第533話「ドワーフ軍あるまじき大失態」

 

 ザムド伯爵は、ジェムズマインで起きている問題を隠さず話すことにした……


 お互い問題が起きている現状では、包み隠さず話したほうがお互い変な勘繰りをしないで済むと感じたからだ。


 「問題はそれだけに留まらず、名前持ちのホブゴブリンがドワーフ地下都市に逃げ込んだ様なのです。その魔物はトレンチのダンジョンに居た魔物ですが、ダンジョンに縛られる事なくダンジョンを渡り歩いたのです……魔物が自由に移るなど前例が無いので、坑道内部は現時点ではジェムズマインの危険地帯区域になったのです……」



 全て話した理由は、万が一遠征が失敗に終わりダンジョンがこれ以上活性化されたら、元領主として堪らないのだろう……


 ザムド伯爵の話はダンジョンメインだったが、ドワーフ王は静かにそれを聴いていた。



 そして問題を起こしたのが自国民であり、使者として起用したブロックにドワーフ貴族のバウギンだと即座に理解する。



「成程……その様子ではドワーフ側の使者ブロックが無理難題を言った様であるな……我とすれば、グリムゾン・ミスリルクラウンの回収だけ出来れば問題はない」



 そう言った王は、クリムゾン・ミスリルを指差してそう言い話の続きをする。



「ダンジョンへ潜るのが人族と共同であろうがドワーフ単独であろうがな……。万が一、人族に問題があった場合ダンジョンへ潜れないと困るので我は軍を率いた迄なのだ。それもこれもダンジョンへ吸収される前に、クラウンを回収する為であるが………それに行動予定は全て人族の王へ通達したがな?」



「「なんですと!?…………」」



「ウィンディアお前宛に連絡は?」



「無いぞ?ザムドお前には?」



「「「……………」」」



 ダンジョンの一部になったドワーフ都市の遺物は、時間と共にダンジョンへ吸収されてしまう。


 ドワーフ王が焦るのも当然だった。



 だが僕達の問題は別にある『ドワーフ側は事前通達した』と言っている。


 しかしながらウィンディアとザムドは聴いていなかった。



 当然そのおかしい反応を予測してのドワーフ王の発言だった様だが………



「………むむ!?その反応……アラヤトムにキングケリー……通達事項は誰が行う予定だった?其方もあの議場に居合わせたよな?」



「は!陛下……私の記憶が正しければ、ガウギン侯爵が人族の王都へ出向いたはずですが……」



「陛下!発言の許可を………」



 何やら問題が起きているのは、聞いている僕達にもすぐに分かった。


 キングゲリーの説明では、バウギンの他にもガウギンと言うドワーフ貴族がいる様だ。



 人族への報告をしていたのが『ガウギン侯爵』という名前の様で、本来そのドワーフの貴族を通して、様々な予定や情報を提供して共存を図る役目だったらしい。



 しかし問題はその貴族が『ドワーフ達の行動予定』を人族へした形跡がないと、キングゲリーが言った事だ。


 ドワーフ王は髭を撫でながら『やはりな!』と言っていたので、その時点で事の顛末は予想していた様だ。



「ザムド伯爵殿にウィンディア新領主殿……馬鹿な同族がこれ程多く居たとは……我が目は節穴同然だった様だ……申し訳ない!」



 王は姿勢を正して二人へ謝罪するが、その直後ドアをノックする音が響く……



『コンコン』



「失礼いたします!伯爵様……急ぎお知らせが……ドワーフ軍が『撤退』しております……」



「な!?なんだと!?ドワーフの王も姫も貴族達も3人居るのだぞ?何故そんな事になっているんだ?……あ!!申し訳ございません……陛下に姫殿下……余りにもおかしい状況な為つい……」



「か……構わぬ……我とて驚いておるのだ。怪我人多数とは言え、我が自慢の戦士団が王族を放り出して撤退など……ディガン男爵にホーガン男爵は何をしておるのだ!」



 言葉からして王権派のドワーフ貴族なのだろう。


 僕はザムド伯爵が衛兵から報告を受けた時点で、『相手が新たな策』を使ってきたと予測した……



 僕は今までの情報を自分なりに纏めて見る。



 人族がドワーフ単独のダンジョン探索を拒否した場合、バウギンは拒否した事を利用して強硬手段に出ていたのだろう。



 しかし少しばかり予定が変わり、クリムゾンミスリルをうまく利用する事が出来る『完全な理由』が出来た。


 そこで、人族の持っていたクリムゾンミスリルを利用して、違和感なく仲間を誘導した。



 人族が絆を重んじておとなしくしていれば、その間にジェムマイン鉱山を手に入れダンジョン探索し目的を果たしたのだろう。


 そして王を玉座から引き摺り落とし、彼等が王国の実権と王の座を手に入れたのだろう。



 バウギン一派にして見れば、クリムゾンミスリルは王権を得る為の手段でしか無く、そこまで重要な物では無いのだろう。



 しかし想定外の問題が起きた……


 中立派が主導権を握り、悪辣貴族数名を従えてジェムズマインを包囲したのだ。


 そしてその後、僕に王族だけで無く中立派貴族の3名まで攫われてしまった………だからこそ彼等はそれを『チャンス』に変えたのでは無いだろうか?



 王が不在の今ならば『実権』は思うがままだろう……


 それもご丁寧に『中立派』まで攫ったのだから、国内では好き放題言える事だろう。



「やっちゃいましたね……王族と中立派3名を僕が攫った事で、『口実』を与えてしまいましたね……。ドワーフの貴族達を説き伏せるのに恰好な餌になってしまいました。でも皆さんを今帰したら、それはそれで危険ですよね?秘密を知った王族と貴族を生かしてドワーフ国まで帰すとは思えないと言うか……」



 僕はドワーフ軍内部に危険分子がいる事を示唆する。


 そして、僕達はどうするべきか答えが出ない……


 バウギンが引き連れた兵士がどれだけ脅威かも想像できない僕は、安直に戻った方がいいとも言い辛かった。



 しかし王族が全員戻らねば、ドワーフと人族の衝突は回避不可能だろう……


 こんな事になった事情を知らない、ドワーフ達にすれば『王族奪還』意外の選択肢はないだろう。



 しかし僕は、取り囲んでいた一角を壊滅させた。


 だからこそ今すぐ反撃とはならず、体制を立て直すべく一度戻る事を選択したのだろう……



『コンコン……コンコン』



 またもや突然に部屋のドアを叩く音がする……しかしその音は既に遠慮がないものになっていた。


 予想外の方向に事態はどんどん進んでいく………


 入室許可もしてないのに衛兵が飛び込んできたからだ。



「ウィンディア領主様!緊急事態により入室致します!」



「大変です!!物見櫓からの報告ですが、鉱山より雪崩の様にゴブリンとホブゴブリンが押し寄せているそうです!!中にはオークの個体も含まれていて、鉱山内部のダンジョンからのダンジョン・スタンピードと思われます!」



 衛兵は手短に現状の報告をするが、ドワーフの撤退に絡むことなどではなく、鉱山から魔物が溢れ出たなどと言い始める。



「何だと!?ま!!まさか何故!?今………一体何があったのだ!この短期間に!」



「な……なんだと!!間違いなくあのバウギン伯爵の仕業だろう………彼奴はダンジョンの事を言っておった。鉱山を事実上占拠した以上、ダンジョン内部の掃討戦をする準備をしてたのだ…」



 あの本陣には居なかったドワーフ貴族の様で、僕が王様を救出する前に鉱山戦の為に本陣天幕テントから出て行ったそうだ。



「まさか……あのダンジョンに挑むとは……どれほどの装備と規模で行軍予定だったのですか!?」



「儂が捕縛されている時の話だが……全パーティー6人編成で組んでいた。ドワーフ・アクスラーが2部隊に、重装兵アイアン・グレートハンマラー部隊が3部隊、ドワーフ・スピアマンが2部隊の総勢42名迄だ……それを占拠後すぐに鉱山に向かわせたと言っておった……」



「ドワーフ陛下!聞いていいですか?」



「なんだ?ヒロ殿?」



 僕は鉱山戦の指揮をしている貴族と、その背後にいるだろうと思われるドワーフ貴族の名前を聞いた……


 何故ならば、ここに居るだろうその悪辣貴族は間違いなく『使いっ走り』に違いないだろうからだ。

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