第247話「闇に堕ちた者の最後」

僕達が彼等を取り押さえたその時『空間感知』に魔物の反応があった。


 個体数3はだが凄いスピードで迫ってきていた。


 僕は咄嗟に『平原ウルフ』と勘違いして全員に注意を促す……



「魔物急接近中!!全員抜刀!個体数3体」



 ほぼ同時にカブラがシャインに言い放つ



「シャイン、明かりだ今すぐに!『平原ウルフ』じゃないぞ!移動が速すぎる!テイラー盾で銅級をカバー!」



「光の精霊よ!闇を照らし、悪しきを祓え!『ライト・フィールド』」



 光魔法で周りが明るくなっていく……テイラー達銀級冒険者をメインに戦闘に備えて陣形を作ると、チャック達が騎士団員を全員引き摺りながら連れて来て、後ろに放り転がす……目の前に転がっていると戦闘に邪魔だからだ。


 身なりはエルフの様だったが、突然シャインが唱えた光の魔法を受けて悶え苦しむ



「人間が!よくも我らに!光の呪文なんぞ………」



 そう言ったエルフの顔には見覚えがあった……例の襲って来たエルフの1人だ。



 彼の眼玉は真っ赤に変色しており、身体については色が黒と紫色のマダラ模様になっていた。


 そして光を受けた直後から、口の端から泡を吹き苦しみながらのたうち回っている。



 3人ともジェムズマインの街からちょっかいを出して来たが、今までの様子とはかなり違っていた……『邪悪』という言葉がよく似合う感じだった。


 彼等は装備と姿がチグハグで、この短期間に身に及ぼすかなりヤバい事があったとしか思えない……



 僕達がその姿の代わり様に呆気に取られていると……彼等3人は呪文詠唱する。



「暗き闇の暴君よ!世界に見通せぬ暗黒を!『ザ・ダークネス・クラウド』」



「痛みと傷の王!闇の焔を穢れた矢に変え万物を破壊せよ!『ペイン・アロー』」



「腐敗せし悪食の王よ!全ての生き物に腐敗の恩寵を!『ぺスティレンス』」



 突如現れた黒い雲がエルフ達の周りを包み込んでいく。


 エルフの戦士がシャインに向けて唱えたペイン・アローは、割って入ったテイラーが盾で防ぐ。


 しかし盾に当たった瞬間、魔法の矢が弾けてテイラーがその場に膝をつく様に崩れる。



「ぐぅお!?な……何だこれは……身体から力が抜けて……痛みで立てない……」



 テイラーは声を上げるのも辛そうだった……その言葉を聞いた僕はかろうじて見えるテイラーを簡易鑑定すると『疲労』『痛覚倍化』『継続ダメージ-5HP』『虚弱』と言う状態異常が付加されている。


 さっきの魔法がその効果をもたらしたに違い無い。



 エルフの周りを包んでいた黒い雲はどんどん広がり、僕達の周辺まで来るが止まる事はなく僕達は雲に飲み込まれてしまう……


 突然周りが暗闇に包まれ視界が全く取れなくなり、非常に息苦し苦体が重くなる。


 僕のステータスには『暗闇』『継続ダメージーHP2』『疫病』『毒』と続け様に状態異常が増えていく……このままではヤバいとしか思えない。



 そしてこの異常を目の当たりにした月エルフのと大地のエルフが駆け寄るが、戦闘に参加しない位置にいて貰ったせいで距離がある……彼等の助けを悠長に待っている場合ではない。


 かろうじて『空間感知』は働く様で、暗闇に飲まれたエルフ達は動く事がない。



 もしかしたらこの魔法は自分達も相手が見えないのかもしれない……しかし僕達にかかっている状態異常が自分達も巻き込むとは到底思えない……


 死なば諸共の巻き添い攻撃ならやめて貰いたい……逆恨みなんだから!そもそもが!


 僕が泣き言を考えている時、遠距離で攻撃出来るカブラとチャックが仕掛ける。



 チャックは不利な状態でも戦える訓練を積んできた様で、全てが悪い経験では無いと思える様になっていた。


 矢筒から2本を取り出して歯で加えたあと、更に弓に矢をセットしすぐに射るチャック。


 狙った場所は雲の様な魔法を唱えたエルフだった……例え相手が見えなくても音で聞き分ける手段を取った。


 一本目の矢が何かに刺さる音を耳を澄ませて聴くと、通り抜けた直後に矢が掠ったのか、エルフの怒号が飛ぶ。



「人間の分際で……我に傷を付けるとは!そんなに早く死にたいか!」



 チャックはその声がした方へ更に2本矢を射掛ける……



「ぐぁぁ!」



 黒い雲で見えないが、どうやら今度は良い場所にヒットした様だ。



「傲慢さが仇になりやしたね!見えなくても気配で分かるもんっすよ!特にあんた達はアホみたいに怒り狂うから居場所がバレバレなんっすよ!」



 チャックがそう言った後に、他のエルフ2人の居る場所の黒い雲が渦を巻く……どうやらスキルか魔力を使い防御を上げている様だ。


 魔法効果かスキルかは分からないが、エルフが居ると思われる周辺の黒い雲が渦を巻くので居場所が分かった。


 先程矢を受けた者と同じ目に合わぬ様に、魔法かスキルで身体能力もしくは防御力を上げているのだろう。


 しかし、その行動が寧ろ仇になる……



 カブラが渦を巻く中心に素早く二箇所に矢を撃ち込む……


 カブラは視界拡張で暗くなる直前にエルフがいた場所の距離を大凡測っていた。


 この闇の中、少しの物音があればそれを計算して撃つつもりだったのだが、彼等は自分達で居場所を教えてくれた。



 カブラは弓スキルを使い、貫通力を一時的に上げる。


 弓の弦を離す音とは到底思えない強い音が『ビィィン』『ビィィン』と二度鳴ったかと思うと、矢が飛んだ先から声が上がる。



「グァ!!なんだと!?………何故魔力壁を突き破れる!」


「グゥ!!こうも易々と魔力壁を!?パワーショットか!我々の真似ばっかりする小賢しい人間どもめ!」



 その言葉にカブラは


「誰があんた達の真似なんかするか!れっきとしたレンジャースキルの一つさ!それも初歩中の初歩で、お前達みたいな魔力壁の使い手とか防御に慢心してる馬鹿相手にする場合には有効な技さ!」


「こちとらヤバい場所くぐり抜けてんだよ!これだけは言っとくよ!アンタ達が弱いだけさ」



 そう言い返すと、何度も攻撃を受けた事とチャックとカブラに馬鹿にされた為に、手前の1人から怒号が上がる……テイラーに魔法を撃ち込んだエルフだ。



「そんなに死にたいなら、今から皆纏めてあの世に送ってやる!」


「痛みと傷の王!闇の焔を……



 エルフの戦士がさっきの魔法をまた唱えようとしているので、僕は空間感知に反応がある場所に『無詠唱』でウォーター・バレットを撃ち込む。


 咄嗟だったので両手を開き、確実に当たる様に放射状に撃ち出す。




「ぐあぁぁぁっ!な……なんだと!ば……バカな……人間め!人間め!お前らなんぞに……」


「ガァァァァ……人間如きが……無詠唱だと!?劣等種族の分際で!よくも我に傷を………」




 手前2人から悲鳴が聴こえると、空間感知に映っていた敵性反応が一つ凄いスピードでこの戦域から離れて行く……逃亡した様だ。



 逃げたのが『黒い雲』を発生させていたエルフのせいか、黒い雲が急激に晴れていく。


 暗闇に関していそうな状態異常も黒い雲が消え始めると消えたので、雲がある時だけ効果がある呪文の様だった。


 これは今後の為にも『魔導士学院』か『魔導師ギルド』で基礎勉強をした方がよさそうだ。


 今は運良く結果が出たがそうならず全滅だって可能性がある。



 この場から姿を消した途端に晴れたので、唱えている間は移動出来ない魔法もあるのかもしれない。


 もう1人が唱えた魔法効果と思われる状態異常も、彼が大ダメージを受けた途端消えたので詠唱中断のそれに併せて効果も消える魔法の様だ。


 問題はテイラーで、未だに幾つかの状態異常が回復していない……矢の様な魔法だったので単体に効果がある魔法かもしれない。


 雲が完全に晴れると僕の魔法で既に致命傷だった様で、その場で事切れたエルフが2人倒れていた。


 考えてみると、魔法を撃った後に空間感知にあるはずの敵性反応が、次第に小さくなって消えていたので、そう言うことかと理解した。

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