第293話「王宮殿からの使者」

 僕は慌てて受付に走る。


 ザムド伯爵の部屋には、犯人の護送を兼ねて直接裏通用門から入った為に受付は通っていなかったからだ。



「すいません!僕宛の…………」


「ヒロ様!!良かった。随分前から王様の使者がお待ちなんです!!帰っていらっしゃらなかったので、どうしたものかずっと気を揉んでました。まさか当ホテルに王様の使者がいらっしゃる日が来るとは………」



 僕が女将さんに話をするより早く用件を言ってくれたので凄く助かったが、問題の王様の使者は数人で宿の待合室で待ってくれているらしい。


 王の伝言を適当な者に伝言など出来るわけもなく、ずっと待っていたらしい。


 女将に案内されて待合室に連れて行かれると、そこには正に仕事が出来そうな女性が座ってお茶を飲んでいた。


 僕は第一声で謝罪を入れる。



「も!申し訳ありません!実はこれには訳が……」



「私はバトラー兼従者をしております、スワンと申します。お見知り置きを……遅くなった事であれば大丈夫ですよ?我々も既に事の事情は把握済みです。」



 そう言った後目の前のスワンという女性は横にいた男性に、



「アルビレオ。夫人にお礼を」



 スワンという女性が短くそう指示をすると、多分チップであろう物を女将に渡す。



「申し訳ありません。此処からはお話を関係者以外には聴かせるわけに参りません故、2人にしていただけますか?」


「アルビレオ!防音の措置をしてから退出を。周りにも兵士を立てておくように!」


「はい!スワン様直ちに!」


 スワンという女性がそう言うと慌てて女将が部屋から出て行き、アルビレオと呼ばれた者がマジックアイテムのような物を部屋の四隅に置いてから退出をして一礼してからドアを閉める。


 途端に外の音が一切聞こえなくなり、不思議な感覚になる。



「失礼ながらこの部屋には防音措置を施させて頂きました。我が国で起きた事ですが、事情が事情ゆえ余り周りには聴かれたくないのです」



「まず初めに、この度はカノープス皇女の護衛をして頂き誠にありがとうございます」



「使いの者が貴方様の姿をお見かけして事の次第を全部報告されましたので。お待ちしている間に誠に失礼な事なのですが、『アリン子』様にも先程お礼の品を既に届けさせて頂きました。」



「女性が来たのでびっくりなさったのですね?先程申し上げましたが私はこれでもバトラー兼従者をしております。ですので王と皇女様の感謝の言葉及び褒賞をお持ちしました」



 やっぱり見かけと一致して優秀だった。


 しかし連絡役には男性が来るものと思っていたが女性が来たのでビックリした。


 本来この様な地位だと男性が付くものだと思ったが、異世界だから勝手が違うのは当然だ。



「此方が、王より預かった御礼状と金貨袋で御座います。お納め下さい。」


「そして此方は王妃様とカノープス皇女様の御礼状でございます。此方は王妃様と並びに皇女様のお気持ちの品です、どうぞお納めください」


 そう言って手紙3通と金貨袋150枚、それにフルーツ盛り合わせを頂いた。


 なぜ枚数までわかるかは、当然簡易鑑定で枚数が出ているからだ。


「いえいえ!もともとはエクシアさんとアリン子で制圧した事ですから………」


『バタン!!!』


 話している最中に勢いよくドアが開けられ閉められる……僕とスワンさんはビックリしてドアを見ると、エクシアさんが笑いながら『なぁ!明日のことどうなった!?』と僕らの事情そっちのけで言っていた……



 そこからは大変だった……エクシアはまどろっこしい御礼の話などどうでも良い根っからの『冒険者』だ。


 全てのお礼話をすっ飛ばして内容を聴こうとしていたので、スワンさんは慌てて王と王妃それに皇女様のお礼の文と同じ金貨袋とフルーツセットをエクシアに渡す。


 本来この様な状態にスワンさんがなった事がない様で、若干取り乱しながらもアレックスと王様が話した事を伝えていたが、その場でモリモリとフルーツ喰い始めたエクシアはとても自由人だった。



「……………ですので王様には騎士団長アレックス様から伝わっております。明日の土の10刻には王宮にお越し下さいませ。全ての準備をそれまでに整えておくと王からの返事に御座います」



「王も間者が王宮に居るその旨は、懸念なさっていたとの事です。ですので、その時間に立ち会う王宮関係者は言われた通り極小数にしております。全ての用意は明日の朝行うそうなのでご安心ください」



「成程!じゃあアレックスはちゃんと王様に伝えたんだな?ならザムド伯爵呼んだほうがいいかな?スワンちゃん?」



「そもそもそれは一番最初に言うべきですよ?エクシアさん……スワンさんが同じ説明をまたしなければならないじゃないですか!」



「あらら!言われてみればそうだね〜じゃあスワンちゃん!まぁこのフルーツでも食べて許しておくれ!王妃様のだから結構高いんだろう?すまないね!今ザム呼んでくるから!」



『バタン!!』



「ザムじゃないですって!伯爵様って付けてくださいよ!って!!本当に聞いちゃいねぇ!!」



「ああああ!すいません!つい僕まで………」



 僕はスワンさんに更に謝罪を言おうと思って顔を見たら……



「ヒロ様……これ食べても本当に良いですかね?」



 意外と食い気が旺盛なスワンさんだった。



 僕がナイフを貸して二人で剥いて食べているとザムド伯爵とウィンディア男爵を連れてエクシアが戻ってきた。



「ザムとウィン連れてきたぞ!スワンちゃんまた同じ説明をよろ〜!!」



「だから!ザムでもウィンでもなくちゃんと呼んでくださいよ!不敬罪になりますよ!?」



「構わん!構わん!もう諦めておるからな!ははははははは!!」



 入室早々テンションの高いエクシアと台詞にザムド伯爵は笑いながら応えていた。



 またもや同じ説明をするスワンさんだったが、既に張り詰めた空気はなく僕が剥いたフルーツを皆で食べながらのんびりとした会話になっていた。



「なんか……申し訳ありません……王宮からの御礼の品なのに。」



「大丈夫に決まってんだろぉ!皆で喰った方が美味いんだって!こればかりは間違いないのさ!」



 エクシアの姉御肌はスワンさんにも通用するらしい。


 清々しい程に『適当』だが、悪気が無いのが伝わるので受け入れやすいのは間違いない。



「ではスワン殿……明日は頼んだぞ!遅くまでエクシアに付き合わせて申し訳ないな!」


「いえいえ……私としては一生食べれる事はないフルーツを頂きましたので!お礼を言っても謝られる事はありません!明日の準備は任せておいて下さい」



「あと!此処から出たら他言無用でお願い致します。防音措置は扉が閉まって無いと効果がありませんので」



 無事に話し合いも終わって僕達はスワンさんを見送りに出る。


 受付では粗相がない様に、女将に加え宿の主人にお手伝いまで整列して出ていた。



「こんなむさ苦しい待合室で申し訳ありません!今度確実に修繕しておきますので!」


「いえいえ夫人……夜に来て無理を申したのは私共です。お茶まで頂きその上部屋まで貸して頂き本当に助かりました」


「アルビレオ!皆様にお礼を」


「はい!」


 そんなやり取りが、女将さんとスワンさんの間で行われたが亭主はびびって一言も話せなかった。



 そのあとアルビレオが全員にチップを渡すが、皆戸惑っていて女将に関しては、


「違います!そんな為に並ばせた訳ではないのです!ス……スワン様!ちょっとお前達受け取るんじゃないよ!!」


 と言っていたが、


「女将!この様な場合は出した物を引っ込める方が『恥』なのだ!素直に受け取らせよ!」



 ザムド伯爵が助け舟を出して、従業員の皆がもらい丸く収まっていた……後であれは女将さんに回収されるのだろうか………とてもそれが気になった。

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