第435話「やらかすゴブリン……誰かあの馬鹿ゴブリンぶっ飛ばせ!!」


 月のエルフは他のエルフ族と違い、より多くの矢を持てる様に細い矢を好んで使う。


 その分、耐久性などは期待出来ず、撃ち込むと大概倒れた拍子にへし折れてしまう。


 だから月のエルフは、弓矢意外にもスローイングダガーなどを含めて暗器をたくさん使う。



 その暗器の多くには毒や痺れ薬が塗布されて、効果も即効性だ……当然鏃にも塗布されている。


 月のエルフ達の主な攻撃方法はそれらを使っての奇襲だが、決して他のエルフに比べて戦闘が苦手なわけでは無い。



 寧ろ手段を選ばなければ、一番強いエルフは彼等だろう。


 太陽のエルフの様に接近戦闘に固執せず、大地のエルフの様に弓をメインには扱わない。



 こだわりが無い分、相手に適した武器と戦闘方法が選べるのだ。


 そんなエルフ達だが、彼ら種族に唯一同じ部分がある……『死ぬほどゴブリンが嫌い』なのだ。


 そして、そのゴブリンが山程いることで、国を超えた連携が為された。




「ギィヤァァァ!エルフメ!エルフメェェ!」


「カミコロス!メダマヲヒキヌキ!クッテヤル……グガガガ!!……ゲギャギャ!!」


「ムコウニモ!エルフガイル!ウチオトセ!!ギギャギャギャ!!」



 ゴブリン達は『憎悪』を感じるエルフに、我先にと突っ込んでいく…そしてエルフもまた然りだ。



「ギィ!ギギ!エルフ……クサイエルフ!!クイコロシテヤル!」


「ニンゲンモイル、ハヤイモノガチダゾオ!!マエラ!!ヤツザキニシテクウゾ!!」



 あちこちで同じ様な言葉を叫ぶゴブリンだが、一際大きいホブゴブリン種が叫び声を上げると状況に変化がでる。



 見たことのあるイノシシに跨ってホブゴブリンが突撃攻撃を仕掛けてきた。



 『ドガン』と音を立てて騎士団が突撃攻撃を喰らうと、数人の騎士が吹き飛ばされて後ろへ転がっていく。



「ゲヒャゲヒャ!!クロゴブリントアソブノモ、アキタテイタトコロダ!!」



 そう言った巨躯のゴブリンはストーンボアに乗って叫んでいた。



 そのホブゴブリンは近くにいたゴブリンを掴むと、騎士団を超える様に放り投げる。



「オマエ!ニンゲンコロシテ、ニクモッテコイ!!」



 そう話している巨躯のゴブリンが乗っているのは、ブラックオークのグレート・ストーンボアと比べて、遥かに小さいが例のイノシシだ。



 そしてその声に反応したのは、鉤爪のゴブザッグだった。



「ヤハリオッテキタ!ワナニカカッタ!!バカナヤツ!!」



 ゴブザッグは巨躯のホブゴブリンの様にストーンボアに騎乗している。


 どうやら、何か策があった様でこの階層に僕達を誘い込んだ様だ。



「オイ!イノシシバカ!!オマエノカッテイル、ウスノロヲダセ!!」



「ナンダキサマ!ナレナレシク、メイレイスルナ!!」



 同じイノシシに乗っているのに、相手の事を馬鹿にする鉤爪のゴブザックは何かを催促していた。


 僕達が居る場所から、目と鼻の先で彼等は口喧嘩をおっ始めている……



「ウスノロヲツレテコイ!!ウスノロツカッテ、クロゴブリンヨリサキニ、ニンゲンツカマエロ!!」



 巨躯のホブゴブリンがイノシシの上から部下のゴブリンの頭を掴むと、そう言って指示をしてから後ろに向けて放り投げる。



『ギギ!?ゴェェェェ…………』



 ゴブリンは絶叫をあげながら飛ばされた後、後ろに居たゴブリンにぶつかると、ふらふらした足取りで来た道を戻って行った。



「ホブゴブリンノセンシ!!アバレテコイ!!トツゲキィ!!」



 その声を待っていましたとばかりに、ゴブリンを追い越す様にホブゴブリンが突っ込んで来た……


 5階層で戦った数など比べようも無い数だ。



 ホブゴブリンのみで構成されたグループだけでも3グループはある。



「騎士団全隊前へ!小鬼どもの突撃など蹴散らすのだ!剣士隊抜刀、全ての悪鬼を殲滅せよ!奴等を残せばいずれジェムズマインに危険が及ぶ!!街の明日を守るのだ!」



 ハラグロ男爵の指示で剣士隊は、グレートソードよりも取り回しが良いロングソードに持ち替えて、騎士団が抑えた雪崩れ来るゴブリンを斬り伏せる。



 騎士団の壁を抜けて来る個体も居るが弩隊が抜刀して斬り伏せ、すぐに弩に矢を仕込み迫り来るゴブリンに照準を向け、次々と数を減らす。


 しかし、この階層には冒険者が来ても、ほぼ素通りするので魔物の数は増える一方であった。


 唯一、同族同士の戦いで減っていたぐらいだろう。



 此処にいるゴブリンは普段敵同士だが『敵の敵は味方』なのは人間だけでは無い。


 ゴブリン族とダーク・ゴブリン族は、これと言って示し合わせた訳では無いが、互いに手を組んで戦う事を選んだ……



 『ガギン!ギン!ガギン……』



 周辺で何度も金属音が響く……ホブゴブリンが打ち付ける鉄製の棍棒が騎士団の金属製の盾にぶつかる音だ。


 冒険者から取る事ができない環境だが、どうやって手に入れたのか非常に謎だ……



「いいか!騎士団のプライドにかけて決して引くな!殲滅するのだ!この事態を招いたのは貴族の怠慢である!何としても『名前持ちのホブゴブリン』は此処で仕留めるのだ!!」



「私の命に変えても!引きません!王都で起きたあの光景だけは……起こしてはいけません!何があっても!!」



 ハラグロ男爵の言葉にあてられたのか、イーザはそう叫びながらホブゴブリンへ斬りかかり見事に1匹を仕留める。



「我々騎士団も続けー!!」



 ハラグロ男爵の大声で奮起したかに見えた騎士団だったが、実の所はイーザの奮闘による部分が大きい。


 ハラグロ騎士団は冒険者から騎士団試験を受けて騎士団になる者が多い。



 彼等はダンジョンで男爵から直接その腕を買われて、貴族お抱えの『冒険者』になるか『騎士団』へ入るかが選べた運がいい者達だ。


 冒険者出身という事であれば、イーザの事を知らない者は少ない。


 その彼女が、受付事務ではなく自分達の横で『剣を握り必死に戦っている』ならば……『護らねば!』と言う心境の変化があってもおかしくは無い。



 彼女が自分達も見た、王都近くの近隣からの『ダンジョン・スタンピード』を目撃しているのであれば尚の事だ。



「オマエら!ギルドの受付嬢が戦ってるのに不甲斐なくは無いか!?我々はこれで良いのか!!さっさとこの汚らしい小鬼どもを押し返すぞ!」



 そう言った一人の騎士の言葉にさらに奮起して、ホブゴブリンとゴブリンの群れを押し返す……



 ゴブリンを憎悪しているエルフ達はと言えば、廃屋を足場に器用に飛び回り次々とゴブリンを仕留めていく。



 僕は騎士団と剣士隊の壁でゴブリン相手にゆとりが出たので、今がチャンスとばかりに巨躯のホブゴブリンを鑑定する………



 鑑定結果………大牙のゴブザッガル『ユニークモンスター』


 背中に冷や汗が流れる……目の前に2匹目の『ユニークモンスター』が現れたのだ……



 僕はすぐ様その危険性を皆に伝える。



「皆さん!今モノクルで確認したところ……あの魔物は『ユニークモンスターの大牙のゴブザッガル』と言う魔物です!!」



『ボゴォォン!!ズガァァァァン…………』



 伝えた直後に、ゴブリン砦周辺の廃屋が破壊される……敵も味方も一斉にそっちの方を見る……



 僕が急いでその個体の名前を伝えたが、僕の言葉のそれよりも非常に注目を浴びる存在が現れる……『トロル』だ!!



 そして先程フラフラしていたゴブリンがと思われる個体が、大牙のゴブザッガルの周りを元気よく飛び跳ね周る。



「ゴブザッガルサマ!ツレテキタデシィ!!ゲヒャギャギャ!!」



 何が『連れて来たでしぃ!!』だ……この馬鹿が!余計な事を!!と僕は思ったが、アレは流石にどうにかしないといけない……と思ったが事態は最悪な方へ進む。



 ……あの馬鹿ゴブリンは、トロル4匹を『同時』に解放した……



 そしてダーク・ゴブリンの砦でも動きがあった……見なくてももうわかる……その理由は砦が激しく破壊されているからだ……

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