第90話「街一番の料理と不満な三姫やらかすロズ」

「お!やっと来たな!悪いねロズ!助かったよ!」


「エクシア姉さん!大丈夫ですぜ!マッコリーニさんが用意してくれた荷馬車のおかげで、もう何があっても良い様に準備済んでました!さすがサブマスターですぜ!」



 そう言ってロズが先ほど見かけた男性を指さす…どうやらギルドのサブマスターと言う地位の人間だった。



「男爵様!この度は我等ファイアフォックスの者が失礼な言葉遣いで申し訳ございません。冒険者と言うのは命をかける職業な為どうしても頭で考えるよりも先に口に出る様で…マナーが行き届かず、お恥ずかしい限りでございます。」



「私はファイアフォックスでサブマスターをしている、ザッハと申します。」



「マッコリーニさん、我々まで呼んで頂き有難う御座います。このお店は予約無しでは入れない人気店で何時かは来たいとギルドで話していた店でしたので、お礼の言葉もございません。それも貸切とは!さすがジェムズマインの大店ですな!」



「サブマスターは相変わらず頭が硬いっすね!硬いのは表情だけで十分すよ!」



 そう言って、サブマスターを揶揄って、エクシア達のテーブルに座るロズ。



 まず男爵とテロルに自己紹介をしたあと、僕達の席に顔を向けて自己紹介するサブマスターのザッハに事務員リープ、販売窓口担当フィーナとギルド解体担当のゴップ…ギルドメンバーが全員勢揃いした様だ。



 男爵が気兼ねなく座る様にと勧めると、全員が男爵に一礼してから男爵の居るテーブルに座る。



 男爵に、エクシア、ロズ、ベン、ベロニカ、ゲオル、テロル、マッコリーニ、ザッハ、リープ、フィーナ、ゴップが一際豪勢なテーブルクロスの掛かった楕円テーブルに座り空きの席がゼロになる。



 ファイアフォックスにお礼を言う宴会なのでちょうど良いテーブルだろう。



 僕達が座るテーブルは残り1名座れるのだが男爵家の執事は座れない…魔法契約をしていない為に御令嬢達がうっかり話が出るとまずいからだ…酒を飲む場だから酒を飲むであろう夫人の事もあるから尚更だ。



 マッコリーニ夫人については、マッコリーニ商団員全員が魔法契約したと男爵家で説明を受けていたのでこの席に座れている。

しかしマッコリーニ曰く、妻と商団員への細かい説明は必要はない…商団員として、その商団を支える妻として理由は聞かずとも理解する位でなくては務まらないらしい。



 そう男爵邸宅で胸を張って言ったマッコリーニは、さっき睨まれていたが…多分妻として理解はできるが納得はいかないのだろう。



 マッコリーニは酒を飲む席だけに何かが起きてからでは遅いと感じ、街に戻るとすぐに行動に出た…予めこの踊るホーンラビット亭の人間全員に今日の宴会で見聞きした話の内容を口外しない魔法契約を結んでいた。



 会いもせず知ってもいない冒険者との契約に初めは渋った支配人のビラッツだが、マッコリーニの今までに無い真剣な説明にそれなりの理由を感じ取って魔法契約を交わす事にした。



 ビラッツの店舗の従業員はというと奴隷契約の従業員な訳ではなく街に暮らしている住民だったが、人気店の給料は他と比べるとはるかに良いし、そもそもがこの店の調理レシピを口外しない魔法契約を結んでいるので違和感は無かった。



 人気店になれば、いずれ貴族が訪れる事もありその様な事が起きるだろうとは支配人に言われていた事もあったからだ。



 これがビラッツと従業員にとってとても良い結果になる…誰にも口外しない契約がビラッツの店の価値を引き上げることになるとはこの時は全く考えていなかった。



 因みに男爵が連れて来た兵士と、レイカのお付き達、そして男爵の執事の席は店舗に入った所にある脇の個室に別に用意されていた。




「うん!美味いね!肉が柔らかく処理されてて酒が進むね!」



「すいません…男爵様…ギルマス!男爵の目の前だぞ!」



「ナニ構わぬよ!今日は無礼講だ。酒場で権力など意味も無いだろう!さぁ〜ザッハ殿沢山注ごう。君も飲みなさい!」



「さぁ皆さま、次はスライム芋とゴブ茸のサラダですよ!」




 踊るホーンラビット亭の食事はなかなか美味しかったが、現代人からすると調味料があまりにも少ない世界なので味に変化がなく、若干匂いと食感で誤魔化している感じもあった。



 身内贔屓になるが、結菜でも同じ食材を使えば下手するとこれ以上のものを作れそうだとか思ってしまうが、男爵夫妻やマッコリーニの妻など、特に出された肉の柔らかさが素晴らしいと言っていた。



 結菜の手料理を食べていない人には絶品と感じたらしい。



 一度夜営に時に、ギルドメンバーが見つけて来た新鮮な鳥の卵を使い、結菜がうさぎ肉とウルフ肉のブレンド刻みゴブ茸ハンバーグを作った事があるのだが正直そっちの方が美味しいのでは?と思い出していた。



 御令嬢の3人はその肉を食べて美味しいと喜んでいたが、食べ終わると唐突に何かを思い出したかの様に支配人を見ると、それに気がついた支配人と三人娘が噛み合わない会話を始める。



「はい!何でしょうか!御令嬢様方…お代わりでしたらまだ沢山ありますので仰って下さいね。」



「はい!とても柔らかくて美味しゅう御座います!次はショウガヤキのこれが食べたいです!」




 アープが言った一言で双子が堰を切ったように思った言葉を口に出す。




「ウルフ〜のお肉食べたいです〜」



「私もアープ姉様と同じでショウガヤキ食べたい!」



「私は!ウルフのショウガヤキが!食べたいです!」



「あ!やっぱり私もウルフのショウガヤキと、これのショウガヤキ食べたいです!」



「ショウガヤキ…と…とりあえずお代わりをお持ちしますね…あと、大変申し訳ありません…当店はホーンラビットの肉しか生憎無く…ウルフは…」



「因みにショウガヤキとはどの様な焼物なのか教えて頂けると…お気に召すショウガヤキを我々も頑張って作って見せますので!」




「お代わりではなくーショウガヤキのこの〜お肉を食べたいのです〜!」



「「ウルフ無いのですか!残念です…楽しみにしてたのに…柔らかいウルフのお肉…」」




 それを聞いた、夫人は…駄々をこねる子供達に言い聞かせる。




「ショウガヤキと言うのは此方では作っていないみたいですよ?何処で食べたのですか?今度清めの儀の帰りにでもそちらのお店にいきましょう!」



「それと…ウーファン…先程から言っているウルフのお肉とは…もしかしてフォレストウルフでは無いですよね…ま…まさか…食べれるのですか?フォレストウルフ…」



「それと、もうこれ以上駄々を言ってはなりませぬ、『お父様とマッコリーニさんとお約束したでしょう?』」



 それを聞いた酔っ払ったロズが



「結菜〜材料もうねーのか?せっかくだから作ってやりな〜俺も酒のつまみにショウガヤキ欲しいぜ〜支配人エールくだしゃい!」



 ロズは完全に絡み酒で酔っ払いだ…ザッハに後頭部を叩かれている。



 しかし子供は大人の言葉を信じるもので令嬢3人は結菜をガン見している…娘の視線に気がつき男爵夫人も目線の先に居た結菜を見る…期待を満ち満ちと込めたレイカの眼差しも凄く結菜は『接待の席じゃなかったっけ?』っと心で呟いていた。

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