第219話「3人の秘密と襲いくる刺客達」

チャイもチャックと同じようにギルドの相部屋組で、まさか今日のダンジョンの昇格試験で5階階層ボスを倒した結果、自分にまで大金が来るとは思わなかったので、彼は食べ物は食べても酒は一歳飲んで居なかった。


 それに比べて、チャックは意気揚々と飲んでいたが酔った様子は無い。


 多分酒が相当強いのだろう。


 チャックとチャイは2階に上がっていく。


 彼等は冒険者ギルドの相部屋組で今日の一件で相当仲良くなったようだ。


 チャックとチャイと別れた女性組3人はギルドを出て常宿に向かう。



「スゥはよくあんな宿にしようと思ったわね!?樹木で覆われて街の風景は見えないし、なんと言ってもギルドから遠いじゃ無い?城壁に近いから常に日陰な物件だし。まぁそこを常宿にしている私たちも人のこと言えないんだけど……」



「ワタシは自分の育った環境の方が過ごしやすかっただけよ?故郷は此処に比べもっと自然豊かな街づくりね。2人は今日のダンジョンのパーティー募集の時2人でって言ってたけど、付き合いは長そうね?」



「実はそうでも無いのよね〜実は私が旅の途中で怪我をしてしまった時に助けて貰ってから一緒なのよ。途中で出会ってウマが合うと言うか……まぁそんな感じね!」



「あの時はビックリしました。突然傷だらけでゴブリンに追われていたので思わず回復魔法をかけたんですよね、なんとか2人でゴブリン倒して……あれは大変でしたね!」



「なんだ……モアは結構戦闘できるんだね!今日の感じだとからっきしできない感じさえしたのに……」



 3人は通りを越えて、裏道の様な場所を通っていく……


 スゥに言葉を聞いて返事を返そうとしたモアだったが、異変を感じてスゥとユイを手で制する。



 ローブを深く被った人影が4人ほどが道の先の暗がりに見える……待ち伏せしていた様だ。



 咄嗟に2人は今日ダンジョンで得たアイテム狙いのゴロツキ冒険者と思ったが、モアの様子がおかしい。



「アイツらの狙いは私よ……2人は手を出さなければ何もされないから……此処は任せて……」



「探しましたぞ……モア・エルフィンデル・シャドウ・ムーン様………人間などと戯れず早く城へお帰りください。お父様も心配していいでです。」



「父には言ったはずよ!私はあんな間違えた運命なんか受け入れない!このまま黙って世界から消えたりはしない!私は私なりに可能性を探すと!」



「貴方達は帰って父上に伝えなさい!『私の事はもう放っておいて』と!あの辺境に隠れ住むなら自分たちだけで住むといいわ!」



「モア様……我々は王からなんとしても連れ帰れと言われております。少々手荒な事になりますがお許しください。この罰は後程、我らの身を持って償いますゆえ……」



「そう言うと、ローブを着た襲撃者4人がモアに迫る」



 盾を構えモアの前に立ちはだかるスゥに、手を翳しながら何やら詠唱をするユイ。



 突然周辺の土から蔦が伸びると4人を捕縛する。



 その襲撃者にスゥとユイは言い放つ。



「そうはさせません!モアさんは大切なる私の友人です……理由は知りませんが加勢いたします。」



「そうさ、ワタシは今日知り合ったばかりだが、とても放っておけないね!」



 襲撃者は手に持った薬品を放つと、伸びた蔦が急に枯れていく。そのまま周辺は闇に飲まれていく……



「人の子よ!邪魔をするなら押し通る!我らとて主人の命を受けているので引けんのだよ!」



 スゥは剣に手を翳すと何やら詠唱する。



 手に持った剣が白く輝くと、周辺の闇が即座にはらわれる。



「我はスゥ・エルフィーナ・シャイニング・サン……光のエルフであり最古の血族である!我が国と事を構える気か?シャドウエルフの戦士達よ?」



「く………故光のエルフの姫君とモア様が!……いいかお前たち、ここは私がこの身を持ってなんとかする。すぐに姫を連れて王国へ帰れ!お前達は何があっても手は出すな!そして王に伝えよ。既にモア様は光のエルフや人間と繋がっていた事を!」



 襲撃者は自分の身を犠牲にしてでも、モアを連れ帰る気だった。


 もともと太陽のエルフと月のエルフは、お互いの考えの差よりお互いが袂を分ける事を選んだ。



 月のエルフは自分の家族を第一優先に、それに比べて太陽のエルフは教理を重んずる眷属だ。


 その為に家族であるモアを何としても国に連れ帰る為に、彼らは手段を選ばないのだ。


 例え自分が命を落とす事になろうともだ。



 しかし、相手は太陽のエルフ(多種族は光のエルフ)と呼ばれる最古の種族だった。


 本来この二者間の争いは、お互いの国の条約で固く禁じられている。


 小さな小競り合いでも、最近では大きな戦になることが多かったからだ。



 それなのに、今目の前に居るのはその敵対国の姫だった。


 当然、その者を捕まえれば有利に話を進められるだろう。


 しかし万が一逃げられて国王に知れれば全軍を持って大戦になってしまう。



 その上此処は森ではなく『人間の街』だ。


 此処で問題を起こせば『人間』の国さえ敵に回す。


 今、彼等の国は戦争などしている暇はなかった『大切な作業の真っ只中』でそれが終わる前にモアを絶対に連れ帰りたかったのだ。


 その為に王は兵を送り、人間の街の各所まで探しに行かせたのだった。



「暗き闇の精霊よ!如何なる光も呑み込み全てを闇に!『シャドウミスト!』」



 襲撃者のリーダーと思わしき者が魔法を唱えると、突然闇が濃くなって行く。


 周りに気配を漏らさず、視界を奪う闇系魔法だった。


 彼等はこの暗闇を巧みに使い獲物を狩るのが得意な種族だったが、それにいち早く対応したのがユイだった。



「深き森の賢人よ!大いなる慈悲を持つ森の精霊よ!我に眷属をつかわしたまえ!『スピリチュアル・ウルフ!』」



「な………なんだと!何故お前がその魔法を!ま……まさか……『人間』では無いのか!?なんて事だ……光のエルフだけではなく大地のエルフと繋がっていたとは……」



「モアさんは私の友人でもありますよ!彼女の意思でないのに見過ごすとでも!?」



 ユイは油断せずに次の魔法を唱える準備をしてみせる。


 杖を掲げ、下手に動けば即座に唱える素振りをする。



『シャドウエルフの皆さん……私は大地と森を司るエルフ族、フォックス・エルドリアン・ディープ・フォレストが娘、ユイ!貴方たちが遥か昔に見捨てたこの大地を浄化し、森を育むエルフ族です。』



『最古の血族に加えて、深き森の血族も相手するのですか?来るならば例え遠き眷属であっても容赦は出来ませんよ!お勧めしませんがね……』



「く……お前たち……此処は下がるぞ!……モア様……今は引きますが……お考え直しを!この地を離れ早く城にお帰りください。間に合わなくなります!」



 そう言い残すと襲撃者4人は姿を消す……


 流石に彼等とすれば太陽のエルフに大地のエルフ(多種族は森のエルフと呼ぶ)それに騒ぎを起こせば人間も敵に回す事になる。


 それも大地のエルフの姫ともなれば、引き下がるしか方法はない。


 大地のエルフには月のエルフ達も恩がある……決して口には出さないが心では感謝をしていた。


 大地の穢れをこのエルフ達のみが一手に引き受けていたからだ………

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