第432話「原型を留めないゾンビの群れとの遭遇」


「な……何だあれは!!」


「退避!騎士団!すぐに退避ーーー!!」


 騎士団リーダーが即座に指示をする。



 僕はすぐに鑑定をする……『ゾンビ・スウォーム』……と結果が出た。



 スウォームとは『群れ・群衆・ごった返す』と言う意味だろう……ゾンビが集まった魔物という意味であろうが……見栄えが最悪で酷い状況だ。



 呻き声に酷い悪臭が存在感を増す。



 そして間違いなくアレを相手すれば、1匹潰している間に取り込まれて喰われるだろう。



「アレはまずいよ!アレだけは相手は出来ない!相手をすれば混ざっている冒険者と同じになっちまう!!」



 エクシアはひどく慌てている……



「エクシアさん知ってるんですか?攻略法は?」



「知ってるも何も!アレは相手にしちゃならん奴だ!前に遺跡探索任務で出会して、馬鹿貴族があの塊に喧嘩売って騎士団全部喰われたんだ!即座に全滅したよ……アタイは他の冒険者に抱えられたおかげで助かったが……」



 その言葉に騎士団が隊列をジリジリと後退させる。



「僕が時間を稼ぎます!騎士団は全員登り階段まで避難を!」



「どうする気だい?あんなの相手に出来る訳ないじゃ無いか!」



『ウォーター・トルネード!!』



 10本の水竜巻の一つが、ゾンビの塊を巻き上げて天井に打ち付ける……竜巻内部は水流がすごい様で絡まっているゾンビは、引き千切られては揉まれて腐敗効果が拍車をかけるのかグチャグチャになる。


 水竜巻が運良く直撃したおかげで難をのがれた……でも運も実力のうちだ。


 それにしても、運良く直撃しなければしっかりとした対策を考えなければならなかった……


「………ヒデェ……流石に見てられない光景だね……水がドス黒く濁ってるよ!でもまぁ助かったね……流石に怯まない魔物の塊は対処ができない……聖属性魔法ならば対処出来るが……教会騎士団とか聖女や神父は今同行させて無いからね……此処は困った階層になったもんだねぇ……」



「エクシアさんまだ『スケルトン』の武器に毒を仕込んだ黒幕が分かっていません……この階層は魔物の質に比べて危険ですよ……」



 エクシアの言葉に、シャインがそう答える。


 どうやらシャインも気がついていた様だ。



 目の前にいたゾンビの塊の一部は、天井にへばり付いたままだが……何とか通れるまでにはなった。


 周囲に撒き散らされたゾンビの破片は悪臭を発しているが、この階層は今やこの状況を変える術はない。



 僕達が出た後は、またゾンビやスケルトンが無尽蔵に湧き出しては、群れて集まるフロアになる。



「多分この階層には、あの名前付きもいない筈だ。居たら『喰われちまう』からね!」



 僕達はこの階層を探索せずに9階層へ降りる決断をする。



「エクシア!もし前と同じ場所に下層へ降りる階段があるならば、急がねばならんぞ?この階層の階段はここから真反対だ!」



 エクシアはハラグロ男爵の言葉に『そうだねぇ!』とだけ呟く。


 全員があの『ゾンビ・スウォーム』だけとは鉢合わせしたくないのだ……アレに捕まれば、間違いなくゾンビの仲間入りだ。



 何とかスケルトンとゾンビを蹴散らしながら足速に階段を目指すが、この階層には『武器に毒を仕込んだ』魔物が居るのは確実だ。



 そしてその個体が、下層へ行く階段に何やら準備を終えたところに僕達は到着した。



「くそ!マジかい!何でこんな事になってるんだい!全ての元凶はあの魔物か!あんな個体見た事がないね!ヒロすまんがモノクルを貸してくれ!」


 僕はモノクルで見たふりをしていたがエクシアに渡す。


 当然既に、そこに居た魔物『全て』をすぐに鑑定した後だ。



『ゾンビ』10匹


『スケルトン』6匹


『スケルトン・スウォーム・ゲートキーパー』(スケルトン30匹)


『ゾンビ・マスター』


『スケルトン・ウイザード』



 どうやら『ゾンビマスター』が新しいゾンビを呼び出し、『スケルトン・ウイザード』がスケルトンを召喚して武器に毒を仕込んでいた様だ。


 そして今度は『スケルトン・スウォーム・ゲートキーパー』と言う、スケルトンが群がった門の様な魔物を下層階段周囲に作っている。



 あのゴブザッグと言う名前付きの個体は、この階に居るかそれとも9階層へ降りた後かは分からないが、もしあの個体の為にこのゲートキーパーを作ったならば考え物だ……。



 しかし僕は優先的に倒す存在を伝える………



「あの紫色の『ゾンビマスター』を最初に仕留めて下さい!あのゾンビ・スウォームを作ったのは多分アイツです!ここでアレを作られるとヤバいです!」


 僕はそう言ってから『ウォーター・バレット』を唱えるも、スケルトン・ウイザードは対抗呪文を唱えて『魔法効果』を打ち消す。



「ま……魔法が!!」



 僕が消えて魔法に驚くと、それを見たエクシアは……


「スケルトン・ウィザードは高レベルの魔物みたいだよ!魔法打ち消しが出来る程のね!以前は名のある冒険者だった様だ……皆気を引き締めな!」


 ロズとラバルとタンバ(輝きの旋風盾役タンク)が騎士団と共に前に出てスキルを使う。



 ラバルが大きな声で、騎士団へ指示をする……



「俺がスキル使うぞ!効果が切れたら次はロズが頼む!その次はタンバだ!準備はいいか?騎士団は盾を構えろ!『剛盾』!」



 ユイとモア、それにスゥは武器を弓に持ち替えて、それぞれが単独に移動する。


 それを見たエルフ達は、それぞれの姫の後を追い同時に攻撃を開始する。



 スゥが大声で指示を出す。


「モアちゃん!3呼吸後に射撃!ユイちゃんは6呼吸後に射撃!目標を三方射!狙いはゾンビマスター!他は無視よ!」



「分かったわ!スゥちゃん!」



「オッケー!スゥちゃん!」



 スゥが二人の返事を聞くと射撃を始める……後ろについて来た太陽のエルフもそれに合わせて射撃をする。



『ケガレヨ!ウズマクアクイヨ!ヒショウブツヨリカノモノヲマモレ!ボーンシールド!!』



 声帯が無いスケルトン・ウィザードの声が直接頭に響く感じがすると、それが直ぐに『呪文』だ!と気がついたが攻撃の為の呪文では無い様だった。



 スゥと太陽のエルフ達が撃った矢は、ゾンビマスターに当たる事はなく手前に生成された骨の盾に阻まれてしまう。


 しかし第二射のモアの射撃と月のエルフの射撃は2本がゾンビマスターに刺さり、残りの矢でゾンビマスターの注意を得る事に成功する。


 その直後の、ユイと大地のエルフの第三射目の全てが、ゾンビマスターの身体に突き刺さる。


 それを確認したスゥだが、安心などはしない様ですぐに指示を出す。



「全員散開!上方より一斉射開始!!」



「分かったよ!スゥちゃん!」



 ユイは返事した後に、飛び上がると塀の上を駆けて、垂直の壁へジャンプすると壁を強く蹴り、三角飛びをして屋根に登る。


 その後間髪入れずに狙いを済まして、ゾンビマスターの頭に数発の矢を連続ヒットさせる。



「任せといてー!スゥちゃん!」



 モアは近くの塀の上に数歩で駆け上り、そのまま廃墟になった建物の窓枠に飛び移ると、屋根のヘリに手を伸ばし逆上がりでもするかの様にクルリと屋根に登る。


 そして腐り落ちた肉体の丸見えになっているゾンビマスターの心臓部目掛けて連続射撃をする。


 矢は見事に心臓に撃ち込まれるが、ゾンビなので心臓に意味はない。


 ダメージ狙いの的が大きい部分を狙った攻撃だ。



「「「ハイ!!」」」



 エルフ達は返事に後に、すぐに近くの建物屋根に軽々と登り、動きが止まったゾンビマスターに矢を射掛ける。



 ハリネズミの様になったゾンビマスターは、最後にスゥの投げた大振りのスローイングダガー3本で首がもげてトドメが刺された。



 ベロニカがそれを見て………



「あの3人ってエルフが先祖なのかい?あんな簡単に屋根に登れないだろう?普通……」



 と言うとエクシアは



「でも……あの飛び跳ねたハシャギ様からすると、小狐にしか見えないけどね?それにしても……開戦早々ゾンビマスターを仕留めたのは結果オーライだね!」


 ゾンビマスターが死んだ事で魔力供給が絶たれたのか、ゾンビ達は動きが一段と緩慢になり、もともと低かった索敵能力は皆無となる。


 今まではゾンビマスターの特殊効果で強化されていた様だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る