第434話「ゴブリンが統治する階層」



「醜悪な小鬼どもが!こんな所にむさ苦しい巣を作りおって!」



 エルフ達の『憎悪』は非常に強い。


 しかし問題はそこでは無い……あの名前付きが此処に降りたのであれば、あの個体は此処から上まで『呼ばれた』事になる。



 その上、途中の階層には『ブラック・オーク』も居たのだ。


 そこより階層が深いから、雑魚の個体レベルも1階層や2階層のゴブリンとは、比べ物にならないはずだ。



 階段から降りてすぐは普通の街並みであったが、当然あちこち壊されて持ち去られている。


 オーク砦と同じ様に、ゴブリンも『違法建築』が大好きの様だ。



「エクシアさん達は……この階層に来たことがあったんですよね?前はこんな光景だったんですか?」



 僕は率直に状況の確認をすると、答えは簡単だった。



「ほら……そこを見なよ?そこに降り階段があるだろう?此処で戦う意味はないんだよね……次は10階層のダンジョンのヌシ戦だ。わざわざ疲弊する必要は無いだろう?だから此処のゴブリンは放置されちまうんだよ」



 僕は成程と思った……どうやらボス階層へ移動するために、此処のゴブリンを無視し続けた結果、ゴブリン飽和状態になりそこで部族間戦闘が起きる。


 そのうち幾らかの個体が、格上のホブゴブリンになり、さらに構成図が書き変わる。


 そして終わることの無い縄張り争いの結果、氏族が生まれて現在に光景になった……


 最終的には名前持ちの『ユニークモンスター』にまでなったか、それとも産まれたかしたのだろう。


「だとすれば危険ですね?此処にはあの『鉤爪のゴブザッグ』の他にも名前持ちが居るかもです……放置されてあの個体が産まれたなら『競う相手』も居ないと『統一』されて、今の二分された状況にはなって無いですよね?」



 そう言われて皆は、見える範囲で見渡す。



「確かにそうだね……2個の砦でバカデカイな………オーク砦2個分の大きさか……他の名前持ちか!気が付かなかったよ。この階層の下を攻略するのに明け暮れててね……それに所詮ゴブリンだと思ってたしね!」



 エクシアがそう言った後に、大地のエルフの一人が上から見た状況を伝える。



「片方がゴブリンとホブゴブリンで、片方がダーク・ゴブリンとダーク・ホブゴブリンですね……どうやらお互い『トロル種』を飼い慣らしている様です……元々トロルがいる理由は、この階層の主戦力がトロルでゴブリン種は餌や戦力調整のためと思われますが……今や役目が逆転した様です」



 かなりショックなことを言い始めた。



「トロルはどのくらいいるか分かります?」


「視認できる限りで、トロルが4個体でダーク・トロルは2個体……合計6個体のトロルですね……鎖でぐるぐる巻きにされたトロルが真ん中に1匹居ますが何かはわかりません……それに何方の管理かも……」


 僕が聞くと、そんな答えが返ってきた。



「ダークゴブリンを倒す前に、ゴブリンの個体がどれだけ強いか見てみないとですね?上の層に比べれば強いでしょうから、ダークゴブリンと戦いている間に、背中を取られるのは危険過ぎますから」



「確かにそうだね!数の把握も欲しいしね……砦があるって以上は、かなりの繁殖率はあるはずだ。連戦はきつい。ゴブリン倒した後にダークゴブリンか、ゴブリンをダークゴブリンにけしかけるか……だね」



 僕とエクシアが話していると、ハラグロ男爵は、



「ダークゴブリンの名前持ちを倒す意味もあるが、ゴブリンに同種がいたら結果は同じことだ。ヒロ男爵の言った通り、片方を倒しても、各群れを統一されれば、その首領はゴブリンキングと呼ばれる特別種になってしまう」



「ゴブリンの首領とゴブリンキングは明確に違うんですか?」



 僕が、ハラグロ男爵の言った個体について聞いてみると、エルフ達から詳しい説明が入る。



「違うも違う!外見さえも、あの醜い悪鬼がもっと醜くなるのです!ゴブリンキングは各ゴブリン氏族を取り纏める王です。号令ひとつでその種族はどうにでも動くのです!人の街を襲い、エルフの国を襲い肥え太っていくのです!」



 このダンジョンで起きている事を知り得たエルフは、憎いゴブリンを殲滅する気が満々な様だ。



 それから僕達は少し情報交換を行ってから情報収集の為に、少し近づいてみる事にした。



 9階層のゴブリンエリアに不用意にも踏み込むと……遠くで木板を打ち鳴らす音が聞こえて、どんどん階層の中に音の発生源が増えていく。


 ゴブリンエリアで鳴った音は、何故かダークゴブリンエリアにも拡散して行く。



「不味ったね!これは両方相手取る最悪のパターンじゃ無いかい?」



「ギギ!ニンゲン……エルフ!エルフ!ヒカリノクサイヤツ……エルフヲコロセ!」


「ギギャ!エルフ!ニンゲン!エルフヲイカシテカエスナ!ギギ!」



「ニンゲン!ソウビモッテキタ……グゲゲゲゲ!アレアレバ……グギャギャ!!クロゴブリンモテキジャナイ!!」


「ウバイトレ!オウヘワタセ!グゲゲゲゲ!」



 ゴブリンやダークゴブリン砦から多くのゴブリン種が出てくるが、奥にはホブゴブリン種が控えているのが見える。


 雑魚であるゴブリンで冒険者を疲弊させて、ホブゴブリンが仕留めるのだろう。



 僕はゴブリンとホブゴブリンを鑑定すると、ゴブリンもホブゴブリンもレベル平均は20だった。


 9階層の魔物なので雑魚が20レベルだと割と強い。


 それを知らせる為に、エクシアにモノクルを渡す。



「ワラワラと湧き出てレベル平均20かよ!!ウヨウヨと鬱陶しいねぇ……皆気張りなぁ!!エルフの旦那達腕に見せ所だよ!」



 ちょっとしたホラー映画だ……


 『ギャ!ギャ!』と叫びながら血走った目と、ギザギザした歯を剥き出しに走ってくる。



 しかしエルフは勿論のこと、冒険者も一歩も引かずに剣を構える。



「全員的を良く狙え!矢を無駄にするな!全部仕留めるには矢が足らん……使える物はなんでも使え!」



 エルデリアは矢筒から矢を3本引抜くと3体の個体へ向けて同時に射撃をする……すぐさま手元や矢筒など見ずに、矢を抜きどんどん射掛ける。


 そしてエルデリアの部下も当然同じように矢を射るが、その弓の扱いもエルデリアと同じ様に正確かつ素早い。



 エルフの弓の扱いと人間の弓の扱いは、まるっきり違う。


 大地のエルフ達は駆け抜けざまにゴブリンに矢を撃ち込み、矢が刺さって死んだゴブリンから回収して、さらに他の個体を仕留めていた。


 背後の仲間は先頭を走るエルフに合わせて敵を倒す……その理由は一番先頭を走るエルフが、駆け抜け様にその刺さった矢をまた使える様にする為だ。


 大地のエルフは、矢の消耗を極力抑えながら戦う事に特化した闘い方だ。



 それに比べて、太陽のエルフは射撃武器をあまり使用せず、接近戦闘を好む。


 弓に比べて距離は無いが、槍を投擲するくらいだ。



 しかし弓が全く使えないわけでもなく、他のエルフ族が得意すぎるのだ。


 そこを補う訳では無いが、太陽のエルフ族が扱う矢は特別製で、貫通力が非常に優れている。



 貫通力を得る為に、弓自体がかなり力を必要とする作りだが、鏃の作りがエルフの中で一番特殊だ。


 その特殊形状の鏃の矢で1匹目に致命傷を与えた後に、そのまま後ろの個体に突き刺せる技術を持つのは、太陽のエルフ族だけだ。


 当然太陽のエルフは、撃ち込んだ矢が骨などで止まらない様に、1匹目は首筋を目掛けて射る。


 そして首にある主要な血管を断ち切り、その矢を別個体の急所に撃ち込むのだ。


 それが数百年研鑽を積んだエルフの技なのだろう……

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