第103話「オーク娘と呼ばれる子」

「雛美さん……あ!カナミさんでしたね……慣れるまで気をつけないとですね……ところで階級を上げる場合の注事項はあります?」


「初級冒険者の最低条件は薬草の判別なのです。冒険するには怪我が付き物だから最低限の判別ができる様に…って言ってもそうまさん以外は全員クリアかも…」


 「じゃあそうまさんの薬草の判別能力を養う方向で、取り敢えずは採集して行けばF級にはなれるから…それから上は努力次第って事ね…違いを見分けるのは簡単だから私が教える感じで…慣れれば数日で採集はクリアなはずよ。」


 皆で話し合ってから柵内に入ると、数人の冒険者が僕達を見る。


 5人で薬草を摘むので、周りの冒険者の邪魔にならない少し奥の開けた場所まで移動することにした。


「おい!薬草の発育の良い束を踏むなよ?」


「あ!すいません…気をつけて歩きますね!」


「なんだ〜初心者か〜おねぇちゃん達〜俺が手取り足取り教えてやるぜ!薬草だけじゃ無く色々な!」


 奥に行く途中僕らはガタイの良い冒険者に自生している薬草の束をそこそこ避けて歩く様に言われたので、周りをよく見ると採集に適した長さの薬草は誤って踏んでしまわない様に皆気をつけていた。


 怒られながらもそうやって覚えていくんだな…と思って謝ってから邪魔にならない様に奥に進むと、別の冒険者が女性3人を目当てに下心丸出しで話しかけて来た。


 勿論見習いコースでナンパする様な出来損ないを3人が相手するはずもなく…。


 冒険者なんて見習いでもゲス野郎は何処でも居るもんだと思いながら、皆で柵の一番奥の森外輪に進むと、相手にされ無かった冒険者が大声をあげて恫喝して来た。


 余りにも必死に怒鳴っているので、僕等は仕方なく振り返る。


 難癖付けて近寄るゲス野郎は、側にいたスキンヘッドの冒険者が折角集めた薬草の束を踏み潰したらしく、怒りを買った様だ。


 立ち上がると同時の無言の一撃でゲス野郎は吹き飛び倒れて白目を剥いていた。


 スキンヘッドの男は採集を諦めた様で、白目を剥いて倒れている冒険者を軽く抱えて柵から出て行ってしまった。


 僕達が採集を始めると1人の女の子が僕達に話しかけて来た。


「は…初めまして!私はタバサって言います!F級見習いやってます…もし協力できる事あったら言ってくださいね!」


 若干ガチガチだったがその娘はタバサと言うらしく、見習い冒険者が若干距離を保ちながら薬草を集めている中この娘だけは僕等に向けて平然と近寄って来た。


「薬草はですね〜少ない数持っていくより多く持っていく方がいいんです!理由は〜万が一雑草が混じって足りない場合〜勿体無いじゃ無いですか〜?」


「後ですね〜!誤って踏んでしまった薬草は〜無理に摘んで持って行かずに放置しておくと、もっと〜強い薬草になるので摘んではいけないのです〜。それに踏みつけて折れてしまうと買取出来ない場合が〜有るのです〜。」


「それとですね〜………………」


「またやってるのかオーク娘!ずっとF級じゃねーか…毎回同じ事ばかり言っては下の奴に追い抜かれて笑われてんだから良い加減学べよ!」


「「「くすくす」」」


「ぷくくく…オーク講座始まりました〜!」


「「ブフッ」」


「あ!…あ…す…すいません…こんな事は受付で質問するなりすれば…すぐに手に入る情報なのに…偉そうにすいません…」


 酷い言い様だった…周りの冒険者も彼女の事を知っているのだろう。笑いながら出来の悪い子を見下している感じが伝わった…確かにこの娘は集めている殆どが雑草だった。


 だからと言って頑張っている娘に酷い事を言って良い事には繋がらない…カナミがそっと耳打ちしてくれたので意味が分かったのだが、オーク娘と言うのはこの世界でオーク程に頭が回らない奴の事を言う蔑みの言葉だった…


 周りの態度と、馬鹿にした態度にはすごく胸糞が悪くなった…。


 だからこそだろう…この世界には来る事になり、人の繋がりの大切さをより深く感じた僕達が、そして何より苦しみ続けた元S級冒険者で現見習い冒険者となったカナミが、そんな彼女と仲良くなるのには時間は全く必要としなかった。


「タバサさん!薬草一緒に集めましょう?」


「だな!わいわいやりながらの方が効率いい事もあるし?」


「でも…わたし今皆さんが聴いたように出来の悪い冒険者なんです…実は下心で…仲良くして貰いたくて…」


「良いじゃない?下心だって。仲良くしたいのは誰も同じでしょ?下心で何が悪いのさ?」


「そうだよ!仲良くしたいのは私たちだって同じだよ!助け合えば良いだけじゃん!」


「でも…でも…オーク娘ですよ?もうF級に上がって、皆が呆れる程初心者やってるんですよ?」


「俺達全員がそれで良いって言ってるんだから良いんですよ。それに今から僕等はF級に上がるんですから!銅級目指すのにちょうど良いじゃ無いですか!」


「嬉しいです…ふぇぇぇん…」


 タバサは他の冒険者もいる中で大号泣だった…余程長い間相手にされずひとりで薬草採集をしていたのだろう。


 僕等は採集の手早く済ます方法をタバサから聞いて、僕の知っている情報を逆にタバサに教えると彼女は要領よく薬草を摘むが、約1束分を集めるとバッグにしまい何故か雑草を摘み始める。


 理由を聞いたところ、自分が薬草を摘みすぎると後から来た人が摘めなくて大変になるからだと言う事だった。


 雑草も買い取ってくれるので、それを山程摘んで受付に持って行き一番安い6銅貨のギルド集合部屋設備で毎日寝泊まりしているらしい。


 それを聞いたカナミは…


「薬草は毎日すごい成長をする植物で、翌朝には刈り取った時の半分の長さには伸びているの…それに丸坊主になる位刈り取ら無いと毒性の強い根が地中に伸びて太くなるので土壌にもよく無いのよ。」


 と…タバサが教える以上の事を『駆け出しの筈』のカナミが教えていた。


 カナミが長い旅で教えてもらった知識らしいが、長い間旅をしてた事はタバサには内緒だ。


 葉の切り取り方は、タバサが無駄に長い間やっていた事もあり一番綺麗だった。そうまも薬草の見分けは難なくクリアしてひとり頭30束集めるのは全く苦ではなかった。


 一番早く採集したのはビックリする事にタバサで、2番手が僕、3番が結菜4番が美香、5番がまさかのカナミでドンケツがそうまであった…切る時のコツがあるらしく更にタバサ専用の薬草用切り取りナイフもあるらしい。


 僕達は話ながらも凄いスピードで刈り取っていたので、周りが頑張って採集していたが30束持って出る時には皆がこっちを見ていた。


「オーク講座で皆さん雑草を売りに行くんですか?雑草駆除お疲れ様でーす!」


「ダメだって本当のこと言っちゃ!受付で愕然とする様が見れないじゃん!」


 誰かがそんな悪口を言っていたが、僕達は気にしない…完全に無視して東門へ向かう


 僕達にはタバサが持っている30束が全部薬草だと分かっているし、そもそもタバサは出来が悪いのでは無く皆の事を考えて採るのを制限していただけの優しい子なのだから。


 受付に僕達が薬草30束を納品すると担当員はビックリしながら仕分けしていた…薬草を窓口に出すと、数が数だけに一度長テーブルで待っててくれと言われた。



 振り返ると、タバサを引き入れていた僕達も馬鹿にしたかったのだろう…結構な冒険者がその結果を見に来ていた。

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