第423話「ロズ白目!!更なる魔物かと思ったら召喚魔獣」


 僕は召喚した魔物へ指示を出す。



「アクアパイソン!アクアリザード!全ての魔物を殲滅しろ!」



 突然召喚陣で出てきた魔物を見て、全員が諦めた表情になったが……僕の指示で『僕の魔法』だと気がついた。


「なんでゴーレムの後にコレを出すんだよ!!先に出せ!死んだと思ったわ!マジで!」



 珍しくソウマが文句を垂れた……ちなみにロズは白目だ……



 2体のアクアパイソンはトロルに巻き付き身動きを封じる……そして大きな口を開けて噛み付くとトロルのステータスに『致死毒』の表示が出る……


 そしてトロルは非常に暴れ回るが、アクアパイソンは離す気配どころか呑み込もうと口を広げる……



『ギリギリ……ギチ……ミチミチ……ビチ……バキッゴキィ……ギリギリ……ミチミチ……』



 初めはギリギリと音を立てていたが、次第にその音が変化していく……


 筋肉質のトロルは、既に身体中から紫色の血を吹き出して叫び声をあげている……


 僕はフェムトのショートソードをクロークから抜くと、1匹目のトロルの首を素早く切り裂く。



 二匹目のトロルは、顔にも巻き付かれていて既に窒息していた。


 ステータスには『巻き付き麻痺・致死毒・窒息・死亡』の文字が浮かんでいる。



 どうやら巻き付く時に『麻痺』効果まで付与するらしい……敵に回すと最悪だ。



 しかしアクアパイソンはトロルを圧縮してなんとか飲み込もうと頑張っている……腹ペコか……と思ったら、もう一匹も他の敵に見向きもせず、倒した筈のトロルを圧縮して呑み込もうと頑張っている……やはり腹ペコの様だ……



 それに比べてアクアリザードはしっかり戦っている……と思ったが……迫り来るダークゴブリンに舌を伸ばし『パクパク』と食べている。


 しかし、後続のダークゴブリン・フェナティックは、巨大な金棒の様な祭器を振り回してアクアリザードに突撃をかます。



「ギュアァァァ!ギョア!クルルルル……ガギャ!!」



 アクアリザードは名前の通りの水棲特化であり『陸』ではタダのトカゲなのかもしれない……


 しかし、ここで水魔法で部屋を水没させることなどできようも無い。



 僕はアクアリザードが棍棒みたいな武器でボコボコ叩かれているのを見て『送還』出来ないか……?と思うと足元に魔法陣が浮かびアクアリザードは『帰って』いく。


 すぐ様代わりの魔物を召喚しよう……と考える。


 次はパイソンではなく打撃効果が無効になりそうな魔物……アクアプリンだ!



『クワンダ・エストルァテス・ラ・ディープ……アクアプリン』



 唱えると大きく魔法陣が浮かび、3匹のアクアプリンが這い出て来る……


 魔導士学院では1匹だったのに……と思ったが、昨日と今日では大きい違いがある……自分のレベルだ。



 アクアパイソンとの召喚の違いは判らないし、この際置いておくしか無い……


 ダークゴブリン・フェナティックの攻撃を受けても、アクアプリンは『物理攻撃無効』の特徴でダメージが当たらない。



 それどころか敵の一匹にのしかかり圧縮し捕食を始める……こいつも腹ペコか……とか思ってしまう。



「今のうちです!フェナティックの群れはアクアプリンに任せて、残りの魔物を殲滅しましょう!ロズさんソウマさん!ダークホブゴブリンに備えて!エクシアさんいよいよです!ゲオルさんとベロニカさん、アーチとカナミは引き続きダークゴブリン殲滅を!」



 ダーク・ホブゴブリンとの戦闘に備えて、ロズとソウマが前衛で盾を構えてベンとイーザの2列目にエクシアが加わる。


 かなり目減りしたダークゴブリンを見て怒り浸透なのだろう……叫び声が更に大きくなるダークホブゴブリン部隊。



「グオオ!グオオ!グオオ!」


「ガウ……オオオオオオオ!!」



 一番前の2匹が勢いを付けて飛び込んでくるが、危なげなくソウマとロズは盾で受ける。


 そしてその後ろにいたダークホブゴブリンは前の2匹を踏み台にして越えようと走り込んでくる………



『ベシン!!』



 僕達さえも予期していない攻撃だ……突然2列目にいた3匹に巨大な尻尾が上から振り下ろされた……



 トロルを食べる為に頑張っていたが、ここはダンジョンだ……当然遺骸は時間と共に消える……



 食いっぱぐれたアクアパイソンは尻尾でダークホブゴブリンを押し潰すと、すぐに舌を伸ばして絡めとり丸呑みにしてしまう……。


 前の盾で受けられた2匹の首にはベンとイーザの剣が突き刺さり『ガフッ!ガフッ!』と気の泡を吹いて絶命しそうだったが、ベンとイーザは勢いよく前に蹴り飛ばすと、二匹目のアクアパイソンは瀕死の2匹を舌で絡めて丸呑みにする。



「ゴアァァァ!ニンゲン!ニンゲン!ゴロズ!」



 怒り狂った鉤爪のゴブザックはそう言うと、勢い良く飛び込んでくる……


 アクアパイソンは振り下ろす様に尻尾を叩きつけるが、鉤爪のゴブザックは器用に避ける……魔物なのに固有の名持ちのユニーク個体は伊達ではない様だ。



 もう一度鉤爪のゴブザックを良く鑑定をすると………装備品に『無気配の指輪と瞬転ブーツ』なるものをはいていた。



 この魔物は器用に避けているのでは無く、そのアイテムで『避けている』のだと分かった。



「ちょこまか疎いしいね!アタイの見せ場に!!………………」



 エクシアはそう言ったが、攻撃前に突然ゴブザックの気配はその場所から消えていた……『空間感知』にもゴブザックが居た場所には何の反応もなかった。


 どうやら無気配の指輪を使ったのだろう……



「くそ!何処に行きやがった!……皆いいかい!注意しな……何かのスキルかマジックアイテムかも知れない!親玉が消えたよ!」



 そうしている間にアーチとカナミ、そしてベロニカとゲオルで周りの敵を殲滅していた。


 一筋縄では行かない魔物を前に、イラつきを隠せないエクシアだったが……謎が判明する……



 アクアパイソンが突然、階層主部屋の本来の入り口に向かって進み始めた……『あのボスは逃げ出した』のだろう……


 僕達は追いかけるが既に扉が開けられて、その部屋から出て行った形跡がある……外で部屋入り待ちをしていた冒険者が軒並み襲われていた。


「黒いゴブリンが………」



 その言葉ですぐにギルド職員が飛び出て、彼等の応急手当てをして『この階層は今は危険だからすぐに帰る様に』……と伝えてから戻って来た……



「なんてこったい……『特定の部屋から出て行く魔物』が居るなんて……アイツ部屋を移動できるって事は……地上を目指したのかもしれないね!……残念だが今更追い付くには無理があるね……奴の装備かマジックアイテムには『短距離転移』ができそうなアイテムって事だね……」


 そう言ったエクシアは残念そうに『アタイの見せ場だけなかった……クソが!』と言った瞬間、エクシアの腕がザックリ切り裂かれる……



「ああ!!イテェ!!アイツ!戻ってきやがった!ちょこまかと……ぜってー!叩き殺す!」



 アクアパイソンが、今度は安全エリアの方へ進んでいく……アクアパイソンが何故感知出来るのか?そう思ったが……なんとなく思い当たる節がある……『ピット器官』かもしれない。



 この先は安全地帯なのであの魔物は進む事が出来ない……誰もがそう思ったが、僕達の期待は大きく裏切られる………



 エクシアの腕を切り裂いた血は点々と続き、安全地帯前でプッツリと消えていた……



「魔物なのに……どう言うことだ……まさか安全地帯に逃げ込んだのか?」



 ベンが不思議そうにそう言う……



 エクシアは『回復薬』をシャインから受け取り飲んだ後、回復をかけて貰っていた。



「エクシアさん腕で良かったですね……それが首だったら……」



「確かにそうだね……でもアイツは下に降りれたのかもしれないよ!見てみな……アタイの腕を切った時ついた血が、階段から先に続いてやがる……何かインチキ臭い事やってんな……あのクソゴブリン」



 エクシアの言う通り、僅かだが血が垂れていた……


 ロズは血の跡を確認しようと、安全地帯の小部屋に踏み込む……



「ん?………うわぁぁぁ!!」



 後ろに居たアーチが突然声を上げたので、皆びっくりして振り返る……


 彼女が見ている方向に『宝箱』が出現していた……どうやら、『階層主』の戦闘は終了した……と、みなされた様だ……



「宝箱が出るって!!どう言う事なんだい?魔物が階層移動するとか、戦闘放棄するとか!まるで地上の……魔物………『地上!?』まさか……アイツはダンジョン産の魔物じゃ無いって事かい?」



 僕達は答えが出ないまま、全員で注意深く周りの様子を伺いつつ、宝箱へ向かった……

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