第429話「ミオとシャインが宿敵を見つけた日」


 僕はその事を伝える……ハラグロ男爵に出来れば、同じ様に考えてもらえる貴族になって欲しい為だ。



「もちろんそれも理解しています。ですが冒険者を守る事が、この国の未来を救うことに繋がりますよね?仮にこの階層を無視して下に降りて、あの魔物がこの階層にいた場合は冒険者が死ぬ可能性もあります。それをさせない為にも最低限の見回りが必要だったのです」



「ふむ……あの廃村の二の舞にしない為だな?知っていて見過ごす事は出来ないからな!その様な気持ちは私も同じだ……よし!では私も騎士団を伴い下層へ同行しよう!」



「そうですね……え?………はい?下層へ一緒に?………ですか?」



 急に下層へ同行する話になって驚いた……しかしその気持ちは非常に嬉しい。


 問題は、今回の様な戦闘が続く可能性が大きいと言う事だ。


 僕が返答に困っていると……



「うむ?何か不都合があるか?……既に桁違いな戦力は目にした……我々が必要とは思えないのも分かる。……だがお主には決定的に足らないものがある!!何か分かるか?」



「な……何でしょう?」



「お前を守るための周囲の者だ!先程は『イーザ』と言う娘が、命を賭けてお主を救ったな?それはあの者が『お前だけは何としても救う!!』と言う気持ちの現れだ!誰も気がつかないあの投擲攻撃に気がつく事は『お主の為に』周囲を観察せねばできない事だぞ?」



 ハラグロ男爵のそのセリフに、ミオの男爵への『憎悪』が増しているのが目で見て分かる………


 そしてシャインは、何故か近接用の武器を装備し始める。



 不穏な空気が流れたので、エクシアはそれを敏感に感じ取ると『そっと』その場を離れる……


 しかし何故か、その状況下においてハラグロ男爵は話を続けた……



「良いか?我々はそれをこなす為に其方の盾になろう!」



「「必要ありません!私が守ります!!」」



 シャインとミオの言葉が被り『威圧』が周囲に拡散する……



 お互いの言葉が耳に聞こえたその瞬間、二人の『目力による』果てしない戦闘が始まる……



「………と………兎に角『王都の為』にも其方に死なれては困る!……と、いう事が言いたいのだ!シャイン殿にミオ殿……」



 ハラグロ男爵は貴族なのに、何故か『殿』をつけて話し始めたので、エクシアが助け舟を『すごい遠い場所』から出す……



「……………(非常に遠くて小さい声)……………それなら早く下に降りようじゃないかい?ハラグロ!そこにいたらオークじゃない奴に『殺られる』よ?」



「エッ!エクシア!その通りだな!さっさと降りようじゃないか!騎士団!すぐに下層へ降りるぞ!『直ぐに』移動の準備を!」



 ハラグロ男爵が指示を出す前に、騎士団は既にキャンプ道具をしまい此処から出る荷造りをしていた……



 僕もゴーレムの集めて居た武器を回収しよう……予想通り手に入って居るので『鉄と武器』は補充できそうだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そのあと僕達は騎士達と手分けして、例の名前付きの魔物の被害が無いか6階層を確認して回る。


 半刻程で騎士と見回りに行ったアルベイ達とロズ達が帰ってくる。



 冒険者の狩場になっている場所を、手分けして確認しに行ったらしい。



「エク姉さん俺たちの聴き込みの所には来てねぇって事ですよ?」



「エクシア!儂等の見に行った場所にも立ち寄った形跡は無いらしいぞ?」



 エクシアが派遣した、ロズとベンにベロニカ組と輝きの旋風組はハズレだった様だ。


 ロズ達が帰ってきてから入れ違いで騎士団班と剣士班が帰ってくる。



「ハラグロ男爵様、騎士班の聴き込み報告です!遭遇者はいませんでした!」



「ハラグロ男爵様、剣士隊の報告です。それらしい敵影を捕捉したとの話がありましたが、冒険者には見向きもせずに『下層階段へ突き進んだ』との証言を得ました!銅級資格保有者でありましたが、2グループでオーク個体の沸き狩り中にて『感知』確認及び目視確認の両者です!」



 有力情報を手に入れた……やはりあの鉤爪のゴブザックは下層へ向かったらしい……



「よし……この下にいるか更にもっと下か……行ける所まで降りるしか無いね……」



 僕達はハラグロ騎士団を先頭に地下7階層へに階段へ向かい、周囲を注意しながら降りた。




「相変わらずこの階層もオーク共の巣だね……」



 エクシアの言葉は周囲を見ると一目瞭然だった……6階層の砦が少なくとも3個は有る。



「エクシアさん……これ全部破壊して回るんですか?」



「どうするかな……基本的にオーク共はゴブリンを奴隷扱いするけど、あのユニーク個体はどう見てもオーク共より強いからな。だからと言って、オーク共はゴブリンに協力するわけでも無いしな……そもそもアイツらは馬鹿だ!」



 僕とエクシアの話を聞いていたハラグロ男爵は、



「ひとまずは一番近くで戦っている『冒険者』に聴き込みをしたらどうだ?あそこにいるからな?」



 そう言って指さす方には何故か『エルフの一団』が、廃墟の大通りを挟んでオークを狩っていた……。



 ここはザムド伯爵が治めるジェムズマイン領の、街営ギルドに冒険者登録した者しか入れないダンジョンだ……居るはずが無いのだが、どんな手段を使ったのだろう……。



「ああ!あの身のこなしと格好はエルフ達じゃ無いかい?そういえばザムド伯爵は彼等と契約したとか聞いてたな……エルフ族は『オーク』に対して『嫌悪』を抱くらしいよ?だからここにオークが出るって言ったら『根絶やし』にすると意気込んでたんだが……余程嫌いな様だな?」



 エクシアの説明では、けしかけたのはエクシアな気もするが……本人達はオークを嬉々として狩り尽くして居る。



 オークの個体がノソリノソリと後ろから近寄り襲い掛かろうとする。


 食肉用オークは頭が悪く、奇襲をできる様な個体では無いので偶然に建物の裏へ出た様だ。



 当然エルフ達は『感知』を持っているので把握済みだろう……恐らくコッチの存在も把握している。


 僕達が『誰か』までは認識はできないだろうが……



 ユイとモアそれにスゥは、担いていたショートボウを構えて矢を放つと、3本とも頚椎付近に突き刺さる。



 オークは『カクン』と糸が切れた人形の様に、その場に倒れ込む。



「え?ユイとモア……それにスゥ!!前はそんなに弓の扱い上手くなかったじゃ無いか!前6階層で戦った時にはあれだけ苦戦したのに……」



「な……何言っているの?王都に行くまでにエルフ達に使い方の訓練をして貰ったに決まってるじゃ無い!ねぇ?スゥ?」



「そ……そう!その通り!行きと帰りで14日以上だよ!上手くもなるよ!だ……だよね?ユイ?」



『ブンブン』



 ユイは激しく縦に首を振っているが、何も言わない……



 そこにエルフの一人が振り返り僕達を確認する。



「エクシア殿にヒロ男爵様では無いですか!同じ様にオーク個体の駆除ですか?私共はザムド伯爵に依頼されて7階層のオーク・ウォリアーの巣を殲滅することになりました。ちなみに砦は既に何も居ませんよ?あとは野良オークしか居ないので『肉集め』くらいしか出来ません……」



 太陽エルフの『エルフレア』が説明してくれたが、仕事が早い………


 既にこの階層のオークはエルフ達によって殲滅済みの様だ。



「あの砦の屋根の上に『大地の』が先行してます。見えますか?」



 僕達は気が付かなかったが、大地のエルフは砦の屋根の上にいて僕達に手を振っていた。



 僕達は5階層にあった『階層主部屋の一件』を話すと………


「ゴブリン!!それもダーク・ホブゴブリン………あの汚らしい汚物ですか!我々も是非お手伝いさせて頂きます!鉤爪のゴブザックと言う族長ですね?名前を持つほどであれば何処かの眷属でしょう!根絶やしにせねば!!」


 エルフレアは仲間に指示をして、月のエルフと大地のエルフ全員を集めさせる。



「………と言う事だ!我々の宿敵である『ゴブリン』の放置など出来ない!特に汚物である『ゴブリン族の首領』などは見逃すことなどは絶対にできない!」



「「「醜悪なる小鬼の殲滅を!」」」



 エルフ達は『オーク』よりも『ゴブリン』が嫌いな様だ。

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