第343話「アーチの素性と周りの目」
「あーーーーー!いーんちょーせんせー!!アーチがまた皿割ったー!!」
どうやら彼女はよく皿を割るらしい。
「違うのぉ!コレは私のせいじゃ無いのー!!」
そう言ってすっ飛んでくるアーチ。
「誰よ!東京出身って誰!」
と言いながら、僕を見続けるアーチは既に僕だと分かっているしか無い。
「それ……本気で聞いてます?僕しか見てませんよね?」
ガン見されっぱなしなので、僕がそう言うとシャインが僕の横にひっついて来る。
じっとアーチの顔を見ているが、同郷出身の喧嘩だったら止めようとしてくれているのだろう……喧嘩にはならないから大丈夫だ。
それよりシャインは、さっきからアーチを見ていずに僕を見ている気がする。
「やっぱりそうか!アンタ!東京出身か!だと思ったんだよ!なんか雰囲気がさ……で!他には?何人か居るの?」
アーチはシャインの顔を見て、自分の態度に気が付いたのか、にこやかに笑ってそう聞いて来た。
しかしアーチが笑うと、シャインが掴む握力が増して腕がミシミシ言うので非常に痛い。
「ジェムズマインに5人ですね僕含めて、ユイナさんにソウマさんあとはミクちゃんにカナミちゃんと僕で5人です。」
本名など此処で言えないので、異世界用の名前で僕はいう。
すると、『そうか!アンタ含めて5人か……こっちに居たんだね!もし誰も居なかったら、どうしようって思ってたんだよね!本当によかった!』と言って、安心したのかアーチにハグされそうになる。
しかし、シャインがハグに合わせて凄い勢いで僕の腕を引くので、僕は腕が引っこ抜けるかと思った。
ひとまず僕は腕が痛いので、シャインに離してもらってから、アーチと話の続きをする。
「同じ『村』出身だから安心する気はよくわかりますよ!でも1年ですか?此処の家に来てずっと?因みに僕はつい最近ですね……ジェムズマインから少し行った『魔の森』で気がついて、なんだかんだあって今に至る感じです」
そうジェスチャーを交えつつ説明すると、シャインは、
「私、そのなんだかんだの時の鉱山の戦闘でヒロ様に救われたんです!山ほどの全長がある魔獣の攻撃を私達が受けそうな時に、ヒロ様は凄い魔法で見事に腕を千切り飛ばして、私を救ってくださったんですよ!それでですね!瀕死の私を助ける………」
と話し始めた時に、テイラーがシャインの腕を掴んで連れて行った。
『お兄様?ちょっと!お兄様?話の邪魔をしないでくださいまし!……ちょ……………』
シャインはテイラーに孤児院の外に連れて行かれ、声もどんどんと小さくなっていく。
ザムド伯爵の馬車へ向かったのだろう。
「い……いいのあれ?あの話は聞いてあげた方が良かったんじゃ無いの?」
説明するって言っても鉱山の連合戦は終わったので、参加時の話は今じゃなくても後でも問題はないだろう……と言う。
僕は可もなく不可もなくの返答をしたので、アーチはこの件については適当に流した様だ。
そして何より兄のテイラーが連れて行ったのだ何か用事があるのだろう。
「多分大丈夫だよ!兄貴に任せておけば!何かあったんだと思うよ?ザムド伯爵の護衛できているはずだし」
僕は彼女含めて4人はザムド伯爵の護衛任務なのに、此処にいる時点で確かにテイラーは怒りそうだと思った。
一応アーチはテイラーの名前を知らない筈なので、最低限名前とシャインとの関係性だけは伝えておく。
そうすると、盛大に勘違いをするアーチ。
「ええ?あれお兄さんなの?カッコいい!貴方は将来あんな感じになるの?でも、東京出身は6人じゃない!貴方のお兄さん含めて!」
兄貴の前にシャインと言い忘れたせいで、僕の兄と勘違いしたらしい……確かにそう言われればそうだ勘違いも起きるかもしれないが、って……どう見てもおかしいだろう!
しっかり説明してから、話題の方向を戻そう!
「ええ?ああ!シャインさんのお兄さんだよ!僕のじゃ無い、僕の腕掴んでた人がシャインさんでそのお兄さんがさっきの人だよ」
しかしそうしてたらスワンが迎えに来た。
「ヒロ男爵様!急がないと!此処から幾らギルドが近いとは言え、陛下より遅くなれば良い印象が悪くなりかねませんから!」
確かに子爵の一件から長居している。
僕はクロークから開封済みの宝箱を一つ出して、子供に見せる。
開けると中にはそのままの状態で、宝物が詰まっている。
中身だけクロークへ仕舞い込んで、外箱だけは子供達のオモチャがわりに残していく。
「コレ中身抜いた箱は何かのケースに使えるので使ってください。この屋敷には家具が少ない分、洋服入れとか道具入れに使えると思います。」
そう言ってひとまず僕はギルドへ向かうことにする。
アーチとの話は馬車の中でもいいだろう。
「アーチさんギルドまで行くのでちょっと来ませんか?話は馬車で!お婆さんすいませんがアーチさんを借りて行きます。ご飯の準備すいません……」
しかし僕が男爵と知った、孤児院の院長は『ごゆっくりー』と言って送り出してくれた。
ドアから出ると、後ろで院長先生の声がする。
「さぁ、ヒロ男爵様から頂いたご飯でお昼を早速仕込みますよ!皆さん手伝って!私達に明るく楽しい食事を男爵様は用意してくれたんですよぉ!!」
小さな子供達は、『今日はお昼ご飯があるのー?』『今日はお昼と夜なのー?』と声がしていた………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕はスワンと王の側近に無理を言って、馬車にアーチを載せる許可を貰う。
もし載せられないのであれば歩いて話しながら向かうと言ったら、即答でオッケーが出た。
何事も駆け引きが必要だ。
「男爵なのに王家の用意した馬車に乗っているの?変な人……さっきはあのいけ好かない子爵を相手に喧嘩するし……」
アーチはそう言って、僕を変な人認定する。
しかし今はお互いの情報とこれからの話だ。
「それより此処に来て1年でしょ?誰にも会わなかったの?それにこれからどうするかもあるし!ジェムズマインの街には数日後に僕達は帰らないといけないし!ひとまずお互いどんな生活しているかを、すり合わせしない?」
そう言うと、悩みだすアーチ。
話せない事と悩みは今は置いとくとして、何をして暮らしているのかお互いにすり合わせをする。
僕が冒険者の様にアーチも冒険者だった。
僕がもうすぐ銀級になる事を告げたら、彼女はまだ駆け出しでゴブリンと闘うのがやっとだと言っていた。
それもソロで戦っているらしく、非常に効率が悪いし何より危険だ。
僕達の拠点に関しては、先の約束でこの王都の何処かに王様が作ってくれるので、そこを集合場所にしてアーチとも共に冒険すれば良いが、一人で冒険をさせて万が一大怪我でもしたら大変だ。
だからこそ、今は一緒に行動するべきじゃ無いか?と切り出す
ちゃんと稼げる様になってから、院長と子供達を迎え入れてもいいし、反対に自分が戻ってもいいわけだと話す。
死なない事が重要だと説明しておく。
僕達がこの王都にいる間は悩みたいと言って来たので、即答する問題じゃ無いから充分悩むべきだと話す。
僕は最悪さっきの金貨袋を孤児院に置いていこうと思った。
朝市などを活用して、ちゃんと計画して使えばすぐに無くなる事はないのは先ほど分かった事だ。
ただ問題なのは、スラム街に近いのでセキュリティが甘いあの孤児院に大金があるとそれだけで危険なのだ。
今まで貧乏だから狙う意味が無かったが、狙う意味が出来ればそうは言ってられなくなる。
僕もなんとかあの孤児達を守りつつも、危険をなるべく排除した方法を探すしか無い。
そうで無いと、アーチは元の世界に帰れる場合でも此方の家族が気になり帰れなくなる。
帰っても心に傷が残るだろう……だからこそ心配の種を無くさなければ!!
いわゆる既に異世界ホームステイ中なのだ彼女は……既に切り離せないホームステイ先の第二の家族なのだ……あそこの子供達は。
「王都のギルドへ到着しました。足元にお気をつけてお降りください……」
御者の一言でギルドへ着いた事が知らされる……さぁ!開封タイムスタートだ!
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