第372話「タマネギと卵とアレックス……王都で見つけた魔導書店」


「マッコリーニさん!!これ!」


「ナミダマですか?これはなかなか癖のある野菜ですよ!切ると涙が止まらなくなるって有名な野菜ですよ?」


 本当にタマネギだった!



「マッコリーニさん!これ一箱売ってください!後醤油も沢山ください!幾らですか?」



 その言葉に隣に馬車から声をかけたのは、フラッペだった……


「ヒロ様!宜しければその箱を差し上げます!今までお礼が何もできませんでしたので!是非お納めください!魚醤もまだお分けできる分がありますので後ほどお渡ししますね?それで……ちなみに……何をお作りになるので?」


 どうやらマッコリーニの持ち物ではなく、フラッペが買い込んだ物らしい。


 フラッペの馬車は、すでに帰り用の買い込みを済ませている様で、荷馬車に乗らない分をマッコリーニの荷台へ置かせてもらった様だ


 しかしフラッペに、そう質問されたので僕は



「カツ丼の完成版を!!と言うかカツ丼です……あ!卵も買わないと!!どこで売ってますか?後お米も!」



 興奮のあまり声が大きくなっていた……そのせいで通りから『おにぃさん!卵あるよー!朝取れの新鮮なのが!!』って呼び止められ、マッコリーニが荷馬車を止めて吟味に行く。



「ヒロ様!これは間違いなく『朝取れの卵』ですよ!買うなら、このマッコリーニが商談いたしましょう!いくつお望みで?」



「新鮮で朝取れの間違いない物だったら全部買います!」



 その言葉にびっくりする、マッコリーニと販売員……



「ぜ……全部ですかい?新鮮な卵はそうそう安い物では無いですぜ?冒険者のお兄さん!羽振りがいいとは言え……全部買うってんなら……安く負けても単価で銅貨50枚はするんですぜ?」



「ほう!銅貨50枚ですか!ならなばヒロ様が買わない分はわたしが買い取りましょう!共同購入で!」



 マッコリーニが僕に気を使ったのか、残ると思ったせいか新鮮な卵を買い取ろうとする。



 卵は、カツ丼にもカツを揚げる繋ぎにも、卵焼きにも目玉焼きにも使い道はたくさんある……茹で卵にしてラーメンに入れれば楽しみ倍増だ!


 更にお米があればチャーハンも作れる!スクランブルだってある……だから譲るはずが無い!!



「何個あるんですか?全部買いますよ?カツを揚げるのに卵の繋ぎが必要で『カツ丼』作るのには溶き卵とタマネギ必要なんです!ずっと探してたんですよ!」



「「「カツ丼??タマネギ????」」」



 マッコリーニ以外の全員が一斉に質問をする……マッコリーニは今までの経験上驚きが少ない。



「タ……タマネギって言うのは、ナミダマの『別名』です!僕の村ではタマネギ……そう言っていたんです!カツっていうのは、乾燥したパンを粗挽きにした後、お肉に卵を纏わせた後にパン粉をつけて油で揚げた料理のことです。それをカツ丼にするとナミダマと卵と醤油が必要になるんです……って事で卵は全部必要なんです……オムレツも作りたいし!」



「「「「オムレツ????」」」」



 この言葉に卵の販売員は身を乗り出す……


 この異世界では、新鮮な卵は生で食べるのが一般的だからアレンジがあるならば聞き逃したく無い様だ。


 時間が経ったのは仕方なく焼いて食べるが、調味料が少ないこの異世界では、味が薄すぎてあまり美味しいと思われていない。



「と……取り敢えず全部ください!」



 そう言うと籠を持って来る販売員。


「こうしましょう!卵のレシピを教えてくれるなら、半額にします!」



 僕は面倒だったが、圧力がすごかったのでオムライスのレシピを仕方なく教える。



「って事は、エルフ米を炊くんですね?そのご飯に鶏肉を入れて味をつける……できればトマトなる物を探してペーストにすると!でそれとエルフ米を混ぜ合わせ、ふむふむ……トマトは赤くて丸い野菜と……ふむふむ!それにふんわり半熟の卵を乗せて、上にトマトペーストを乗せると!んでペーストの作り方が………ふむふむ!!」



 販売員が話を聞いている間、マッコリーニが鮮度を確認して、お手伝いが卵を数える流れが出来上がる。


 卵は全部で30個あり、銅貨1500枚になるので金貨1枚と銀貨5枚だった。


 確かに卵1個が約500円だとかなり高い、半額でも単価250円で総額が銀貨7枚銅貨50枚だ



「ならば、オークカツの方が手頃に作れるって事ですね!?魚醤と若しくはエルフ醤油……後は白牙か……あ!白牙大根おろしですね!覚える事がたくさんで!いやぁ!今日はいい日だ!卵って高いから飯屋でも嫌がられがちなんですよ!そうか!材料にしちまえば……そうかー」



 彼は『うんうん』うなずいて、僕から銀貨7枚と50枚の銅貨をもらって納得していた。



「帰ったらやってみますぜ!オークトンカツの白牙大根おろし乗せ!レシピ有難う御座います!!これで成功したらちゃんと卵を冒険者ギルドに納品に行きますんで!冒険者さんお名前は?」



 彼がそう言った時、後ろから『この方はヒロ男爵様でいらっしゃるぞ?冒険者である事は間違い無いが、国王陛下の肝煎りの男爵ゆえ粗相がない様にな?』そう言ったのは、騎士団長アレックスだった………



「またヒロ殿は!!こんな所で……おい卵売り!ちゃんと学んで練習するがいい……この方の作る料理は『カノープス様』が特に気に入っておる!うまく仕上げれば、王宮で食されるかも知れぬぞ?」



 僕が男爵と聞いた卵売りの販売員はお金を返そうとするが、どんな貴族がそんな事をさせて居るのだろう……性根を叩き直さねば!



「アレックスさん、卵売りさんがお金を『返そうと』したって事は『強要する貴族がいる』って事ですね?後で王様に言って嫌と言うほど思い知らせて、そして捻じ伏せてあげてください!」



「はははは!!あいわかった!良かったな?卵売り、この方はこんな格好して居るが、お前達側の貴族様だ。それにしても『まける』などと言わねば金貨も問題なく受け取れたのにな!ははははは!!」



 僕の言葉にアレックスはそう笑いながら言うが、レシピ教えたんだからそれを元手に稼いでくれ!卵の財源は自腹で済むんだからさ!


 まぁ次合った時に卵の納品とかは要らないけど!



 『アレックスはなんで此処に?』と質問をすると……答えは簡単だった。


 マジックバッグを見せて『不正書類などを含め、アーク伯爵の執務室の書類や帳簿全てをな……馬鹿な伯爵のおかげで仕事が増えたわ!』そう言った後に卵売りが、自分に強要していたのはアーク伯爵にアーコム子爵と言ってきた。


 本当に碌でもない奴らだ……


「ヒロ様は明日、ジェムズマインへお帰りであろう?どうだろう?王都イチの魔導書を扱う『レプラコーンの秘術店』があるのだが?案内しようか?」


 凄い響きの店だ……しかし願ったり叶ったりだ!是非行ってみたかった!



「是非お願いします!、あ!でもマッコリーニさんの馬車でしたコレ……」


 そう言うと、マッコリーニも興味が出たのか『私も行っても宜しいでしょうか?決してお話の邪魔は致しません!故』と言って同行する腹積りだ。


 アレックスは部下にマジックバッグを渡して先に戻る様に言った後、僕達に道案内をしてくれた。

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