第234話「古き盟約を知る者」
戦闘の意思を見た『野伏のエルフ』は、すぐ様武器を放り投げて『戦意が無い』事を示す。
僕は彼等が街で助けてくれた事を思い出し、一応質問をする。
「何故『あなた達』が此処に?街にいたはずですよね?」
「すまない驚かせてしまった……我々大地のエルフは夜目が効くので月明かりで充分全てが見えるんだ。人間にはあまり知られてなかったね……我々は暗い夜に火の強い光だと逆に目を痛めてしまうので、夜は野営で休む時以外は松明などの光は使わないんだ」
「これも全て長い年月、暗い森の中で狩りをして来たので夜目が使える様になったんだ。私達は捜し人をしていてあの街から人間の王都へ行く所だったのさ。」
「それでその途中に、偶然ここの大きな篝火を見つけてね……夜はエルフにも危険な時間だから朝までご一緒出来ないかと思い、来たってわけさ」
「勿論見張も交代で手伝うよ!どうだい!?人間の護衛隊、戦士のリーダー。君を雇っているボスに聞いて貰えないだろうか?」
大地のエルフと名乗った者に対して、伯爵が声を掛ける。
「本当に大地のエルフであれば、其方の王国の国王と王妃の名にかけて嘘でないと誓えるか!?我々人の子と其方たち森のエルフの盟約に名の下に!」
「ふむ!その事を知っている者が居たとは……かれこれ30年前になるか……その盟約は。」
「我、エルデリア・エルドリアンは、我が国王フォックス・エルドリアン・ディープ・フォレスト及び、王妃ナインテール・エルドリアン・ディープ・フォレストの名にかけて、人の子に危害を加えないと森の精霊に誓う!!我は問う!共に誓いし盟約の者の名を!」
「我は人の子、ジェムズマイン領主・ロックストーン家・伯爵位ザムド・タイガーアイと申す!」
「「我等、互いに盟約を果たす者なり」」
びっくりした……伯爵がこの場を仕切るとは考えもしてなかったので、呆けてしまっていた。
お互い名乗り合って盟約がナンタラと言い始めたが……もう武器をしまって良さそうな雰囲気があった。
そして、ザムド伯爵はにこやかに武器を下ろす様に皆に伝える。
「皆の者これで平気だ。私が幼い時、父に連れられて王都でな……国王同士の盟約を見たのだ。その時の約束事でお互い傷つけず互いに森を元に戻そうと言う盟約を結んだのだ」
「その文言を唱えれば、お互い盟約の元に協力し武器での解決はしないと決め事をすることが出来るのだよ。」
その台詞を聞いたエルフのエルデリアと名乗った男が笑いながら話す。
「その誓約を聴くのは30年ぶりだな……私もあの場に居たのだザムド殿。今も昔も国王直下の親衛隊をやっておる。今後とも仲良くしようでは無いか!人の子よ!ハハハハハハ!今日は久方振りに気分が良い!森の隣人を知っている人間と出会えたからな!」
「やはり我らが王は間違って無かった!記憶に留めていた者がこうしているのだ!」
リーダーの台詞でエルフの皆が和かになる……この今のやりとりは彼等にとって大切な事なのだろう。
お互い和やかなムードになったので、伯爵はエルフの一行を迎える。
強い光が苦手と言ったのは本当らしく、焚き火のそばに来た後にエルフ達は暫く目を慣らすのに苦労していた。
人間は寒さやを凌いだり周りを照らす光が必要なので、焚き火もそれだけ大きく起こす。
しかし、自然の光を主に使う大地のエルフには明る過ぎるのだ。
だが、時間を置けばエルフ達も目を慣らすことが出来る話をしている間に幾らか慣れたようだ。
割と打ち解けてきた頃合いを見計らっていたのだろう……伯爵が彼等にとって重要な質問をした。
「捜し人をしていると言ったが……ジェムズマインには居なかったのか?親衛隊が出るなんて余程のことでは無いか?」
「うむ!『多分』だが捜している者は王都に向かったのかもしれんのだ……見つけた後は少し話してから我々は王国へ帰ろうと思うのだ。大地のエルフが長い間人間の国を歩けるのだ……多分共に歩ける良い隣人に出会えたのだろう……」
どことなくエルデリアは寂しそうだった。
僕達はそのあともエルデリアと色々話した。
僕が気になったのは、まず王様と同じ名前の部分があったので王族か聞いたら『エルドリアン王国』と言う事らしい。
なので王様の場合は、『エルドリアン王国』のディープ・フォレストが『血脈の家名』でフォックスと言う名前の王様らしい。
エルフ族の爵位持ちになると血脈の家名を持つことが許されるらしい。
因みにエルデリアは貴族では無いらしい……そういう意味では血脈に付く名称の有無が貴族名になるとも言えるかもしれない。
人間とエルフの考え自体に差があるので、十把一絡げにする事は出来ない。
エルフの国についてなど話を来ていたが、流石に夜更かしをすると戦闘が起きた時に困るので、それぞれのパーティーから1名を見張りで立てて交代で見張りをすることにして、話の続きは見張り時に……と言うことになった。
しかし翌朝までは野党に襲われることはあっても魔物に襲われることはないだろう。
何故ならばチャームを出し夜の間だけリュックに括り付けてあるからだ。
これは僕とマッコリーニさんとエクシアさんが同時に出したので、対象範囲はかなり大きくなっていたが、周りがそれに気づくわけもなく、『安全な夜』とされただけだった。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
「前方よりゴブリン3、エクレ、エリケ、メフィ対処!」
エルデリアの指示で、かなり遠くから危なげなくゴブリンを殲滅する。
今日はコレで3回目の襲撃だ。
エルフの視野は本当に素晴らしかった……僕達が発見するよりも早く見つけてはロングボウを巧みに操り矢を撃ち込む。
しかし倒した魔石は取りにはいけない。
何故かといえば、倒した敵の遺骸が遠すぎるからだ。
翌朝は、出発時からユイとモアそれにスゥが難しい顔をしている。
僕は理由が分からないが、伯爵の『折角ならば王都まで一緒に行かないか?』と大地のエルフを誘ったことが原因ではないだろうか?
その発言からずっと彼女達は眉間に皺を寄せている……もしかしたら、エルフ族と因縁的な物が何かしらあるのかもしれない。
そんな彼女達の空気を知ってか、エルフ達は彼女達には無理にコミュニケーションを取ろうとはしない。
諍いになると解っての事だろう。
パーティーリーダーだけに両方のご機嫌を取るのは難しい……だから、出来る限りのことをする迄なのだが……。
「エルデリアの旦那!どうしたらそんなに確実に弓を撃てるんだ!?」
エルフ達の空気を和ませることを考えてだろうか、チャックが大人の対応で話をし始める。
チャックはエルフ仕込みの弓の扱いを伝授して貰っていた。
エルフ達の射撃に混じって、ゴブリン4回目の襲撃を彼がエルフのロングボウを借りて倒していた。
「俺!次の襲撃はダンジョンで手に入れたこの強弓を使って倒したいんだが!」
完全に目的を忘れたチャックは、エルフ仕込みの射撃精度の上げ方とダンジョン産の武器を組み合わせたくて仕方がないらしい。
エルデリアは、その話を聞いて今度は強弓の扱い方をチャックに教える。
「ユイとモア!それにスゥ!いつまでムスッたれてんだ!このエルデリアの旦那はいい奴だ!そんな怖い顔してたら可愛い顔が台無しだぞ!」
チャックの言葉に、イラッとしたユイは尻を蹴飛ばしていた……しかしスゥは褒められて普通に喜んでいた。
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