第500話「水氷の舞姫ミセラの後悔と固い決意」


「し!信じられません!!そんな事……ダンジョンを封じていた?それを台無しにしたのが……我々の『水精霊の信者』ですって?」



「正確に言うと『背信者』なので、貴方達の裏切り者であり『進む道が既に違う』人達ですけどね?でも破壊されたのは事実ですし、既に6人の上級水精霊は生命の円環に戻ったそうです」



 僕はそう言って『水氷の半分砕けたトーテム像』を舞姫に見せると、人目を憚る事無く泣き始めた。



「そんな!うううう……そんな事……なりません……水精霊様!我々を見放さないでください!………うううう……彼奴らなんて事を!…………許しません!絶対に許しません!!あの背信者共め!!事もあろうに水精霊様の御救いの御業を破壊するなど……」



「ミセラさん気持ちは分かりますが、今は此処を出る事を優先します。それに周囲を探しに行った皆を集めて回らないとならないので時間をかけている訳にはいきませんから!」


 僕がそう言うと、ミセラは


「ううう……すいません仰る通りです!つい憤慨してしまいました……水精霊様の望みを私が台無しにする訳には参りません。散った者達を今すぐ皆を呼び集めます」


 と言って、ミセラは手に持ったタリスマンを強く握りしめ祈り始める。



「皆さん、助けが参りましたので集まって下さい。私からも報告せねばならないことがあります故直ちに御戻りください」


 とタリスマンに話し始める。



「これですぐにお付き達は戻って来るはずです」


 タリスマンをみて『それってなんでしょう?』と僕は聞くと、ミセラは、『同種のタリスマン』を持つ者へ『念話』を伝えるアイテムだと言った。


 僕はこっそり『鑑定』をかける……『悪戯妖精の意思疎通のタリマスマン』



「あああ……な……何でしょう?このすごく不快な感じは……酷い頭痛も……アラ?………収まりました……まさか……このダンジョンに異変が!?」


 鑑定直後にミセラは頭を抱えて苦しみ出し、周りを伺う素振りをする……



 やらかした……ミセラは『鑑定スキル持ち』の様だ……



 しかし僕を見る事もなく非常に不安がっている……一応それとなく心配する振りをしておこうと思い声をかける。



「だ……大丈夫ですか?頭痛ですか?」



「実は……ここ最近……酷い頭痛がしたり高熱が出まして……未だに本調子では無いのです……最近おかしい物が見えたり……」



「おかしな物とは?」



 僕はミセラのその話を詳しく聞くと『鑑定スキルの力に目覚めたばかり』の様だった。


 僕と同じ様に文字が重なって見えたりしているそうだ。



「冒険者様は冒険中色々な体験をすると思いますが……そんな変な事あったりしますか?」



「前に話を聞いた事がありますが……『鑑定』の一種ですね……その力は多用せず、周りには『黙っていた方が』いい様です」



「やはりそうですか……何となくそうかとは思っていましたが……実は私は文字が書けない物でなんて書いてあるか読めないのです。それに実はオババ様に、何の能力か説明が付かないから周りが不安になるので『その事をあまり言わない様に』と口止めされていまして……出来れば今の話は内緒にして頂きたいのです」



「大丈夫ですよ!周りも理解してますから!そうですか『文字が読めない』のですか……」



「ハイ……お恥ずかしいのですが……この事も舞姫として『恥』で巫女全体の威厳に関わる事なので、他言しない様にとオババ様に言われましたがついうっかり話してしまうんですよね……小さい時から舞練習だけしかさせて貰えませんでしたから、覚える機会が……なんて言い訳ですね!」


 こんな事もあるんだな……としか言えない何とも勿体無い状態だった。


 幾ら『鑑定スキル』があっても、読み書きを習っていない人間にはそれを扱う事は困難だろう。



「姫様!どうなさいました……『!!』何者ですか!貴方方は!舞姫様から離れなさい!」


「どうした?メローディア何を大声……『!!』姫様!!今すぐお救いしますぞ!」



 僕達が話していると通路の奥から男女が入ってきて、小さな杖を掲げる……



「待ちなさい!メローディアにフレギア!この方達は救援隊です!!」


「「救援隊!?」」



「此処は既にダンジョンの中の様です。どうやら『背信者』が問題を起こした結果、水精霊様方が封印なさったダンジョンの封が解かれ活発化した様です」



「「「ハァハァ…………姫様!無事ですか??」」



 時間を置いて別のお月も到着する……



 状態が飲み込めないお付きは臨戦態勢になったが、ミセラは僕のした説明をお付きへ繰り返し説明する。



 舞姫のミセラはなんとか全員を落ち着かせるが、僕はそれどころでは無い。


 他の救出するべき村人が下の階層から階段を使い上がってきていたのだ……その数4人。


 そしてその中に探していた人物の、ミミの父親ムムーラと妹のモモが居た。



「皆さん!悠長に話してられません。下層から上がってきた『救助者』が居ますので、話の続きは歩きながらでお願いします」



 僕はそう言って怪我のチェックにユイナとミクそして護衛にカナミとアーチをつける。


「ユイナさんとミクちゃんは全員に怪我がないか確認を!カナミちゃんとアーちゃんは念の為の時の護衛でお願いします。ソウマさんとアルベさん、あとチャック!一足先に一緒に迎えにいきましょう。シャインさんとチャイも出来れば一緒に!怪我人がいたら困るから」




「シャインはいつでも準備オッケーです!」


「アイヨ!相変わらず人使いが荒いっすね!ヒロの旦那!!」


「しゃあないの!助けてやらねばアンデッドになって怨まれかねんからな?」


「じゃあ皆んな言ってくるよ……人使いが荒いリーダーを持つと大変だ!」


「チャック!僕も役に立てる場所があったから一緒に行くよ!さぁ頑張ろう!」



 5人の指揮は非常に高いが、問題が起きていた……



 地図には下層階から上がってくる魔物の名前が見えたのだ。



「不味い!魔物の封印が一部解けたみたいだ!『ダーク・ゴブリンが6匹………いや……9匹……10匹……くそ!どんどん増えていく!!」



「ヒロ殿!我々が先行して小鬼共を殲滅しましょう!この階層を倒した後下の階層へ降ります故その間にこの6名を外へ!!」



「エルフの皆さんすいません!お願いします。僕達の脚でより間違いなく速いので!!」



 エルフレアの説明の前に『ダークゴブリン』の名前を聴いたエルフ達は、エルデリアの指揮の元走り出していた。


 僕達は急いで来た道を引き返す。



 少しでも遅くなればミミの家族の命は無いだろう。


 ゴブリンより遥かに凶暴性が高く、下層からワラワラと上がってくるのだ……一見『スタンピード?』とその可能性が頭を過るが、その心配が無い事がわかった。



 20匹程地図に名前が現れてから、ピッタリと魔物が下層から上がって来るのが止まったのだ。


 下層階との分岐路に行き着くと、周りはダークゴブリンの『討伐素材』と『魔石(小)』が散乱していた。



「ヒロさーん!!」


「ヒロしゃまーーー!!」



 間抜けな声がダンジョン通路に響き渡る……どうやらルームは無事やり遂げた様だ。


「ここだーーー!!」


「ルーム!遅いんじゃ馬鹿者が!!今ダークゴブリンが下層から上がってきた!武器を携帯しておけ!!」



 僕の言葉の後に、アルベイは安心しつつも文句を言う。


 ルームの『今そっちへ直ぐに向かいます!!』との言葉を聞いた時エルフ達が『村民』を連れて帰ってきた。



「た!助かりました!冒険者の皆様!貴方達のお陰で、この家族も私達巫女も!!本当に有難う御座います!」


「私は西の巫女パウマーと申しまして、今話していたのは北の巫女リーシャイです」


「私は水輝石を採石師ムムーラで、こっちは娘のモモです!」



「ありがとうございました!危うく死ぬところでした……モモと申します!」



 逃げて居た全員が息切をしている様で、肩で息をしている。


 無事ミミの家族を発見できた……目立った怪我もない様なので個人目標についてはひとまず目標達成だ!

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