第532話「ドワーフ戦士団をタコ殴り」
「大丈夫だと思うよ……多分。ジャイアントの拳より間違いなく硬いけど………ギリギリ死んでは無いはずだよ……きっとね……」
「あ!それは大丈夫です!本気では殴らせてませんから!」
ゴーレムには死なない程度に殴らせているが、正直当たりどころが悪ければ死んでいるかも知れないなぁ……と思っていた。
しかしドワーフ達はかなりタフな様で簡易ステータスを見る限りHPが瀕死状態になっている物は誰も居ない。
問題は、殴られた戦士は殆ど『気絶』の状態になっているので、早く回収してあげて欲しいものだ。
王様は青褪めながら自分の戦士団が蹴散らされるのを見ていたが………『皆の者!挑むのをやめよ!命がいくらあっても足らんぞ!』などと大きな声で言ってくれたものだから、戦場は更に熱を帯びてしまった。
『ドワーフ戦士の底意地を見せてやる!ドワーフに栄光あれ!』と、あちこちで雄叫びを上げては飛びかかり、ゴーレムにぶん殴られては森の中へ飛んでいく……
「ドワーフってこういう感じなんですね?挑みたくて仕方ない……って顔してますよ……皆さん……」
「ちょっと待つのじゃ!!今お主何処からそのアラヤトムを連れてきた?」
僕はゴーレムに指示を出して、意識が飛んでいる彼を回収して来させたが、偶然皆に声をかけていた王様は見ていなかった様だ。
「親父もう良いからそう言うの……あ!ヒロ今飛んで行ったガタイの良い上半身裸なのが、シルバードワーフ族トロル・スレイヤーのキングケリーって言う貴族だ。アイツも回収してくれる?」
どうやら数人で連携をして襲いかかって来たドワーフの中に、その探している人物がいた様だ……
一撃では沈まず『フーフー』言いながら彼は、眉間に筋をたてて突貫する準備をしていた。
僕は彼の突撃に合わせて『アクアプリン』を召喚した……物理攻撃無効だ……
切っても無駄だと気が付かない様なので、ゴーレムの両手で『ガシッ』と掴ませると、ようやく観念した……
キングゲリーは傷だらけなので、アクアプリンの上で休憩させておこう……傷薬をあげたいが僕を睨んでいるから、声はかけない方が良さそうだ。
そう思っていると、攻撃をせずに近づいて来たドワーフの男がいた。
「あ!アイツがオーガ・スレイヤーのホルトゲイリーだよ!シルバードワーフ族の貴族で連れて行く中立派の奴ね!」
「陛下……すいませんが一緒に来る様に言ってもらえますか?多分攻撃して来ないって事は何か魂胆があると思うので!」
「う………うむ………分かった……まだミドリからは何も聞いておらんのだが……この際まぁ仕方ない……これ以上鉄を打った火花の様に、同胞が飛んでいくのは見てて忍びないからな………」
僕は彼等を飛ばしたくてやっている訳では無いが、行く手を阻むのだから仕方ない。
そもそも勝手に街を包囲し始めたのはドワーフ達だから、やってはいけない事も有ると理解してくれただろう。
王様はホルトゲイリーと呼ばれたドワーフの男に声をかけたが、彼は僕に近づくとチャンスとばかりに斬りかかって来た。
つい僕はそれを迎撃してしまう……
「風っ子……僕がやるとウッカリ大変なことになってしまうから、魔法か何かで地面に叩き落としてくれる?」
『ようやく私の出番ね!?仕方ないわね!まぁさっきから見てて……アイツ等ぴょんぴょん鬱陶しいから、全部纏めて叩きつけとくわ!………ダウンストーム・フィールド!!』
天から打ち付ける突風で、目の前のドワーフ軍が壊滅する……
あたり一面から絶叫しか聞こえない……やったのは『風っ子』で僕では無い……そう思うしか無い……
「ああああ!わしの戦士団が!!なんて事じゃぁぁぁ!!」
王様の絶叫が聞こえたかと思うと、口をパクパクさせて『来るんじゃなかった』と、小さく呟いていた。
そしてようやくジェムズマインの正門が見えて来た……邪魔するドワーフがいなくなったので、順調に帰れたおかげだ。
しかしそこには、オーガの様な顔をするザムド伯爵とウィンディア伯爵に、真っ赤になった海坊主の様なギルドマスターのテカーリンがいる……
逃げたい………非常に………逃げたい………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「居なくなったと思ったら……エルフレア殿から報告が来たぞ!!ザムドと止めようと思い衛兵を集めていたら……どうしたらこうなるのだ!!」
「そうだぞ、ヒロ男爵!ウィンディアの言う通り、今回は庇いだてなど出来んぞ?ドワーフ軍90名が壊滅だ!!なんと言えば良いのだ!!人族がウッカリ手を出したなどと言えないぞ!」
ごもっともだ……最近チヤホヤされていた風っ子は『褒められる』と思って全滅させたが……やったらアカン事ナンバーワンだったのだ。
ドワーフ王は肩を落とし見た感じ、いじけたお爺ちゃんになってしまった。
そしてドワーフ貴族は全員が僕より爵位が高い『伯爵位』の3名だった。
そしてその彼らは、シャインに回復されている。
「完敗じゃ!この……アラヤトム戦闘で気を失ったなどとは……生まれて初めてだ………」
「アラヤトム……仕方ないぞ……我もホルトゲイリーも完敗だ……今から思えば、何をもってしても勝てそうには思えない……」
「ああ!キングケリーの言う通りだ……ゴーレムに召喚魔獣そして事もあろうに『精霊』だ……全滅など生温い!!命があるだけ有難い……流石風精霊!我は良い勉強になったぞ!だから怒らんでやってくれるか……元々悪どい手段で応じたのがバウギンだったのだ!新領主殿に、ザムド伯爵様!」
理由をザックリ聞いた3人のドワーフは怒りを抑えられない様で、すぐにバウギンを八つ裂きにしに行くと言って聞かなかったので、麻痺針でおとなしくさせた。
動けなくなったにも関わらず、転がってでも行こうともがく彼らを止めたのが、ハルナとミドリだった。
戦士団が一人の小僧に負けてしまい、現実を受け入れたく無い王様はいじけた親父になり、いまだに回復しないので『クリムゾン・ミスリルインゴット』を見せる。
詳しい説明はハルナとミドリに丸投げだが、問題は回復をそっちのけにして3人のスレイヤー達が机に齧り付く様にしてみている。
「なんと……インゴットは誠であったか……ではこの街に加工場が?」
「だから違うって!今からハルナが説明すっから待ってろっての武器馬鹿が!!」
「ミドリ殿下……仕方ない事でございますぞ?ここまでの量など今まで見たことも聞いた事も無いのですから!……ですがダンジョン産と言うことなのでしょうな……そして雰囲気から察するにヒロ殿の私物で、それを我々に提供する意思があったと……それをぶっ壊したのがバウギンの馬鹿だったと……」
キングケリーの読みは素晴らしく、ほぼ言い当てている……
ザックリ話した説明は、予定の物は手に入ったから軍を送る必要がなくなり、その報告へ帰った。
だが、それを悪用したのがバウギンだと話したのだ。
僕が作った事を除けば正解率100%だ……僕が作った事を言っていたら120%だったのに……非常に惜しい!!
歳をとったお爺ちゃんの様だったドワーフ王は、インゴットを見た途端やる気を出した様で……
「我々の宿願の為に………やはり人族は我々の友だったのだな……申し訳ない!人族の皆様方!!我が同胞が欲に駆られてお互いの関係を破壊する様な真似を!!」
「我々はドワーフの皆様がダンジョンや坑道に入るのは反対はしません。ですが……恥ずかしい事に先日冒険者と騎士団の連合団がダンジョンで敗北し帰還したのです。そのせいで現時点ではダンジョンに変化が起きています。その理由からドワーフ戦士団単独でダンジョンアタックをされるのは現時点では許可出来かねます……」
僕が変な事を言わないかハラハラしていたザムド伯爵と新領主のウィンディア伯爵は、ドワーフ王の言葉に即座に反応して返事を返していた。
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