるとは!このビラッツ!!もう残念でなりません!!」



「貴方ってパパと同じで私が怖く無いのね?変な人!良いわ気分がいいから今日は特別に狩りをしてきてあげる!そうね……美味しいお肉と言ったらアレかしら……ちょっと外で待ってなさい!」



 そう言ってゼフィランサスはギルドから出て行く。


 皆で彼女を追いかけると、彼女は『トトトト』と軽やかにギルドの壁を駆け上り、着ていた衣服が鱗に変わる。


 すると巨大且つ真っ赤な火龍になって飛び去っていった……

 

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