第257話「エルフの教理と闇堕ちへの知識の差」

よく考えると目まぐるしく事が起きている。


 商団は『氷菓屋団長のフラッペ』に『テッキーラーノ団長のハリスコ』がジェムズマインを出発する時にはマッコリーニに寄り添い既に増えていた。


 中継地点の村を出てから暫く進んだ岩場で襲われて一泊、此処までは予定通りだ……適度にチャームをしまい魔物の気配による緊張感をもたせつつの移動だったので大事には至らなかった。


 予定通り『襲撃』あったのだが……忘れてはいけない『エルフの襲撃事件』……これで状況は一変した。


 この時に予定にないエルフの襲撃で『大地のエルフ』と『月のエルフ』の同行者が増えて、ユイとモアとスゥが超絶不機嫌になった。



 そして、マジックアイテム探索部隊を僕達が捕縛している時に、エルフによって予定外の危険に遭遇した。


 ちょっと見ないうちに危険な魔物に変わったエルフは非常に脅威だった。


 ヤクタ男爵の探索部隊を取り押さえる時に一戦したが、ちょっと前とは何もかもが段違いで頭のネジが完全にぶっ飛んでいたので、要危険エルフ認定だ。



 その数時間後に、今度は思い通りに行かない事で癇癪を起こしたヤクタ男爵の騎士団が原因で勝手に崩壊した……伯爵が騎士を放免した策がうまくいったお陰で、結果的に再起不能になって新しい結果をもたらした。


 崩壊した男爵の騎士団員はまさかの戦利品を持ち込むまでに至った。


 運が良ければ取り返したいと思っていた半ば諦めたマジックアイテムだったが、向こうから持って来てくれたのは大助かりだ。


 王都までちょっとお使いの筈が、何故こうも複雑になってしまったのだろうか。



 しかし、お駄賃がわりに魔導書3冊を手に入れたので結果オーライだ。


 男爵の不正をどうこう言っていたなんて事は、僕は覚えていない!!気のせいだ!多分……



 ちなみに現在は先ほど帰ってきたエルフが隊列に加わり、見張りを買って出ている。


 沢山のウルフを狩ってきたらしいのだが、僕は味付けの心配していた……昨日だけでも12頭のウルフだ。


 今日は小耳に挟んだだけでも8頭程は『月のエルフ』が狩っていた。


 『大地のエルフ』は勝った!と言っていたのでそれ以上の様だ多分出会った群れが良かったのだろう。



 言葉のニュアンスから、どうやら獲物を何匹狩るかを勝負していたらしい。


 勝った方がマッコリーニの魚醤を多く買う事で話が付いたらしい。


 まぁ魚醤を使わずとも、自分の王国には醤油がある様なのでそれを使えば良いのでは?と言ったら、森に居るために海の物が恋しいそうだ。


 月のエルフも王国の所在は言わないものの、森の話に頷いていたので大方似た場所だろう。



 暫くはエルフ達の護衛で進むが、余りにも安全なので待機組は馬車に揺られて既に夢の中だ。


 因みに僕は馬を自分で扱えないので、常に馬車荷の護衛組だ。



 気の抜けたその様子を見ていたエルフが、珍しく自分から話題を僕達に振ってくる。



「すごい平和ですね……先程、我々が狩りに出た時ですが、割と遠くまで行かないと獲物が見つかりませんでした。ウルフの群れは稀にこっちへ近づこうと移動するのですが、一定距離まで近付くと反転して他所へ行くのです」



「誰か魔物避けの香でも焚いているのでしょうかね……この周辺は蟻の巣が割とあるので敵襲がそこそこあるのですがね……地中には香の効果がほぼないので襲われてもおかしくないのですが、不吉ですね……」



 エルフ達がそう言うと、周りの元騎士達もこの周辺の情報を知っているのか口々に話し出す。



「確かにそうですね、あの村から暫くは岩場が続き現れる魔物はゴブリンに平原ウルフで、魔物以外だと野盗や人攫い位ですからね……我々が野営していた時は割とゴブリンやウルフを相手に戦いましたが、今の状況が嘘の様です」



「この周辺のトンネルアントとは、王都へ行く度に何度も戦いましたからね。今こんなに静かなのは何かの異変の前触れでないと良いのですが……」



 安全だから良いわけじゃないらしく、めっちゃ警戒されていた。



 僕は話を変えるべくエルフ達に変異したエルフのことを話した。



「そう言えば、あの襲って来たエルフ達ですが、あの後一人は逃げましたが二人の骸は何もしませんでしたので翌日騎士団達とあの場所に埋めて来ましたがよかったのですか?エルフ的に何かしなくても……」



「うむ……そうだな、襲われたからにはちゃんと話した方が良い事だったな。……すまんな。つい同族意識で考えがちになってしまう」



 僕の目の前には拘束を解かれた太陽のエルフもいる。


 仲間を殺したことになるので凄く気まずいが、仲間の事だけに話しておく必要がある。



「月のエルフ隊長殿此処は私に説明させていただけませんか?我同胞の事もありしっかり礼も言わねばならないので……」



 そう言ってエルフの戦士は話し始める。


「私はエルフの戦士名前をテリアと言います。遅くなって申し訳ありません……仲間の弔いをして頂き有難うございます。色々事情がおありの様でしたので機会を窺っていました」



「事の次第は前に述べた通り、単独行動したゲイオスが冒険者ギルドで起こした騒動に起因します。お詫びのしようもございません……」



 僕達は食事を与えたのちに事情聴取をした結果、全てが太陽のエルフの誤解だと分かった。


 それも勝手に単独行動した結果問題を起こしたらしい。


 その直後、問題が起きたのでそれから話す機会が無かったのだ。



「我々は教理の関係上、闇堕ちした同種族は元仲間と言えども亡骸に手をかける事は許されません。彼等、闇の者は我々を憎み全てを破壊して殺し尽くすことを目的としています。最終目的は世界の破壊です……」



「そんな思想を持つ者に仲間がなった場合、我々エルフ族としては恥でしか有りません。その為どんな任務よりも討伐が優先されます。」



「そして討伐した後は、仲間と言えどもその亡骸に触れる事は不浄とされ、その為に我々エルフでは埋葬が出来ないのです。これは全てのエルフにおいての事です」



「闇堕ちした戦士が出た場合、我々は自分の国でその者が誇り高き戦士であった証拠として、遺体の代わりに武器を埋葬します。武器は王に誓いを立てた時に魂の半分を剣に封じるのです」



「理由は、例えその身が闇に染まっても魂の半分は剣とあるためです。」



「我々の武器は太陽の神によって祝福された後に持つ事を許されますので、万が一の場合は祝福で穢れのない武器を遺体の代わりに扱うことが多いのです」



「今回は傲慢な気質の持ち主が作った嘘に踊らされ、我々も調べる事を怠りました。その結果情けない事に『闇堕ち』してしまいましたが……本来は『多くの穢れ』を吸い込むことで我々も変異すると言われています……魔物と同じとの事なのです」



「しかし、闇堕ちして苦しむ仲間に貴方様が『安らかな眠り』を与えて頂けたと聴きました。その上、先日仲間の武器も頂きました……これで彼等の魂は生命の神樹に還せます。その上あの不浄なる者達を埋葬して頂き本当に有難うございます。



 礼儀正しく接してくれたおかげで物凄く話しやすくなった。


 彼等エルフは特殊な教えがあるようで、その教理のせいで仲間であっても埋葬できない条件が存在するらしい。



 しかし、前に月のエルフと大地のエルフが言っていた『闇堕ち』の条件が太陽のエルフとかけ離れているのは、王の考えのせいかそれとも王に対抗する勢力の影響かは分からないが、このような問題は人間もエルフも大差ないなと思ってしまう。



 僕はあの夜に聞いた話は、このエルフの戦士には特に話す気は無いが正直な所早く意思統一をして国民へ知らせるべきだこれ以上『闇堕ち』を増やさない為にも…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る