第157話「拒絶される腐敗貴族の騎士団」
腐敗騎士団とは対照的な『まともな騎士達』は『第二連合騎士団』として連合を組んで対処していた。
しかし、腐敗騎士団が働かない以上は自分たちが度重なる連戦になるのは当然で、団長含め騎士団員は重症そして兵士の多くも傷つき市民兵の殆ども疲弊していたのだ。
兵士も市民兵も指示役が居なければ本領が発揮出来ない上、市民兵は戦闘が得意では無いので基本補助に回る事になる。
しかし市民兵の多くは巨大な魔物を恐怖する。
その結果、一部の兵士が市民兵の代わりで対応に回る事になり隊列としては十分に力が出せない。
冒険者と違って隊列を組んで闘うのが彼等の戦闘方法だからだ。
そんな理由から、攻撃を受けた兵士は怪我で離脱する羽目になり隊列維持が困難になる
なので、そもそも駆け付けたくても騎士団長達は身体が動かない程にダメージが酷かった。
そんな状態であれば当然テイラーとの前戦の役目である交代ができず、テイラー達も戦場の維持を諦め撤退を考えていたのだ。
それもこれも腐敗貴族が派遣した『数合わせの騎士団』が我が身可愛さで協力せずこの戦場に居たせいだ。
問題はそれだけに留まらず、戦いもしないのに無駄飯をこれでもかと食っていたせいで資材は枯渇し、最近では討伐戦に参加した冒険者は満足な食事も貰っていなかった。
ちなみにこの『無駄飯』というのは文字通りの意味で、領主が用意した連合討伐戦用の物資を無駄に消費したのは『彼等ダメ騎士団の陣営』だった。そのせいで食事も満足に行き渡らず冒険者も疲弊した。
しかし悪い事は明るみに出るもので、後にこの事が参戦した冒険者からギルドへ報告され多くの裏をとられた結果、前線に出ず闘わなかった騎士団が『連合討伐戦の物資』を消費する必要性は『無い』とみなされ『返納』という形で問題の騎士団を有する各領主に『報告』がなされ、各領地の消費した『物資』を徴収される事になる。
当然そのツケは領民が払う事になり『強制徴収』だ。
当然領民は無駄に怪我を負い、領主の信用はガタ落ちになった上、『強制徴収』を受けた多くの領民は領地を離れる事になるのだが………それはこの先の話…。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それからもテイラーと騎士ターズが舌戦をしばらくしているとカブラが来て騒ぎ出す。
「此処にいたのか!テイラー!周りの奴がジュエルイーターの討伐部位をどうすんだって騒いでるぞ?早く説明しないと暴動になるぞ!アイツらにちゃんと説明た方がいい!」
「部位破壊した物は、その活躍をしたものに占有する権利があるって!テイラーがちゃんと言ってよ!?あの巨大な剛腕とか皆がもう……砕けた骨でさえ奪い合い寸前なんだから。アタイじゃ抑え切れないんだ!」
「小娘が何を馬鹿な事を!吾輩がこの戦場で活躍した騎士である!市民兵の命を投げ出してまであのジュエルイーターを倒したのっだ!あの討伐部位は我ら貴族騎士が回収する!お前たちになど任せておけるか!」
「んだと?アンタ一回もこの陣営から出てないじゃないか!ふざけんな!お前が一番決定権がないんだよ!」
「コレだから馬鹿どもは!我が主人は貴族なのだ当然権利があるに決まってるだろう!1番良い素材は我等『第一連合騎士団』のものだ!あとで少しは分配してやるそれで満足しとくのだ貧民が!」
「は?何が分配だ!勝手に指示無視して特攻させやがって!無駄に市民兵使い潰して何があとで分配だ。何もしてないんだお前らは貰えるはずがないだろう!冒険者規約に書いてあんだろうが!討伐した物を奪う権利は貴族には無いって!」
「無駄に怪我して、今でさえ出てこない第二連合騎士団の無能さと言い、我が物顔で貴重な魔物の素材を掠め取ろうとする冒険者と言い……これ以上はこの第一連合騎士団、総大将ターズとて黙ってはおれんぞ!ハッキリ言ってやる!あの素材は我らの主人に献上するべき品なのだ!お前らが貰う権利など『無視』だ!分かったか無能冒険者共め!全く太々しい!」
「ほう?この私が居るのに面白い言い分だな!?ここを統治するこの伯爵よりも決定権があるとでも?言いたいのか!!!『腐敗貴族のイヌ共が!!』領民を盾にしたのはこのせいか!人の命をなんとする!恥を知らんか!」
領主としての覇気がものすごいザムド伯爵の一括で腰を抜かす騎士団長のターズ騎士団長。
そして何より恐ろしかったのはその後だった……彼女の信念に反した事をした騎士団に怒り精霊化したエクシアだった。
デビルイーターにトドメを刺した灼熱の太い尻尾を、力一杯地面に打ち付けると岩肌の地面がひび割れを起こし周辺は赤く焼け始める。
『バシーーン!!!』という音と共に再度地面を強めに鞭打つと、亀裂がさらに深くなりその余りの恐怖に後ろに転げ回る腐敗貴族の騎士団長達。
「お前たちバカも大概にしろよ?あそこで死んでいった冒険者と、死んだ領民の家族へ分配するのが先に決まってんだろうが!それに無能なお前たちの取り分から支払われるんだよ!償いとして!マジで貴様ら今すぐ灰にしてやろうか?そうすればお前達の家族にもほんのちょこっとは分配してやるよ!ああん?」
エクシアの精霊化現にびっくりして声も出ない伯爵と男爵は二、三歩後ろに下がっていたのだが『迫力に負けたわけでは無い!熱かっただけだ……』と後々言い訳していた。
ちなみに熱かったのは本当だ。
岩が焼けるくらいの熱なのだから、言い訳には持って来いだろう。
テイラーと腐敗騎士団の話から、戦闘末に騎士団が負った怪我の具合を聞いたユイナは相当御立腹で、無表情のまま第二騎士団陣営に向かっていく。
「ユイナどこへ行くんだ?そっちは第二騎士団の陣営だぞ?テイラーの話では今は怪我人しかいないんだ、後程ここの回復師が見て回る手筈だから君は早く街へ戻る準備をしなさい。怪我人を見舞おうなんて事は気にせずともいいのだ!この鉱山を奪還するのは我ら貴族や騎士団は当然の義務……」
男爵の一言に、怒りのあまりに声を荒げてしまうユイナ。
「どいつもこいつも五月蝿い!怪我人を放って置いて帰るのは私の信念に反するんだ!そもそも怪我人が出るのがわかっていて相応の対処をしないなんて!原始人か!」
「人間は知恵のある生き物なんだ!だから予め用意をするべきだ!回復する手段が無いなら仕方ないが、傷薬に回復薬、ポーションまであるのに何故そんな怪我で放置して置けるんだ!バカじゃ無いのか!」
「全部『金』で解決できるだろうが!駆け出し冒険者の薬師に怪我用の傷薬を依頼すれば最低限の薬は数が無限に手に入る!銅級ならばもっと良いものが作れるだろう!銀級ならさらに上だ!」
「薬師はスキルレベルが上がるし、それでもっと上級の薬が作れる様にさえなる!金だって入るからちゃんとした飯に宿が確保できる!そうすればやる気だって増す!金が巡り街だって潤う!」
「討伐戦に参加しない冒険者をうまく活用する手段を考えないのは!奴ら馬鹿共と同じ事だろう!机に座っていて命が救えるか!死ななくて済んだ命を失っているのはアンタらの怠慢の結果だ!命の重みがわかればもっと手を尽くせるはずだ!」
「薬師と回復師をもっと多く派遣すれば、ここにいる怪我人だってもっと早く楽になるんだ!苦しまずに済むんだ!甘すぎんだよ!できる事を何故しない!」
「街に必要な人材がいないなら、回復師と薬師を他所の街からかき集めろ!鉱山攻略はそれからだろうが!まったく!国王だかなんだか知らんがガツンと言って派遣させろ!甘すぎんだよ!それが出来るのが国王だろう!国守る前に人守れ!その人が国を守るんだよ!分っかんないのか?そんな簡単なことが!」
男爵を一括するユイナに何も言えなくなるウィンディア男爵に、当然の言い分に怒るに怒れないザムド伯爵だった。
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