第539話「ドワーフの廃墟に住む謎の老人」


「儂になんか用か?童!そんなアイテムで名指しされたら迷惑じゃろう?少しは考えんか………まったく………」



 そう言った老人は僕の背後からドワーフ王の真横に位置を移して『坊主も元気そうじゃな?割と老けたか……どうだ少しは賢くなったか?』等と言う……


 フレディと言うお爺さんはかなりの距離を『転移』した……


 その方法が転移と分かった理由は『ポチ』の転移を見ていたからだが、ドワーフ王の横に行った時にすぐに『スキルと違いがある』と理解できた。



 見た感じ特定の場所へ飛ぶ様なスキルと異なり、この世界の転移とは性質が違う気がするのだが……


 あのアナベルの知り合いならば、それが出来るのも頷けてしまう。



「…………驚かんのか?童の癖に……他の奴はアホみたいに口を開けっ放しだが?………」



「知り合いに似た事をする『猫』がいるので……似ているなぁ……と思ったんですよ!」



「かっかっか!!そうか!そうか!!ポチの知り合いか?童は!」



 そう言ったお爺さんは、僕を頭の天辺から爪先まで見回すと『面白い奴も居たもんじゃ……儂も隠居生活も場所を移すかのぉ』と言って地面に座り込む。



「儂はフレディじゃ……世間を捨てて、この鉱山内部で自給自足しとったんじゃ。そしたら、バウギンとジェガンがこの廃墟に逃げ込んできたんじゃよ。まぁそれからは畑の手伝いをして貰ってたんじゃがな」



 僕は鉱山都市廃墟を見回すと、明かりは外の様にあり洞窟内部なのに畑も広がっている。


 見た感じ、階層ごとに環境が違うダンジョンの一角にも見える。



「かっかっか!ダンジョンみたいだ……と思った顔じゃな?確かに環境は似ておるじゃが全く別物じゃよ。まぁ悪用する馬鹿が後を絶たんから秘密じゃがな」



「そんな事はどうでも良いさ爺さん。アタイが聴きたいのは、引き篭もって此処で何してようが爺さんの勝手だが、其処のバウギンが見た『正体不明の魔物』ってのは何なのさ?あんた知ってんじゃ無いのかい?」



 話に割って入ってきたエクシアだったが、聞く事の要点は正しかった。


 その魔物が何か分からない時点で、詰んでいるのだ。



 調べようもなく、何処に潜んでいるかもわからない。


 気がついたらドワーフ王の様に、危険に身を投じている事さえあるのだ。



「ああ……アイツらはお前達であってお前たちで無い者……『ドッペルゲンガー』じゃよ!馬鹿なドワーフがダンジョンで力に溺れて、穢れから生み出したんじゃろうな……」



 フレディは勿体ぶる事もなく、淡々と説明する。


 どうやらガウギン侯爵が、ダンジョン内で自分の力不足を感じたせいで『力を欲した』様だ。


 だからこそ、バウギン伯爵が見た異常行動に繋がり、ガウギン公爵は魔物の心臓を摂取したのだろう。



「フレディさん質問ですが、魔物肉にはその様な作用があるって事なんですか?」



「そんなわけ無いじゃろう!魔物の心臓を食べた話じゃろう?あんなもん肉だろう……まったく……。問題は『穢れ』じゃ!その穢れを多く纏い魔物核の魔石を食せば、『魔物』そのものになってもおかしく無いと思わんか?」



 フレディの話では魔物肉を幾ら食べても属性強化も魔力強化も出来ないそうだ。


 実際かなりの種族を食べたが、何も起きなかったらしい。


 問題は魔石を粉砕して摂取したところ、ステータスの大幅アップを見込めたらしい。



 それはスライムの育成で経験がある。


 魔物の核である魔石を与えると上限など強化出来るのだから、魔物だけでなく人間にも作用してもおかしくは無い。



 問題は『良い方』に作用するわけでは無いだろう……と言う事だ。



 魔物と人間の構造が違うのだから『不都合』が起きてもおかしくは無い。


 結果的に『ドッペルゲンガー』の魔物を生み出して『逆に捕食された』と考えるのが自然だろう……とフレディは言った。



 詳しくは『ガウギン侯爵』しかその事を知る者はいないだろうが、『ドッペルゲンガー』を捕縛すれば少しは分かるのでは?と言う答えだった。



 ドッペルゲンガーは魔物の中でも知能が高く狡賢いそうだ。


 言われて見れば、今回の事件の全てに『ドッペルゲンガー』が絡んでいるとすれば、相当知能は高いだろう。


 貴族としてドワーフの王都で暮らし、成り済ましたままドワーフ国の政治にも参加するのだ………知能が低い筈もない。



「勿論じゃが、儂の知り合いに『ドッペルゲンガー』などおらんからの……詳しい生態などは分かる筈もないぞ?儂はバウギンが来たときに、数匹のドッペルゲンガーを始末したからそう予測して話したまでじゃ!」



 バウギンとジェガンは既にその事を聞いていた様で、驚く様子などは一切見せないが『ガウギン侯爵』のドッペルゲンガーが、今何処で悪さをしているかが気になって仕方ない様だ。


 ある意味奥さんの仇なのだ当然である。



 僕は奥さんのドッペルゲンガーについて話を聞いた。


 どうして存在しているのか理由が分からないと、万が一奥さんのドッペルゲンガーと対面した場合、バウギンは剣を持って戦えないだろう。



「多分じゃが……ドッペルゲンガーは、対象の細胞を摂取する必要があると思われるな……部位が多いほど完璧に擬態出来るのかもしれんな……あくまで想像の域じゃぞ?」



「もしかして……想像の根拠があるのですか?」



「うむ………何故ならば、バウギンの妻はダンジョンに入った事はないそうなのだ。此処でよく奥さんの話をしておった」



「フレディさんの言う通りですね。西地区に来る途中で『ドッペルゲンガー』と思わしき魔物に襲われ、助ける間も無く妻は亡くなりました。妻は坑道内探索時の怪我対処をする役割でしたから。私はガウギン侯爵の要請は全て断り、ダンジョンには一歩も行かせませんでした」



 僕はフレディと言うお爺さんと、バウギン伯爵とジェガンの姿を交互に見る。


 理由は簡単で小綺麗な格好のフレディに比べて、バウギンとジェガンはあまりにも酷すぎたからだ。



「童!お主からも言ってやってくれ!コイツら服を変えんわ髭も髪も手入れせんわ……汚いんじゃ!」



「我々はドワーフ王都で王から頂いた先遣隊の正装を、捨てるわけにはいかんと言っておるだけだ!幾らボロボロだとしてもだ!!」



「100歩譲って服は良い……髭と髪くらい自分で何とかできんのか?どれだけ暇があったと思っておるんじゃ?」



「私は何時もドワーフ王都の決まった散髪店で切って貰っておるのだ!それに髭はドワーフの命!変に切って不恰好な時に陛下が来たら合わせる顔がないだろう!!」



「私も偶然バウギン伯爵様と同じ散髪店を使っています!だから、よーく理解出来ます!!それにドワーフの命ですから!髭は!変になるくらいならしばらく我慢したほうが良いのです!」



「よく言った!ジェガン!!アイアンドワーフ族にしておくのが勿体無いぞ!!」



 王様はその言葉に困った顔をする……見るからにボロボロになっているその服を、そこまでして着て貰わなくても大丈夫と言う顔だ。


 そして髪と髭については何も言わずにそっぽを向く。



「じゃあ王様から服を貰ったならば着替えますよね?……と言うことです!王様……これじゃ……ドワーフの威厳が地に落ちますよ?ジェムズマインの街でコレ見られたら……」



 王様は慌ててお付きに申しつけて、マジックバッグから替えの服を二着取り出させると二人へそれを渡す。



「よく此処で凌いでくれた!コレは儂からの褒美だ!着るが良い!サイズは若干大きいだろうが……王都についたら新しい服を用意させよう!!分かったか?それを『着る』のだぞ?必ずだぞ!!」



 バウギン伯爵とディガンは跪いて其れを受け取ると、廃屋へすっ飛んでいく。



「ヒロ殿!よく言ってくれた……感謝するぞ!どうすれば良いか悩んでおったのだ!!解決は以外にも簡単だったな!はっはっは!!」


 どうやら僕だけでなく、王様も困っていた様だ………

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