第167話「下層へ向かおう!モブは雑魚に任せておけば良い!」
装備を整えた僕達は先に進むことがしたが、魔物とはあまり遭遇しない。
理由はすぐに分かった。
此処にいるのは僕達だけではない。
上の階では駆け出しが戦っている以上、銅級冒険者達は皆『地下三階』からが狩場なのだろう。
奥に進む度にあちこちから声がする。
「いいぞ!いまだ!」
「此処は俺が引き受ける!奥の2匹を!」
「やったぜ!Dランクの宝箱だ!」
奥に進めば進むほど僕達以外の冒険者が話す声がする……魔物は隣の部屋にいても例え声が聞こえようと襲って来ないのだろう。なので倒してしまえばその部屋は安全なのかも知れない。
このダンジョンの経験が足りない僕達は少しずつ個々の攻略方法を学ぶしかない。
僕達がいる部屋から見て右の部屋に魔物がいるのが敵性反応でわかったのでそっちへ向かおうとすると、僕達のいる部屋に入り込んだグループが小走りで魔物にいる右の部屋に侵入する。
流石にマナー的なことで許せなかったのだろうチャックが最後の一人の肩を掴むと、そいつは例の3人組のうちの一人だった。
「なんだよ!?早い者勝ちだろう!このダンジョンの魔物は!」
「最低限のマナーぐらい守れよ!俺たちが今その部屋に向かっていただろうが!」
喧嘩が始まったので、周りの部屋で休んでいた銅級冒険者が声を聞きつけて覗き込んでくる。
「なんだよ!?自分たちに魔物だって言いたいのか?俺たちはお前達が戦っている魔物に手を出したわけじゃないぜ!」
「チャック!もういい下の階に降りよう。」
チャックは僕の言葉に納得がいかない様だが、リーダーの決定は守るべきだし、此処はダンジョンなので決定事項は絶対だ……掴んでいた肩を離す。
「分かったらいいんだよ!雑魚どもが!」
捨て台詞を残して歩く後ろ姿はなかなかにイラついたが、狩場は此処が目的ではないのだ……それに既に2人が部屋に入った以上中では戦闘が行われている筈だ。
クソ野郎でもこれで怪我したら僕達の責任でもある。
「チャック……気持ちはわかるがこんな雑魚しか居ない階なんかで戦ってるほど僕達は暇じゃない!あんな雑魚はそこの3人の雑魚……あ、冒険者に任せておけばいい!」
「ぶはっ!そうだな!リーダー!!確かに『下の階段』を探してたんだったな俺たちは。あんな『雑魚』いくら倒しても仕方ない……俺たちは昨日のタバサの様に5Fのフロアボスから宝箱持って帰る予定だもんな!」
「違うわよ……チャック!?地下6階の魔物の部位を持って帰るんでしょ!リーダーも言ったけどあんな部屋の雑魚なんか倒してたって時間の無駄なのよ!早く階段見つけましょう!」
「モアちゃんまで!なんか俺がバカだったわ……雑魚取られてイラつくとか本当に自分が情けない!」
その言葉を聞いた雑魚い冒険者は、沸騰したヤカンの様な顔で何か言い返していた様だが僕達は無視して引き返し別の部屋に入ると、突き当たりの部屋に地下4階へ続く階段が見えた
◆◇◆◇◆◇◆◇
地下4階の階段から先を覗くと、そこに見えたのは地下3階と同じような部屋の作りだった。
地下1・2階が同じ作りだった様に3・4階も同じなのだろう。
僕達はなるべく早く下の階段へ向かう様に、部屋から周りを注意深く探りながら奥へ進む。
この階も上の階も登り階段の側はあまり冒険者がいない様で、奥に進み地下へ降りる階段に近づくと冒険者が多くなる様だ。
なぜ分かったかと言うと、今目の前に階段があるからだ。
冒険者パーティーとすれ違ったのは回数にして5回、全パーティーが戦闘中だったので話しかけられなかったが、今は僕達が逆に戦闘中だ。
地下5階に降りる階段が見えたのは2個先の部屋の壁だった。
直進すれば階段に着くのでこの階では戦闘にならなかった……と安心して部屋に入った瞬間だった。
ジャストタイミングでゴブリン5匹が横の部屋から入ってきた……魔物は部屋に湧くのかと思ったら普通に移動して部屋に入ってきた。
そこに僕達が遭遇した感じだが、見た感じ5匹が1グループで各部屋を巡回している様に見えた。
もしかしたら本当にこの階のゴブリンは巡回してて、部屋を持ち場として守備しているのかも知れない。
しかし問題は、遭遇するまで僕の空間感知では敵性反応など感じなかったのだ……不思議だが今はこの目前の敵を殲滅するべきだ。
「グギャギャギャ!ギュィ!ギャギャギャ!!」
「ギャギギャギ!ギャギャ!グギギギギー!」
指示役だろうか?2匹がギャギャと叫んだかと思うと、前にいた3匹が襲いかかってきた。
折角なのでこの個体を鑑定すると不思議なことが起きていた。
迷宮深化条件の数字が減っている、そして何故か13%から72%の固有個体発生討伐率になっていた。
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・迷宮深化条件 65/200
・固有個体発生討伐率 72%
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僕は鑑定の内容は後回しにして次に行動に移る……皆が戦闘の準備など出来ていないので、僕は前に進み走り込んでくる棍棒を振り回すゴブリンに前蹴りを喰らわす。
そのまま手に持った剣を威嚇の様に横凪で一閃すると、走ってきたゴブリンの2匹が急停止する。
蹴り飛ばされたゴブリンは、起き上がると同時に額に矢を撃たれて後ろに吹き飛んで倒れ込むと動かなくなる。
いち早く攻撃体制に切り替えたのはチャックだった……強弓を放り投げてすぐさま矢を番えて撃ちだしたのだ。
スゥも背負っていた冒険者用のバッグを放り出し、即座に構える辺りは既に銅級冒険者と言っても過言では無いのでは?と思ってしまう。
そのあとチャックに続くように戦闘態勢に入ったスゥが僕の横に並ぶと、今度は盾を前方に構えて持っていたショートソードを盾で隠すように構えている。
ゴブリンから見ればスゥの半身と手に持った獲物は盾に隠れて見ずらいはずだ。
今回の前衛ゴブリン3匹は全部棍棒持ちらしく、派手に振り上げるのでチャンスとばかりに僕とスゥは持っていた武器をガラ空きの胸を目掛けて突きを放つ。
ゴブリンの防具は継ぎ接ぎの木製だったので、いとも簡単に突き抜けて血を噴き出して木製防具を濡らして2匹ともその場に倒れる。
僕は念の為に倒れたゴブリンの首を刎ねる。
万が一死んだふりであれば後衛が襲われてる可能性もあるのだ、ゴブリンとは言え結構な知能があるのだ馬鹿にしていると大怪我をする。
まぁ今回は突きで相当深いダメージを与えたので考えづらいが念の為だ。
スゥは真似をしてゴブリンにトドメを刺すが、やり方は確実な方法で急所の頭に剣を突き立てる……だった。
奥にいたゴブリンも鑑定する目的はスペックではなく意味不明の表示が気になったのだ。
ゴブリンは同じ戦士タイプだったが襲ってきたゴブリンよりレベルが2つ程高かったので、レベルが高いとそのパーティーでは指示役に回るのかもしれない。
因みに、迷宮深化条件72/200で固有個体発生討伐率は81%だった。
迷宮深化条件の意味が全く想像つかない……固有個体発生討伐率に関しても地味に上がったばかりだった。
僕が一瞬悩んでしまったので、その間にチャックが矢を撃ち込んで1匹を仕留める。
そして横ではスゥがカイトシールドでシールドバッシュをかまして、出来た隙を見逃さずショートソードで袈裟斬りにした。
敵性反応もない状態で、突然隣に繋がる門から部屋に現れた敵の事に仮説を立てるとすれば、魔物は『隣と区切る門を潜っても』他の部屋に『転移』するのでは無いか?としか思えない。
もしくは『何処か』から部屋の門を使い直接この部屋に『入ってくる』のかもしれない。
魔物の死骸が綺麗さっぱり無くなり部位しか残らない事を考えても特殊な状況下なので何が起きてもおかしく無いのだ。
「ヤバかったな……安心してたぜ……隣の部屋に見えなくても魔物が門から現れることがわかって良かった……5階に降りて梃子摺る相手だったらこうは上手く対処できないかもしれないからな!」
チャックの言う通りだった。
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