第300話「玉座の広間と王様」


「すまん事をしたな……まぁアイツの言う事にも一理あるのだ。分かっていると思うが王の御前で武器の携帯は原則無理だ」


「だから武器は置いていってもらわんとならんが……後ほどちゃんと返却するので安心されよ!あとクロークの類も出来れば脱いでもらいたい。暗器の類はクロークの裏に隠しやすいからな……」


「防具については問題ないが、仕込武器は置いて行ってくれ……すまんな。王に何かがあったらこの国はたちまち混乱してしまう」



 アレックスはすまなそうに言うが、結局は装備を渡す事には同意はできない。


 なので再度、断らせてもらうしか無い……



「いや僕達は王様に謁見せずとも良いんです。そもそも秘薬護衛ですし……守るのが仕事で偉い人に会うのが仕事じゃ無いですからね!」



「はははは!まぁ、そう言うと思ったが王はお前たち二人に会いたがっておるんだ。まず『秘薬』を手に入れた冒険者と会ってその礼が直接言いたいそうだ……更にカノープス皇女を助けたエクシアにもな。」



「それはそうと、お前さんが『精霊使い』と姫が言ったのだが……間違い無いのか?エクシア……」



「ああ?たしかに精霊使いに『なっちまった』みたいなんだよね!まぁ姫さんが私の精霊化した姿見てるから、説明聞いたならそのままだよ?あとさ、さっきヒロが言っていたんだが……この部屋はスキルで自分の装備をしまうのはダメなのかい?」



「なんと!ヒロ殿はそんな事が出来るのか……ならば問題なんぞないだろう?ああ!アイツが拒否をしたのか!?アイツは……本当に迷惑しか掛けない奴だな……実はアイツはな第8王位継承権を持つ叔母の手の者なのだ」



 今普通に問題発言がでた……既にイマココで起きた事に関係している。


 第8継承権を持つ叔母は彼を使い『秘薬』を奪おうとした。……と言う意味だ!そしてその場合は秘薬が王に渡ることは無いだろう。


 渡したと嘘をつくか、偽物とすり替わるか……最悪『毒薬』と入れ替わるかもだ。



 そして僕は重要な事を聞く。



「アレックスさん例の襲撃犯は檻にちゃんといましたか?」



「……それがな……チャックの言っていた通り、実行犯全員が暗殺されて檻内は全滅だった」


「私が騎士団詰所を出る朝までは無事だったが、内部からの犯行で指の無い冒険者の死体が無かったからな。今付近を騎士達で探し回っている。皇女周りは騎士で既に警護したから安全だ」



「今の人、僕が持っている『秘薬』を預かると言ったんです!僕は一言も『黒箱』を持っていると言わなかったのに……黒箱ではなく秘薬ですよ?」


「王都でその存在を知っているのは一部の人でしょう?発見されたジェムズマインの街じゃ無いのに、周りの一般人までが知っているのはおかしく無いですか?



「単純に貴重なユニークアイテムを『誰かに触らせたく無い』と言ったはずが、『秘薬』を預かり王へ渡すと……おかしいですよね?その流れ……僕自身からまだ誰にも『秘薬』の話はしてません……それも持っているとは誰にも言ってないですからね」


「伯爵様が持っているのを確認させて貰う……と言うなら意味はわかりますが」



 僕はアレックスにそう伝えた後、伯爵に確認する。



「伯爵様……僕が持っている『黒箱』はこの街についてからの事ですが、僕が秘薬をダンジョンで見つけた事は誰かに言いましたか?」



「うぬ?それは手に入れた時に冒険者が手に入れたと………!!ま……まさか……そんなバカな!!王宮にいる継承権を持つ者がまさか……シリウス様は姪だぞ!?」



「最悪そう考えた方がいいですね……今の人は『秘薬』と言ったんです……僕の装備や持ち物を触られたく無いと言ったのに、『秘薬』とダイレクトに指摘しました……だから『注意を!』と言ったんです。王様に会うからと安心したらダメですよ?」



「今の場合、ザムド伯爵様かウィンディア男爵様のどちらかが、秘薬を持っていると想像するのが『普通』では無いですか?」



「奪われて破棄されたりヤバい薬とすり替えられたりしたら、それこそ終わりです!」



「更に懸念していた、指がない冒険者を除き実行犯は全滅です……これの意味するところは……そう言う事ですよね?」



「カノープス皇女を始末し『秘薬』を処分する……それが目的でしょう……」



 僕が手厳しい事を説明していると、ノックして外から声がする。



「用意が整いました。王の間までご案内致します」



 その言葉でアレックスから僕とエクシアはせっつかれる。


 僕は皆の前だが『ユニークスキル』を使わざるを得なくなり、部屋の壁に倉庫への入り口を作る。


 中に一先ず装備を放り込んだ後、リュックからスライムと聖樹の苗木を出して床に置く。



「ごめんね今から王様のとこに行くからちょっとここに居てくれるかな?あの扉はユニークスキルで作ってあって誰も入れないから安心して!」


 そういうと、モンブランは



「内側に扉を作って行った方がいいよ!一定時間過ぎたら外扉無くなって、今度は私達がここから出られなくなるから。4時進以内に戻れなかったら、その扉からスラちゃんに出てもらって外で待ってるから!」



「まぁ4時進も王宮にいることは無いけど、それで安心できるならそうするよ」



 僕はそう言って壁の一箇所に応接間への扉を作る。 



「どうやって出るの?スラちゃんに連れて出てもらうって……実際には?スラちゃん手も無いよね?」



「アリン子の形でリュック足にひっかけて持って出ていけば出られるじゃん!」



 どうやらモンブランは、あの珍妙生物を自分の足代わりにすることは決定事項のようだ。


 しかしそれを話している時間は既に無い!



「行ってらっしゃーい」


「コロコロ」



 そう言って倉庫の中でくつろぎ始めるモンブランとスライム……モンブランは目で見えないので良いが、スライムは目視できる。


 部屋の中を転がっている様が外から見れてしまう。



「ほぉ……これがそのスキルですか!便利で良いですな!……っと感心している場合では無いですな!さぁ!王の間にお願いしますぞ!」


 そう言って結局僕達は、王の前まで連れていかれてしまう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「皆様方……此方が、玉座の広間となります。くれぐれも粗相の無いように……」



 小さな声で僕達に注意を促したあと、僕達の了承など気に留めることもなく言葉を続ける……



「ジェムズマイン領主!ザムド伯爵をお連れ致しました!」



「通せ!!」



 玉座の広間と呼ばれた場所は、大理石に真紅の絨毯がひかれていて、凄く重苦しい雰囲気があった。


 王の玉座に座るのは王のみで、王妃や姫も居ない。


 それどころか、中に控える騎士も少なく『必要最低限』の人間しか居ない。


 ぱっと見は部屋が凄い感じはするが、その割に人があまりにも少ないので拍子抜けしてしまう。



「ユニバース国王陛下!本日は貴重なお時間を頂き誠に………」



 ザムド伯爵が口上を述べる前に、王自らの言葉で中断される。



「構わん!今この場では建前も何も要らん!事情が事情だけに口煩い者は全て排除した……ザムド伯……して黒箱は無事なのか!シリウスを救える秘薬は!?」



「ハ!此処に!」



 そう言って王の側近に『黒箱』を渡す。



 側近は直ぐに王の元へ持っていく。



「我!ユニバース・ファイブスター。力を示し封印を解く者なり!」



 王が短く何かを言うと、今まで黒かった箱が『白箱』に変わり勝手に蓋が開く。


 僕はそれを見て『不用心』はスキルだな……としか思えなかった。


 しかし、此処で何か起こせば『謀反』では済まない……間違いなく血縁関係全ての運命が潰える。


 王は箱の中に入っていた、マジックバッグに不用心にも手を突っ込む。


 勿論中身は『馬のフン』ではなく『秘薬』なので問題は無いが、これも取り出し方を少し考えた方がいいだろう……せめて此処だけは家臣にやらせるべきだ!

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