第402話「募る想い」


 僕は宿の亭主の後を置い宿の裏手にある畑に向かう。


 そこはかなりの面積がある場所で、宿で出す食材を育てている場所だった。


 アリン子が通るにはかなり狭い道だったが、アリン子は隣の建物に足を掛けてヨジヨジと登ってついてきた。



 この際周りの見る目は気にしないでおこう……



 ちなみに、よじ登っていた隣の建物の中からかなり大きい悲鳴が聞こえたが、多分ゴキブリでも出たんだろう。



「そら此処ならそのアリン子も自由に歩けるだろう?勝手に食べちゃダメだぞ?腹壊したら困るからな?後今度はウチの宿を登って行ってくれるかの?隣と喧嘩になると困るからな?割と煩いんじゃ!」



 宿の主人は、そこを自由に使う許可を出してくれた。



「こんな場所にまだ畑があったんだ……前見た先があったんですね?それもかなりの大きさの土地を畑に使ってますが……地主さんなんですか?」



「ああ!此処か?ワシは昔マールシュナウザー伯爵からこの土地を頂いたのだよ、ウィンディア男爵の従兄弟にあたる方でな……冒険者をやっていた時に、命を助けた礼だと貰ったんじゃよ」



 人にはそれぞれの歴史がある……ウィンディア伯爵の家系と知り合いとは……



「今はウィンディア男爵ではなく『伯爵』になりました……まだ内緒にしてくださね?一応僕も『爵位』貰っちゃって……あのヤクタ男爵領を賜わったんですけど……困っちゃいますよ……」



「ふおぉぉぉ!?何じゃと?男爵になったんか?お主は?………おお!これは失礼致しました……行く前と今とでは全く状況が違うのでつい……不敬で申し訳ございません」




「やめて下さい……そう言うのは面倒なんでいつも通りで……じゃ無いと不敬罪に処します!はははは」



「そうか!ワシも喋りずらいんじゃ!はははは、それじゃ中に行くかの?アーチと言う子が『お主の知り合い』って事で泊めて良いんだよな?」



 僕はアーチのことを軽く説明して『貴族特権』であることを伝えると……



「そうかそうか!ワシは運が良いなぁ!あの日泊めた怪しい客が今は我が宿を盛り立ててくれておる!予約が殺到じゃよ!まぁお主達が連泊中だから断るしか無いがな?」



 などと愉しげに話していた。



 僕達はアリン子に変に騒がない様に言ってから裏口から宿に入る。



 アリン子には『夕食前にチョコレート上げに来るから大人しくね?』と言っておいたら、『チョコレート!チョコレート!チョコレート!』とずっと喜んでいたので、変な事はしないだろう。



「やっと帰ってきたよ!アーチ……いい加減だろう?コイツ……すぐ来ると思ってたら間違いだからな?」



「本当ですね!もっと早く帰ってくるかと思ってました!先にお風呂まで入っちゃいましたよ!」



 そう言われたので、事情を説明してから誤っておく。



「意味分かんないんですけど!?何その『ユニークモンスター』の討伐部位とか……戦う様見てただけで異常だって思ってたけど……本当は元からこっちの人なんじゃ無い?」



 酷い言われ様だ……ひとまずこの宿では邪魔が入らないので、今のうちに『本名』で自己紹介をする……僕の自己紹介後、ソウマが変わる。



 ユイナはまだ帰って来ていないので、薬草屋に行ってミイラ取りがミイラにでもなったのだろう……



「ひとまず、僕達だけでも自己紹介をしとかないとね!まぁ特別な情報はないけどなんかこっちの方がしっくり来るね?自己紹介は」



「本当にですね!こっちは西洋風とかが混じってたりしますけど、日本の名前ってほぼ居ないのでなんか『久々』って感じです!って言うか一年ぶりなんですけどねー!!でも!!凄い偶然なんですが、私も野口って言う苗字です!野口 茜と言います。高校2年生 です!」



「そう言えばこっちに来た時のこと何か覚えてます?皆に聞いて情報をまとめてる最中でして……あ!ソウマさんあの紅の魔術師さん少しだけ情報分かりましたよ!魔導師アナベルっていう人です」



 僕がそう話すとソウマはその情報を知りたがったが、今いない女子3人の事を考えると何度も同じ説明をすることになるので『また後で!』と宥めておいた。



「僕達は其々別々の場所から、廃墟みたいな場所に集められてから此処に送られました。後から仲間になった若干一名は違うんですが、その人の話は後で直接聞いてください。確実に説明しきれないので……」



「私は実は親友が行方不明になって……手がかり探したくて……毎日彼女が帰った通学路を使って帰っていたら突然………」



『ただいまー!遅くなってごめん!なんか薬草棚の整理やるって言うからさついつい時間食っちゃった!お手伝いしたら古い薬草全部持って行って良いって言うからさ!お得じゃない?だからさ!」



 そう言って帰ってきたユイナだが、その両手で抱えられたカゴには山程の薬草が詰まっていた。



 当然後ろのミクとカナミのカゴも同じくらい詰まっていた………しかし突然カナミは、アーチの顔を見た瞬間カゴを下に落とす。



「あーちゃん!?え!?な………なんで!あーちゃんが居るの!?え!?他人の空似!?」



「え!?みんちょ?………なんでここに居るの!ま……まさか……行方不明になったのって!私と同じだったの?……み………みんちょーー!!会いたかったよぉ〜!!」



「あーちゃん!!会いたかったよぉ!!エグ……うえぇぇん……ヒック……ずっと!ずっと一人でこんな世界に10年も居たんだよぉ!!寂しかったよぉー!!グス……」



「私も会いたかったよぉ!!うわぁぁーん……エグ………みんちょが居なくなってからね!!消えた道を毎日ずっと毎日手掛かりないか!!って探して帰ってたんだよーー!うわぁぁん……」



 二人は抱き合って大号泣している。



「ちょ………え?『知り合い』なの!?待って!通学路の帰りって……そう言えば!雛美ちゃんに出会った時言ってた………」



 僕達は二人が泣き止むまで少し待つ事にした。



 聞いた感じでは、雛美は通学路の帰りに此処に飛ばされて片や10年彷徨い、その友人の茜も消息を探す為に足取りを追った結果、自分迄もがこの世界に飛ばされて来たらしい……その上1年も彷徨ったとなれば、もうかける言葉も見当たらない。




「私ね!みんちょがもしこの世界にいるなら!って思った事もあったの!私が此処に来たなら、みんちょも!って!うわぁぁぁん……」


「あーちゃん!私は10年も前に来てたの……此処に……この世界は変なの……全く歳を取らないの!……その間ずっと一人で……悲しい事しかないし!誰も助けてくれないし!うわぁぁん……」



 僕はビックリしている宿の主人に、ヤカンいっぱいにお湯を沸かして貰う。


 主人は何気なく感づいた様であったが、わざとらしく………



「ああ分かった!お茶を用意するから待ってなさい!なーーに大丈夫じゃ!何も心配はいらん。ワシは何も見てないし、聴いておらん!だから誰に何も話せん!!さぁ!お茶を入れようかのぉ?」



 本当に良い宿の亭主だ……


 僕はカバンから業務用ココアとチョコレートを取り出して


「皆さん!ホットココアと、ホットチョコレートどっちが良いですか?」



「「「ホットチョコレート!!!」」」



 泣いていた筈のカナミとアーチに加えて、慰めていた筈のユイナまでが即答で『ホットチョコレート』と叫ぶ………俺の優しさと溢れた気持ちを返せ!!

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