第481話「ローリィとエイミィと……トレントの繋がり」


「フォッフォッフォッ!!さすが洞察力が高いだけあるのぉ?……まさかそこまで読んでいたか?我々の領域に娘2人が捨てられて、子供2人などでは暮らせぬのは誰しもわかる事……ならば我々の加護のもと育てるのは森精霊の決まりでもあるのじゃ……我らは人との共存を望むのじゃからな!」



 エイミィもローリィも僕の言葉に口を開けたまま呆け顔だ。


 自分が知らない裏事情を聞いたのだ、驚くのも無理はない……



「だからその娘達にこの森で暮らす『場所』を与えたのじゃ!いずれ自分達の出生地を失った理由に辿り着き、その場所を『穢れ』から取り返せば、少なからず我々『森精霊』の目的は果たせるからな!」



「それではトレント様は、初めから全てをしって私達をこの森で匿って育ててくれてたのですか?」



「ローリィ……その通りだ。この森の事なら微細な事までわかるぞ?お前が腹をすかせたあの日に、完熟のレモップルをやった事を忘れたか?あの後完熟していない実を食べて、酸っぱさにビックリして泣いていたのを今でも忘れていないぞ?」



「そ!それは……昔の事で御座います!あんな甘い実がまさかあのレモップルとは……ヒロと出会うまでは分かりませんでした!!」



「ローリィよ、恥じる事はないだろう?誰でも知らない事はあるぞ?それに間違いと言えばエイミィも同じよ、其方は時期外れの『チェレープ』を食べて味が違うと泣いていたな!懐かしい事だ……あれから随分と経った物だな?」



「ちょっと!トレント様!私までですか?あれは……まさか季節で味が変わるとは思いもしなかったのです!それに此処にくるまでその存在さえ忘れていました!!」



 懐かしい昔話に花を咲かせているようだが、僕は彼女達と話すトレントを見てもう一つわかった事がある。



「トレントさん……『言葉遣いが』変わりましたよ?気がついていますか?」



 僕がそう言った後、トレントは僕を見てから形がみるみる変わっていく。



「ハッハッハ!!我とした事が迂闊だったわ!巣立った娘達に会えたからつい言葉に出てしまったようだ!其方が迷路内で会った『守護者』と同じで、我も主人に仕える一柱なり!騙して申し訳なかったな!」



「「し……新緑の騎士様!?ひえぇぇぇぇぇ!!!」」



 エイミィとローリィは驚きのあまり腰を抜かして、叫び声が裏返る。


 ちなみにルモーラは墜落して『ピクピク』している……その様は蚊取り線香でも吸った蚊のようだ……



「新緑の騎士様?」



「私達がこの森で育った時に、あらゆる魔物を倒して外敵を排除してくれた騎士様です!!クラッシュベアーとの戦いは子供ながらに凄いカッコイイと思っていました……それの記憶があったからこそ何時か私達も冒険者になると決めたのです!」



「ローリィの言う通り!凄い戦いでした!ヒロ様の戦い方とはまた違う凄みがありました。剣戟は鋭く確実で……体捌きは見惚れるほどです!圧倒的パワーのヒロさんとすれば、技巧派の新緑の騎士様です!!」



「ほう!そこまでパワーがあるのか?ヒロは……一度手合わせをしてみたいぞ!森を守る騎士ではなく只の騎士としてな!!」



『おやめなさい!もしやるならば『果ての荒地』でおやりなさい……『剣』よ。』



 念話で直接話されたので全員が『ビクッ』とする……ルモーラは『ピクピク』が激しくなる……痙攣しているようだ。


 それもその筈で、先程『薔薇の迷路』であったばかりの『声』なのだ忘れるはずもない。



 巨大な薔薇のアーチが何時の間にか僕達の後ろにあった。



「私は既に先程垣間見ています。あの幻影騎士を粉々に砕かれたのですよ?まさか凍らせてから粉々にされるとは思わないでしょう?適度に攻撃させて消そうとしたのですが、その前に再起不能になるとは……まぁ今にして考えてみれば、嬉しい誤算でしたが!」


 今は普通に言葉を発している……どうやら声では無く『取得したスキル』が関係しているようだ。


 ある程度の距離が『念話』と『声』にかかわっているのだろう。



「皆さんはそこまで意識せずにもう森の眷属の念話を『言葉』として理解できる筈ですよ?ちなみに『心を読める』訳では無いです。貴方達全員の『不思議そうな顔』ですぐにそこに行き着きます。『歴代の聖女』全員がそうでしたから」



 僕の予想は当たったようだ。


 ちなみにローリィとエイミィは顔を見合わせて恥ずかしがっている。



「試すような真似をして申し訳ありません。私は『剣の守護者』に『幻影騎士』を貸して欲しいと頼まれた事と、貴方に仕えている森精霊の願いの為に先程は化現しました。全てを見通していると知った今、謝罪に参りました。」



 先程は『手を出したら間違いなく死ぬ』と感じたが、今は全くそんな気配はしない。


 寧ろ現れた事で周辺の空気が清々しく感じる位だった。



「正直な気持ち、ローリィとエイミィの過去に至るまで想像が及んでいるとは……理由は先程『剣』が話した通りです。あの場では無益な戦闘をしない為に『威圧』を使って申し訳ありません。戦闘直後は稀に聖女でも戦いを挑んで参りますので……ヒロ様の場合仲間を守る為に『何かをしでかしそう』としか思えず……」



「確かに!」


「間違いははありません!」



 ……ローリィとエイミィはどっちの味方なのだろうか?



「実は此処に来た理由は他にも有りまして……ヒロ様のお仲間様が『森を探し歩いて』おります。今は村人さえも森に入り危険なので……その事を伝えておいた方がいいかと……」



「ローリィさん!エイミィさん!ヤバいです!これ以上誤解が広がる前に帰らないと!」



「「はい!」」



 やはり長居しすぎたようだ。


 スマホで時間を見ると『18:30』と表示されている。



「18:30?明る過ぎませんか?此処の日の光は………」



「此処に『夜』は有りませんぞ?ローリィもエイミィも『夜時間』は村に帰らせておりましたからな?」



 妖精村の村長が問題発言をする……



「今外は『暗い』と言う事でしょうか?」



「そうですな?間違いなく『冬に向かっている』ので既に森に光は届かない時間で、空には『月』が出始めましょう……何故ですか?」



「暗いのに僕達が帰らないので探しに来たようですね……仲間と村人が……」



 村長は『そうでしたか!では名残惜しいですが……集めた物を此処へ!』と言うと、妖精達が山盛りの種子入りのワタを持ってくる。


 周辺のワタ全てを集めたようでとんでも無い量になっている。



「皆さん!ありがとう御座います!これで村にも『ワタを植える事』ができます!」


 それを聞いた妖精達と森精霊が非常に喜ぶ……


 妖精とすれば『花の蜜』の収穫が増えて、森精霊達にすれば自分の家族が増えるのだ喜ばないはずが無い。



「では!種を植えた際には私達が村へ『祝福』へ参りましょう!そうすれば病気に負けず立派に育ちますから!!花も満開になりますので!!」



「本当ですか?助かります!村人の新しい産業にしようと思っています。綿花から糸を紡ぎ服を作り収益を得られますし、種からは食用油などが作れますから!」



 若干名ブーイングを言う者がいる………



「結局私達じゃなくて、森精霊が喜んでるじゃ無いの!ヒロ!なんとかしてくれる話はーーー?」



「その糸と種から油を取る『仕組み』を『風に頼る』んだよ?だから大丈夫さ!」



「私達が風邪を起こすと、その『糸』とか『油』ができるって事?」



 時間がない中僕は風力で自動で作る仕組みを説明する。


 最小限の人員でできる仕組み且つ、危険を伴わず『子供達にできる』仕事だ。

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