第368話「王様の悪巧み大成功!?王都に別邸なんか要りません!」


 しかし僕は既に、王様に啖呵を切ってしまった……


 あれだけの大事を言っておきながら『今更要りません』とは、どうにもできないと思っていたら……王様一行が様子を見にきた。



「お主が孤児院の院長クレメンスだな?我が王国の貴族が本当にすまない事をした!ヒロ男爵が機転を利かせてくれねば大事になっていた……下手をすれば私は暗殺され、世界は闇に覆われただろう……その全てにクレメンス!貴女が関わっていると聴いた。人選を彼にしてくれた事に礼を申す!」



 最初は良いスタートだったが、人選の時点でもう『悪魔っ子』引き取り決定事案でしか無い……そう言いたいが、知らない貴族も居るので話せない。



「国王陛下様……我々の住居の件ですが……流石に分相応ではありませぬ故、何卒……頂けるならば『普通の小さい家』にして頂けませんでしょうか?」



 『あゝ言っちゃった……』と心の中で僕は呟くが……爵位など要らないとか言っていた僕が言える物でも無いな!とか思っていると、王様は……



「ならばこうすると良い!あの伯爵邸本館はヒロ男爵の王都別邸にするが良い!そしてあそこの土地には裏に2階建ての建物があるのだ!そこを孤児院とすれば良い!畑もあるし、壁もある!そしてヒロ男爵もおる!」



 『くそう!!全部織り込み済みかよ!』と言いたいが、メンターさんは『何も言うな』と言う顔をする。



「本館は使いにくくても、別館なら同じ作りが2棟あるからな!どちらを選んでも問題はなかろう?それに面積で言えば1階で前の2倍程度の大きさだ、本館より遥かに小さいから其処ならば気兼ねなく暮らせよう?何より、ヒロ男爵のお膝元と言う後ろ盾も追加で得られるからな!」


 王がそう言った途端、子供達は『私達の新しいお家があるの!?お兄ちゃんすごーい!』などと勝手に話が進んでいく……


 孤児院の院長は『それでも2倍の大きさなど頂けませぬ』と言っているが、王は無視して子供と話す。



「そうだぞ!?このお兄さんはヒロ男爵様と言ってな!偉いんだ!お前達を助けただけでなく、悪い貴族をやっつけて王様の儂を助けてくれたんだ!そして悪い奴が、お前達の家を焼いて住む場所が無い……と聴いたから『伯爵邸を寄越せ!!』と儂に多くの皆の前で言って、約束までさせおったのだ!」



 孤児院の院長は泡を吹き始めた……目はエク◎シストの様になっている。



「だから伯爵別邸の本館をヒロに渡して、敷地内にある2棟の片方をお主達の『新孤児院』にする様に手筈をする!既にある中の家具は使って構わんし、今家臣に言い伯爵邸から弁済金を持って来させておる!だから今日からちゃんと寝る場所があるからな!安心するが良い!ただ……問題は『院長』が頷いてくれんのだ!お主達からお願いしてみてはどうかな?」



 院長は王の『計画的発言』で先程よりもっと白目になっている………サ◎ライミ監督の某映画になっているので……このままでは孤児が全員悪霊になってしまう!!危険が危ない!!


 子供達はお婆さんに群がる悪霊の様に『院長せんせーーー』と言って首を『ガクン、ガクン』と揺さぶっている……ホラーだ!!



「わ!分かりました……国王陛下様、ヒロ男爵様!この孤児院院長クレメンス責任を持って孤児院を立て直し致します。孤児達にはヒロ男爵様別邸の庭掃除に始まり、全ての管理の手伝いをさせます故、お言葉に甘えさせて頂きます!本当に、本当に!有難う御座います!うう………うううう……」



 そう言ってまた泣き出す孤児院の院長……すると其処にアレックスが到着すして王に話をする。


「捕縛及び投獄が終了致しました!アーク伯爵書類一式は精査があるのでこれからの運び出しになります。調度品はいかが致しましょう?陛下……」



「調度品はひとまずは今日はそのままで良いが、ベッド等は取り急ぎ変えた方が良いだろう。やつと同じベッドでは普通嫌ではないか?……だから技師を呼んで急ぎ作らせておけ!」



 そう言ったが、直後に王様は何やら考えている……



「管理人は孤児院の子らが管理を買って出ているので、当面はそれで……こっちは別邸になるからな。合鍵の類は院長へ任せておくと良い、内部の掃除もある……後は追々ヒロ男爵とクレメンス院長で話し合って決めてもらう他あるまい」



 そう言って方向性だけ決まり丸投げになった……


 どう言う訳だろう?『男爵である僕が伯爵邸を使う』とはおかしいじゃ無いか!?……まぁそもそもそれを孤児院にしろなんて無茶を言ったのは僕だが……


 そう思っていると、アレックスが僕に、



「明日にはアーク伯爵の不正に関する書類など全てを持ち出す予定です。ですので鍵がかかった部屋が現在ありますが、中は入ってご覧になれますが?調度品も王へ言えば迷惑料として置くことが可能だと思われます。全部持ち出すと何もあの屋敷には無くなりますので……」


 アレックスがそう言うと、王は……



「奴の肖像画などはすぐに取り外す様に!子供達が嫌がるからな?其処はすぐに行っておく様に!!」



 …と、気を使っているので、すぐに破壊されてスラムの薪になるだろう。


 アレックスの案内で孤児院のメンバーは、伯爵別邸の敷地内にある『新孤児院』に向かって行った……当然悪魔っ子はマリンと呼ばれる子に手を引かれて連れていかれる。



「ヒロってさ?なんか予想外の行動するよね?でもありがとう!助かったよ!」



 その言葉にアラーネアは肉を頬張りながら、『ソイツは確かに変じゃ!……だが、変な時は大概人の為じゃ。そして何より後先を考えない大馬鹿なのじゃ!』などと言う。



 アーチは笑いながらアラーネアに、




「確かにそうね!不敬罪を気にしないって本当に馬鹿ね……でも、おんぼろ孤児院は雨漏りするわ虫が出るわ大変だったんだ。皆これでゆっくり寝られるわ。じゃあもう行かないと!新しい孤児院見たら、もう夜なのにきっと大騒ぎになっちゃう!!」


 と言って、孤児達の後を追いかける。


 孤児達にとって今日は、軋まない床で寝られる最初の日だ。


 皆で感動を味わいたいのだろう……



 アーチにしてみれば綺麗な家は当たり前、この世界の建築基準は元の世界に比べて、天と地の差があるのだ。


 その世界で恵まれない子に、少しでも満足な生活を与えたいのは当然だろう。



 孤児達がアーク伯爵の別邸に向かった為に、王はアレックスと共に一緒に様子を見に行く。



「ヒロ!ではまたな!儂も孤児院の様子を見たら王宮へ戻るぞ!今日は流石に疲れた……今日『も』と言うべきかもな!はっはっはっは!だがお主のおかげで王都も孤児院の様に生まれ変わる!ありがとうな!」


 そう言って、孤児院に向かって行った……


 僕達は既に王都へ2泊して3日目であるが、初日は夜に王都へ入場したので何も出来なかった事を考えると、正味2日程度だ。


 しかしこの2日で起きたことと言えば、謁見初日に大蜘蛛アラーネアと出会って、翌日は悪魔っ子が魔鏡から解放……そして多くの貴族に引導を渡し、孤児院を新しくした……毎日何かがある……


 そう思っていると、別の席で夕飯を食べていたエルフの3グループが近づいてくる。


 そして大切な案件を思い出す……『魂の器』の件だ。


 太陽のエルフレア、月のエルオリアス、大地のエルデリアの各エルフ族リーダーは、この旅でずいぶん仲良くなった様だ。


 何かある度に一緒に行動をしている。


「すいませんエルフの皆さんに質問があるのですが……『魂の器』と言うマジックアイテムがエルフの都で手に入るかの質問ですが……」



 僕がそう言うと、3人だけで無く定食に夢中なアラーネアも、その言葉に反応を示し僕を凝視していた……

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