第122話「タバサの試験……ソウマの憤怒」

「タバサ、盾を構えて腰を落とせ!習った事を無駄にするな〜皆でスライム倒した時の様に、相手の観察を忘れるな!やれば出来るはずだぞ!」



「はははは…タバサに何言っても無駄だ〜どうせまた逃げる!次はお前達だぞ!逃げる準備しとけよ〜ぎゃはははは」



「タバサさん!皆でした特訓忘れないで!ソウマの言った様に腰落として相手の動きよく見て!」



「おねぇさん〜タバサに無理いちゃだめだよー!俺は優しいから軽くお尻叩くぐらいにしてやるからなー!」



「「「頑張れ〜落ち着いて!よく見てー」」」



 僕達の応援が功をなしたのか、タバサは盾を構えて腰を落として相手の動きを伺う。



 相手は油断して大振りの攻撃を仕掛けてきたので、タバサは素早くかわすと持っていた盾で派手に相手の顔面を叩いて後ろに叩き飛ばす…ロズ直伝シールドバッシュだ。



 相手はその攻撃を受けて、キレてしまったようだ。



「オークタバサの分際で!俺の顔に!ゆるさねぇ!」



 べロロアは持っている木刀で激しく打ち付けて来る、余りにも大人気ない攻撃なので周りもだいぶ引いていた。



 一見滅茶苦茶不利に見えるが、タバサは全く平気だった…器用に打ち込み角度に対して盾を斜めに構えて打ち込みを全て逸らしていた。



 激しく連打すれば当然息が上がる。



「ぐぼぁぁぁ…」



 攻撃が緩くなった時を見計らってかわすと、持っている盾でべロロアの顔面を叩くと、優勢だと勘違いしていた彼は突然の殴打にビックリして後ろにひっくり返る。



「クソが!2度も叩きやがって!絶対にゆるさねぇ…ボッコボコにしてやる!」



 対人戦の時間はさほど長く無い…終わっても良い時間でもあるだろう。



 しかし、この対人模擬戦闘を見ていた係員の数名からタバサに注意が入る。



「タバサさん、ちゃんと攻撃する様に!この木刀の撃ち込み程度で恐れるならば、到底君は冒険者に向いていないぞ!」


「相手が盗賊だった場合やろくでなしだった場合、君のその手抜きで罪の無い周りの人間が死ぬことになるぞ!ちゃんとやりなさい!」



 その言葉を聞いたタバサは、木刀を握り直すとこの模擬戦で初めて盾メイン以外の構えを見せる。



「泣くまで許さねーぞ!タバサァァァ!」



 ズガンと痛々しい音を立てて、顔面を三たび叩かれるべロロアは今度は倒れまいと踏み止まったが、そこに今までは追撃をしなかったタバサの攻撃が入る。



 ベン直伝の片手での連撃だ…踏みとどまったべべロアの体がくの字に曲がる、出っ張った腹に木刀がめり込んだからだ…その瞬間タバサは向きを変えて軸足に一撃打ち込むと、返す刀で太ももを強打する。



 足に2発喰らったべロロアは、足に力が入らなくなり腰が折れると、そこに背後から蹴りが入りタバサが馬乗り状態で首筋に木刀の切先を当てる。



「攻撃待て!」



「そこまで!勝負有り!勝者タバサ!」



 静まり返る訓練場…



「マテ!負けてねぇ!俺は負けてねぇ!」



 無様に負けたのに彼女に負けることなど許せなかったべべロアはそう言い放ちながら、現状を理解できず棒立ちするタバサに後ろから襲いかかった。



「タバサさん!後ろ!」



「危ない!」



 ユイナとミクが声をかけるより早く、ソウマは盾を構えタバサとべロロアの間に滑り込むと、巧みにシールドを使い攻撃をいなした後今日4度目になるシールドバッシュで打ち込む。



「吹き飛べ!クズが!」



 タバサと違い力のあるソウマの攻撃はべロロアの身体を宙に浮かせたが、ソウマの攻撃は止まらない…今度はシールドを両手で持ち変え上から打ち付けて地面に彼を叩きつけてから、更に盾を使って上から押さえ込む。



 ロズから新たに教わったシールドスラムと言う攻撃方法だった。



 盾の硬度を使い、踏ん張れない相手にダメージを与えそのままの勢いで倒れている相手に追加ダメージを与える技だ…べロロアは失禁して倒れていた。



 タバサを守ったはずのソウマは、やりすぎた為に審査員にしこたま怒られていた…。



 それから僕達の戦闘訓練は全勝で終わる。



 ソウマの対戦者は酷かった…ソウマを馬鹿にした償いを身体に刻まれたようだ…何をしてもシールドでかわされ何度もシールドバッシュで打ち返されて最後は壁に叩きつけられて無様に逃げ出していた。



 ユイナの対戦相手は彼女に木刀を当てることさえできなかった。


 結菜は器用に武器を絡ませ空中に飛ばしては相手のお尻を力一杯叩いていた…お尻へのフルスイング強打3発目で相手は尻が痛くて半べそで降参した…。



 僕の対戦相手はマヌケだった、脚力を身体強化でもしているのだろう…決め攻撃の時必ず飛び跳ねて攻撃するのだ…ジャンプで破壊力を増すつもりだろうが、飛ぶ直前一度止まるもんだから通じるのはスライムぐらいだ。



 この攻撃はジャイアントアサシンフロッグを思い出す…勢い良く飛んだ後は空中で方向転換など出来ないのだ。



 4回目に飛び跳ねた時に、一歩踏み込んで脛に木刀をフルスイングしたら、体制を崩して顔面から落ちて動かなくなった。



 足は脛当てがあるのでそこを狙ったから平気だろうが、顔面から落ちたのは予定外だった。



 ミクの対戦相手は童顔の彼女に油断していたようだ…彼女は盾を持たずに通常より短い木刀を2本持っていた。


 ミクは対戦相手の攻撃をかわしてすれ違い様に何発も撃ち込むのだ…よけては撃ち込み、よけては撃ち込み…相手も下手に避けようとするものだから何発か顔面にクリーンヒットしていたので途中から相手が可哀想だった…。


 結局は対戦相手のドクターストップだ。


 攻撃が鼻にクリーンヒットして鼻血が止まらなくなってしまったのだ…急いで回復師が呼ばれた。



 カナミの相手は酷かった…


 彼女は剣神でも憑依するのだろうか?


 打ち込んできた攻撃を鍔迫り合いで弾き飛ばすと、ガラ空きの胴に横一閃…薙ぎ払い一撃で相手を壁まで吹き飛ばした。



 ステータスのスペックに差がありすぎるのを忘れているのだろうか…



 タバサを馬鹿にしていた事が相当許せなかったようだ…その一撃に殺意がこもってたのは見なかったことにしておこう。



 彼女は吹き飛んだ相手に追撃しようとしたところを、審査員が2人がかりで取り押さえていた。



 こんな感じで僕らの出番は終わった…



 それからの時間はソウマの独壇場だ…彼の元には特に女の子が集まり盾の構え方を教えていた…ロスから学んだやつだ。



 彼に盾の使い方を教わった人間は、付け焼き刃なので攻撃を幾らかは喰らうも一応はダウンをせずに何とか引き分けに終わっていた。



 こうして集まった全員の対人模擬戦が終わった…



「対人模擬戦お疲れ様でした。」



「今回の対人模擬戦の勝者は例外なく段位が1つ上がります、引き分けの方も特定時間戦い続けられたので段位が上がります。」



「負けた方は努力して指定時間を戦える様にしてください。勝つ事が全てではありません無事に生き残る事が冒険者としての最低条件だと忘れないでください。尚、降参や失神は論外です。」



「それでは、受付から呼ばれるまでしばらくお待ちください。」



 今の台詞を聞いた僕は、タバサの逃げ回る行為も生き残る手段の一つなのでは?と思いミオさんに聞きに行ってみた。




「そうですね。あの訓練は生き残る事が前提なので、勝てば無条件で段位が上がりますが『逃げていけない』わけでは無いですよ?」



 さすがミオさん…初心者統括だけあって答えは言わないが匂わせることは忘れない。



 前回のタバサの行為は間違いではなかった…しかし『降参に近い行為』をしてしまったのが段位が上がらなかった原因だと思った…時間内騒ぎながらでも逃げ回っていれば段位は上がるのかもしれない。



 ゲームが好きな僕的には条件判定を調べるには大好きなので、次回試してみようかと思う内容だった。



 それから僕達は長机で冒険者証が出来るのを待っていた。

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