第134話「サブマスターの決心と誤解するミオ」
一通り話し終えたバラスとミオは、打ち合わせ終了とばかりに自分の業務に戻ろうとしたが、サブマスターの本題はここからだった。
「なぁ、バラスこの殲滅にはほぼ手を貸してないと言ってたな?」
「うん?そうじゃがそれがどうしたんじゃ?」
「レガント達はこの間レッドキャップの討伐に成功したよな?そしてヒロだっけか?今回蜘蛛でパニックしたが逃げるでもなく単独先行で全部駆除して回った上、けしかけた張本人の指揮個体に怒りをぶちまけたと?」
「そうじゃな。簡潔明瞭に要点だけまとめるとその通りじゃが…どうしたんじゃ?」
「そうか…ウム…。ミオ彼等はまだ報告待ちだったよな?」
「はい?そうですが…今魔石と取得素材の配分を話し合ってもらってますけど?」
「ならばミオ、彼等のパーティーリーダについて今日と明日で銅級昇級試験資格を許可しよう。今日の許可はヒロと言う駆け出しで明日の許可はレガントでな。残りメンバーも毎日それぞれの各パーティーから2人ずつ許可を出す様に。」
何かを決心する様にサブマスターのデーガンは簡潔にミオへの連絡事項をまとめていく…そして自分の中の何かを決定するように話出す。
「デーガン!?なぜ急に…」
「急では無いんだ、既に先日ギルドマスターは許可を出していいと言ってたんだがな…彼等はまだ早いと俺が停めていたんだ。レガントは着実にこなすが…実の所ここ最近頑張りが目立って来ただけでな。以前は周りを囲まれる度にスライム退治程度でビクつく事もあったしな…」
「それに最近になってヒロ達に刺激を受けたのか…2人ほど仲間が増えた事もあってパーティー連携も有るだろうと様子をな…」
「最近来た5人の方にしては、収集する薬草の束といい戦闘センスと言い模擬戦を見る限り文句の付けようは無いが…何分早すぎるからな…昇格が。この先行き詰まって下手をすれば小悪党に…となったら最悪の戦闘センスだからな…アイツ等全員。」
「だから昇級試験はこっちも含めて停めていたんだが…バラスの言う通りなら避難判断も速やかで英雄気取りもなく、戦闘に関しても怖気付かないのであれば、双方ともここで駆け出しをやらせておくのは全く意味がないからな。もっと地力を付けさせねばと思ったんだ。」
「成程じゃわい…デーガンも色々考えていたんじゃのぉ…まぁアイツ等なら問題ないだろう。銅級から先が本物の冒険者だからな…苦労はするかもしれんが、それを含めて冒険者じゃ。お前さんが気にすることではないさ…。」
「それに悪党にはどちらのパーティーもならんだろうよ…ヒロが突っ込んだ時には既に後ろの4人はすぐにサポートに動ける様に構えるわ…レガント達のパーティーは森の中の索敵を買って出るわ既に気概は銅級冒険者だったからな」
「戦闘を見たバラスが言うなら間違いないな!俺の取り越し苦労だった訳だ。ハハハハハ!」
どうやらデーガンはギルマスと昇級試験について少し前から決めていたらしいが、心配性のデーガンは踏み切れずにいたらしい。
ダンジョン探索や国を跨ぐ移動する際の過酷さはデーガンも把握している…それはデーガンもギルマスも元冒険者だからだが、2人は根本的に考え方が異なっていた。
引退後に多くの若者を冒険者として送り出してきた2人だが、デーガンはギルマス程この国や街に献身的ではない…街を守る為に命をかけてとか、誰かの威厳を守る為に鉱山の巨大な魔獣の居る死地へ行かせる様な…冒険者が自分自身が望まない誰かの為に使い捨てになる事が許せなかった。
冒険者は過酷で無理をすれば何処かで綻びが出るのだ…だからこそデーガンはギルド職員になった今でも万全の準備をして危険な事はなるべく避ける戦いをする様にしていた…たとえ時間がかかってでもだ。
しかし、その一方で冒険者は安全とは無縁だと言う事も痛いほど知っている…いくら万全にしたところで『予定外』は起きるのだから…今回のゴブリンの襲撃の様に。
デーガンはその事をよく考えながら、まだ若い彼等を冒険者と言う過酷な場所へ送り出す指示をミオにした。
「ミオそれでは管轄の受付担当に今日以降の予定を通達をしておく様に。今日の昇級はヒロで明日はレガント。そしてそれ以降は各パーティーから2人で、対象はミオが選定し昇級報告をする様に。」
「ハイ…受付担当に通達します。ところでなぜヒロさんが今日なのですか?冒険者登録なら彼の方が後なのですが?後から入った冒険者が追い越していくのも珍しくはありませんが、レガントさんが一日差である明日の理由を聞いても?」
「それについてはこの数の魔物に臆せず突っ込む勇気があるからだ。初めにこんな奴を銅級に上げておけば残された仲間にもハッパを掛けられるし、上がったメンバーは其奴の元に向かうだろう?だからパーティーリーダーは最初に上げておくのが良いんだ。問題児は別だがな。」
「どうしたんじゃ?ミオ…浮かない顔して…おっ?銅級に上がることで担当をイーザかコーザに取られると思ってるんか?じゃが仕方のないことじゃ…窓口は初心者枠とそれ以上に分かれているんじゃからな…いつか別れがあるもんだ」
「ギルド内では元受付として冒険者達とは顔を合わすんだ依頼担当抜きにして普通に会話すればいいんじゃよ!それに担当がイーザとコーザになるかも分からんじゃろう?銅級窓口にはオレンジやフロートもいるからの…」
「そ…そうですよね!いつかは窓口が変わるのだから担当替えも慣れないとですよね!さぁ!報告に行って喜ぶ顔を見ないとですね!」
特定人物の昇級のついて話された後あからさまに元気がなくなったミオに、バラスが元気を出す様に促しその後も大したフォローにはならないと分かりながらも自分なりに慰めていた。
バラスもミオの普段のやりとりを見ているので若干思う事があったらしく珍しく饒舌になり、珍しくフォローをしてくれるバラスにミオは自分なりに答えて見せていた。
そのやりとりを不思議そうに見守るも、何故ミオが慰めて貰っているのか分からないデーガンはミオに切り出す。
「うん?何を言ってるんだ?ミオ……お前は明日から初心者窓口総括と銅級受付総括を兼任することになるんだぞ?今日の朝礼は出てないのか?大変だとは思うが……お前のサポートのメイフィも銅級窓口に担当変えさせるから当分は二人とも兼務だが頼むぞ?」
「ふぇ?きょ…今日はタバサさんの初ダンジョンだったので、ちゃんと行けるか気になって休みをとってたのですが、パーティーの皆さん達がちゃんとフォローしてたので、休みを取り消して急遽仕事にしたので…朝礼は出てないので…」
「ワシも昼からだからその話は聞いてないぞ?ミオは銅級窓口兼任で両方とも総括なのか?流石に仕事振りすぎじゃろう!あのハゲマスター何を考えてるんじゃ!」
「ならば今伝えたぞ?前もってギルマスのテカが言ってると思ったんだが……まぁそう言うことだ。」
「ど…どうして私が銅級窓口総括になるんですか?イーザが居ますよね?まさか銀級窓口総括になったんですか!?彼女が?」
今まで自分が送り出した冒険者がいる銅級受付嬢の窓口に移動になったことは嬉しいのだろうが、もともとそこに居たイーザが気になるのは仕方のないことだ。
彼女達は事あるごとに水面下の戦いをして来たのだ。その対戦相手がいるはずの窓口総括に自分がなり、更に今まで自分がいた場所の総括までもやらねばならないのだ。可能性からすれば銀級窓口に移動かはたまたお祝い事でしか無いとミオは思ったのだ。
銀級窓口に移動となれば彼女のことだからネチネチと上から目線になるだろうと思って間違いない。
お祝い事であれば嫌な相手でも『お祝いせざるを得ない』そしてこれまた何か言われるのがオチだ……言われる言葉は大概嫌味だろう。
今まで以上に慌てるミオの言葉に更に不思議になったデーガンは、彼女が先程言った朝礼を出ていない事を思い出した事に加えて彼女達がやり合っているのも耳に入っていたので、彼女が何か誤解していると気が付き説明を始めた……
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