第509話「舞姫ミセラの忠告を悪用する巫女達」


「アンタ………こりゃ地図かい?三箇所のバツ印は何だい?」



「そこがダンジョンの場所だ。俺は金の為に雇われてたんだっていっただろう?それも王国側の協力者がいるから問題ないと聞いたんだよ!こんな事になるって知ってたら危ない橋なんか渡るかよ!だろう?」



「ふむ……ならばその身柄は我らが街ジェムズマインで匿い、小国郡と王都関係者の『黒幕』がわかった時には証言をせよ!さすれば『減刑』にしてやろう!しかし裏切った場合は、その場で手討ちにするぞ!わかったな!」



 ウィンディア伯爵は減刑を餌に証拠を確保したようだ。



「だが今は此処でこうしている時間がヤバいんだよね?さっさと準備をしてすぐに隣に移らないとダメだよね?」



 僕はダンジョンを出てからずっとそれを言っているが、一向に聴き入れて貰えてないのだ。



「ずっと言ってますよ?何の為に精霊が頑張ったのか無駄になっちゃいます!!」



「私が居ながら申し訳ありません……各村長へ説明に行っていたので大変遅くなってしまいました……まさか私の育った村が一番揉めているとは思っても居なかったので……」



 舞姫ミセラは水鏡村の村民に説明をする……



「水鏡村の皆様、ヒロ様は見ての通り『水精霊の神子様』です。上級水精霊様はすぐにこの村を出て安全を得る事を望んでいます!それをヒロ様に伝えられました!準備をして1刻のうちに隣村である『薔薇村』へお急ぎ下さい。水の精霊様の言葉を伝えるのが私たちの役目でございます!急がれませ!」



「行くぞ!皆!精霊様の最後を無駄にするな!!」



「「「そうだ!薔薇村に急いで行くぞ!皆に知らせろ!!」」」



 村民は互いに連絡を取り合って、隣人同士の移動班を組んでは村の外に集まって薔薇村に向かって行った。



 ミセラの説得に応じた各集落の人間は少なく、薔薇村に移動したのは僅かだった。


 その理由は簡単で、各村の巫女は絶対的な存在だったからだ。



 今まで応援し屋台骨を支えてきたのだ……自分たちが支える巫女が『背信者』だと言われれば、反発するのは当然だ。


 それが水鏡村の舞姫発言でも、聞き入れない村民が居るのは仕方がない。



 その上各巫女は自分が『選ばれた者』でない事などは百も承知だ……


 献金者に縋る『ヒル』と言われても仕方ない……と『自覚をしている』からだ。



 しかし『富』と『権力』は人間を根っこから駄目にする。


 彼女達は今の座を失いたくないのだ……ならばどうするか……


 従う村民を連れて『自分の居場所』を作る事を決めたのだった……



 どう言うことか……と言えば簡単で、自分を崇拝する『貴族』に取り入って『水精霊』を祀る『器』たる教団を作る事にしたのだ。



 しかし突然その考えに至ったわけではない。


 たまたま機が熟しただけなのだ……



 自分の『巫女』としての役目が終わった時に、彼女達は次代の巫女育成などする気がなかったのだ。


 彼女達はチヤホヤされて『権力』を自由に使いたい放題だった為、精霊に祈るのではなく新たな地位を作る為に奔走していた。



 そして『烙印』の発現も『村の崩壊』もベストタイミングだった。



 『今なら不自然になる事も無く、信者を移動させられる………移動先でもコレを利用すれば怪しまれない!!だが水精霊の気配は一切感じ取れなくなった……充分注意せねばならない!!」



 それが彼女達の考えだった……



 村民は知らないが各巫女はそれぞれに『内通者』を用意していた……



 西の宮の巫女は『帝国』の内通者と……南の宮の巫女は『王国』の『反王権派勢力』に……北の宮の巫女は『小国郡国家』の内通者だ。



 そこにミセラが『背信者』と言って乗り込んでくれば、間違いなく分裂する。



 『天啓とはこの事だ!!……全員で今日中に村を出られる!』……そう思うと即座に夜間行軍を実行する巫女達。


 魔物が多く出る『夜』に危険な強行軍をする巫女達だったが、当然移動の準備をしていた。



 多くの『魔物避けのお香』に『魔物避けの魔法陣』それに移動資金の確保だ。


 そして移動に備えて村には護衛兵も増やしていたのだ……自分達だけで移動すれば『信者』不足で教団資金がすぐに干上がってしまう。


 だからこそ従前に用意していた……満足できる私財をだ……。



 各村の巫女は『村民が欠ける事なく安全に新天地へ連れて行く!』と言い、言葉巧みに連れ出す事に成功した。



 その結果………



 薔薇村に避難した総数が80名17家族


 ジェムズマイン経由で『帝国領移動』が58名13家族


 『小国郡国家』への移動が40名10家族


 王都の『反王権派』領内に64名16家族


 が移動する事となった………



 文字通りバラバラだが、精霊達の希望した『村からの避難』は成し遂げられた。


 だが後々これが不運にも争いに種になって行く……『水精霊の聖地』となった『水鏡村跡地』を巡る争いだ………



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ヒロ様!!事情は聞きました!!住む場所は満足な数は有りませんが、我ら全員で協力する所存です!!」



 僕達は全員で移動経路の安全を確保した。


 最後にテントを畳むと村を巡って人が残ってないか、家畜が残ってないかを確認する。


 生き物は何も残すことは出来ない……魔物になってしまうからだ。



 僕達は真っ暗になった村を入り口から眺める……



『姉様!!私が最後のお別れをさせて頂きます……長い間封印をして頂き有難う御座います。魂の円環に戻ったらまた『水精霊』になる事を心から祈っております!『輝け!!水輝石!!闇を防いだ姉様達の為に!!』………』



 村の水輝石は、水っ子が天から撒いた水によって全てが光り始める。



「水っ子……この村は必ず取り返すから!その時また光らせよう……絶対に!今度は村人も一緒にこの光景を見よう!」



『うん………うん………約束だよ!ヒロ!姉様達のいたこの場所を取り返して!!』



 僕達はそう話すと村を後にした………



 深夜にも関わらず薔薇村の村民は起きていて、水鏡村の住民を受け入れ続けていた。


 当然寝泊まりは雑魚寝になり一つの家に何十人も宿泊する事になる。


 来ることは問題無いが『住む場所』がないのだ……村人も隣村の住人を放って寝られないのはよくわかる。



 僕は村長に部屋を一つ借りる。


 そのあと椅子で扉が開かないようにしてから『倉庫』を出す。



「あんさん!!また大変な事になってますな!今オーダー見ましたぜ!帰ろうとしたら大変な事になっていたからずっとモノリスプレートで見てましたわ!」


 無理に言葉を作っているので大変そうだ……追加分のオーダーはまだ確保しに行ってないようだった。


 だが今となっては、それはそれで助かった。



「追加があるんだ!テントが大量に必要でさ……見てたなら分かるだろうけど住む場所が無いんだよね!オーダーかけて催促したら早くなる?少し高くなっても仕方ないと思ってるけど……」



「出来まっせ!どんどんウェルカム!!最近他のお客さんの財布の紐か硬くてなー!困ってたんですわ!カミさんも子供も稼いでこい稼いでこい煩くてなー!!助かりまっせ!!」


 大量発注と言ったら興奮から言葉遣いが戻ったようだ。


「テントがって言ってましたわな?コレなんかどうですか?5人用テント!ビーチにフェス!!耐水仕様でキャリーバッグ付き!!人の目を気にしなくて済む作りにそれにコレ!今セール中で安いっすよ!」



 二足歩行のネコの『ポチ』が言ったテントはかなり安かった。


 型落ち品らしいがこの際数が揃えば問題ない……20個までは確保できるようなので、その全部を買い尽くす。


 だがまだ買い物は終わりではない……

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