第301話「魔結症にかかるシリウスと進行する魔硝石化」
その考えを見抜いてか、王が僕達に向かって話し出す……
「お前達が心配するのも分かる……普段は私とてこんな真似はせん!だが、娘の為にここまで手を尽くしてくれた者達の事を信じられずして……何が王だ!お前達もそう思わんか?」
その言葉を聞いたザムド伯爵とウィンディア男爵は、声を殺して泣き始める。
「話が逸れてしまったな……ふむ……これが『秘薬』か。どれ程までこの薬を待ち望んだ事か……やっとシリウスの『魔結症』を治す事が出来る………」
僕は聞いたこともない名前につい声に出してしまう。
「魔結症?」
その言葉に耳を傾けた王が簡単に説明を始める。
「うむ……其方は、この薬を娘のシリウスに為に提供してくれた者だな?お前には感謝している!そうか『魔結症』について知らないのか……ならば知る権利はお前にもあるな……」
「魔結症と言うのは、魔素への抗体が極めて弱い者に起こるとされている。その症状は身体の端から魔石の様に硬質化していき、やがて完全な魔硝石に変わる病だ。」
「魔硝石とは極めて硬く純度の高い魔力を含んだ石のことだが、完全硬化した後は如何に『秘薬』とて治らないとされている……そもそも『秘薬』が極めて貴重だからな……試すことも出来んがな!」
「私の娘はその病に冒されていてな……既に身体の各所が硬質化しているのだ………余命は3年とされている。秘薬があれば回復出来るのだが直ぐに手に入るものではないからな」
「次にオークションに出たら、帝国の王には渡さない様に糸目を付けずに買う予定であった。だが、その薬が手に入ったとザムドから連絡が来たのでな。まさか!とばかりに飛び上がって喜んだぞ!」
王が説明をすると、廷臣と思われる男が止めに入る。
「王様!それ以上はお控え下さいませ。王宮にも知らぬ者さえ居る事で御座います……姫様の病の由来などを正直に、冒険者風情へ教える事では御座いません!」
王はその言葉を聞いて、苛つきを顔に出すが『当然』とも言える内容なだけに、廷臣の忠告を聞く事にした。
僕も『確かに!』とは思ったが、面倒な事に巻き込まれる位なら知らない方がましだ。
「王様、そちらの方が言う通りひとまずはその秘薬を先にお嬢様に飲ませて、病気を治す事が優先だと思います。冒険者である僕らにかまっている時間が勿体無いですし」
「何より、邪魔をする勢力がいることは確実ですからね!何か事がおきる前に無事こなした方が無難ですよ!」
「「「………………」」」
僕はうっかり許可も得ずに話しかけてしまう。
「な……何を突然申しておるか!無礼にも程があろう!王様に許可なく発言するなど!……あってはならん事だぞ!一介の冒険者風情が図に乗りおって!」
「これだから冒険者をこの場に呼ぶのは反対だったのです!ザムド伯爵……後で沙汰が降りるの心して………」
「辞めぬか大馬鹿者!!」
僕を叱咤する廷臣の発言に流石に声を大にして怒る王様。
発言は姫の事を思えば当然だし、発言する言葉が雑なのは冒険者と思えば理解もできる。
しかし問題は別の所でも浮上する……エクシアだ。
「オイそこのクソ野郎!図に乗ってんのはテメだろうが!テメエは王様か!?お前に侮辱される覚えは無いんだよ!オイ!コラ!!」
髪の毛が逆立ち薄らと赤味が増している……
「いいか!アタイら冒険者は『王様と姫様』の為だから我慢して護衛してやったんだ!お前が文句言うなら、今すぐその秘薬叩き割ってやんぞコラ!?」
いやいや……これ僕達が見つけた物ですから……割っちゃダメでしょう!と思った僕は仲裁に入る。
「まぁエクシアさん。僕も悪かったんです。ついウッカリ声に出しちゃったんで……責任の一端は僕にもありますし。めんどくさいから早く終わらせたいと思っちゃって……さっきからあの人煩いから……」
「ははははははは!!なかなか小気味いいな!エクシアとヒロとやら!そうだ少しはお前は黙っていろ!余が話しているのに邪魔をするで無い!今の謁見では同行させるつもりはなかった家臣だったのに……勝手に着いて来おって!」
王様は意外と気さくな人物のようで、僕達の発言を笑ってすませてくれた。
だが、その何でもない『謁見に同行させる気がない家臣』の発言で僕は気にかかった。
さっきの『秘薬』を預かる事件といい、騎士団の檻から逃げた者といい……全てが都合よく揃っている気がするのだ……
ここは本気で急いで薬を飲ませた方がいい気がする。
そこで王が廷臣を叱っているうちに、ザムド伯爵に小声で耳打ちする。
『なんか変です……あの人も予定に入っていなかった人だと言います……急いで飲ませないと秘薬に細工されたら困ります……」
『うむ……実は私も今思った所だ……いつもの廷臣では無いのだあの者は……」
「王様!ひとまずは姫の身を案じ先に薬を飲ませた方が宜しいかと!待ち望んだ薬であります故!」
ザムド伯爵がそう言った時に、王もこれ以上問題を増やすよりは……と考えたらしくザムド伯爵の発言に従う素振りを見せ、『秘薬』をその廷臣に渡そうと近くに呼び付けた時、僕の簡易鑑定に異変が起きた。
廷臣の片手に『毒薬小瓶』と言う文字が浮いているのだ。
元々この場で、王の持つ秘薬と毒薬小瓶を入れ替えようと考えていた様だ。
「王様!ソイツに薬を渡すのはお待ちを!アレックス!今すぐアイツを取り押さえて!証拠隠滅前に早く!」
僕は騎士団長のアレックスを、咄嗟に名指しで呼びつけ廷臣を取り押さえる様に指示をする。
何故なら王側の人間で、廷臣に一番近い人間がアレックスだったからだ。
しかし、僕の発した言葉に一番最初に動いたのはエクシアだった。
王の元まで一気に距離を詰め、その身を廷臣との間に差し込んで秘薬を受け取る為の動線に立ちはだかる。
一方出遅れて、アレックスが背後から廷臣を押さえ込む。
「何をしているんだ!王の御前だぞ!貴様ら!」
苦し紛れに悪態を着く廷臣だが、既に現場での取り押さえだ……隠した物が毒であれば言い訳などできようも無い。
「だったらその手に持つ薬瓶は何ですか!」
一斉に廷臣の腕に注目が集まる……アレックスが腕をねじ曲げ、袂を漁ると小瓶を発見する。
「王様、娘さんを殺す気ですか!!今のうちに鑑定スクロールをお命じになってください!この場で秘薬もご自身で確認して、『秘薬』は何があろうとも誰にも渡してはなりません!」
「う……うむ……私とした事が……つい習慣になっていた……馬鹿すぎて笑いも出ん……」
つい王に檄を飛ばしてしまったが、不敬罪にならずに済んだのは王がひどく反省したせいだろう。
「誰ぞ!鑑定スクロールを持ってこい!複数枚今すぐだ!」
突然の王命でで慌ただしくなる玉座の広間……数人の魔導士が慌てて『鑑定スクロール』を持ってくる。
僕は王宮魔導士が持って来たマジックスクロールさえ当てに出来なくなり自分で鑑定をして見てみる。
こう連続で何かあると、既に何かされていないか心配になるのだ。
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・強欲の秘密の薬液 『別名:秘薬』
錬金可能・マジックアイテム(薬品)
『使用期間 10天(特殊容器実時は倍)』
※マジックバッグの保存効果無効。
強欲の魔王が作った秘薬。
あらゆる傷を治し、状態異常を全
て治す。
使用時の副次効果で、寿命を使用
期間分伸ばす効果がある。
部位欠損時、全ての欠損を回復す
る効果が見込める。
『特殊効果』
・部位欠損時完全再生まで66日。
・摂取時 1MP限界値UP。
・服用時 強欲の影響を受ける。
・服用時 寿命延長最長10年。
※使用期間分適応
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
王の手にある物は紛れも無く『秘薬』だった。
鑑定内容は不安が残る物だが、これが周知の事実だとしたら……異世界人は心底すごいと思った……
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