第78話「大蟷螂?いいえ……違います!見てくれがもう……」

「くそ!ジャイアントマンティスだ。テロルさん奴のスピードは速い上に腕の可動域も馬鹿みたいに広い!その上向こうから仕掛けてきたぜ!アホみたいにやる気満々じゃねぇか!」



「そうだね!こんな平野に出てきたのは山で何かあった証拠だ!鉱山で魔物が出て冒険者が大挙したせいだろう!冒険者様を獲物だと思って出てきやがった!」



「この魔物はジャイアントマンティスと言うのですか!対処方法はあの腕に気をつければいいのですか?」



「あの目玉も危険だ!かなりの範囲が見えるから下手な攻撃は感知される!」



 そう言っている間にもこっちに向けて飛んできたので僕は水魔法を打ち込むことにした…だってカマキリだもん…水はやばいんだよ?ハリガガネムシって言うのがいる可能性もある!行動制御されて水に突っ込むかもだ!異世界でのカマキリはどうか知らんけど…



 それに、そもそも短距離飛行しかできない翅の作りになっているのがカマキリの特徴だ…雌は威嚇用と聞いた事もある。更に何か攻撃する前に飛んでしまえば、あれだけの巨体いい的だし…本当にデカイんだもん‥所詮虫だよね…。



 「ウォーターバレット!」



 水魔法で出来た水の弾丸はカマキリに避ける暇を与えず翅と腹部を撃ち抜く。



 スピードのある小さい水魔法を身体の割には小さい翅で素早く避けられるわけも無く…見事に翅に穴を開けて墜落してきたので、水槍で仕留めようとしたのだが…さっき規格外のフラグを立てられたので折角だからそれに従おう!



 その結果



「うりゃーーー!八つ当たり!水槍撃!!!」



 になったのだ…勿体無かったのはジャイアントマンティスと勘違いされた特別種の下半身がもう無いという事…やり終わった後で実はいい素材になったのでは無いか?と思ったのだが、結果的には特別種にしか無い鎌が2本と一部の棘が残ったので収穫としては良かった。



 しかし、この素材をのんびり採取している暇はない…と思ったら、エクシアは手早く自分の剣で腕の付け根付近から鎌の部分までを切り裂きロズの馬に括り付ける。



「他の素材は後で取りに来よう。ダンジョンじゃ無いから消えないしな!テロルさん後で兵士にお願いできるかい?」



「承知した!もしアレであれば我が領で買い取るかもしれんから是非話をさせてくれ!」



 そんな素材になってしまったジャイアントマンティスと呼ばれているアイアン・ソー・マンティスは普通に戦闘していたら正直厳しかったはずだ…あの鉄の様な鎌で攻撃は防がれ、素早い動きに翻弄され無傷とはいかないはず…エクシア達には戦闘の素人である僕と美香が居たし、こっちは実質3人での戦闘だ。



 このまま此処でゆっくりして居る訳にはいかない…1番の問題は番犬のギルマスだ…ランクはあれでも銀級冒険者だ銅級冒険者では太刀打ち出来ないのは分かりきっている。



 僕等はその場を後にして、暫く進むと小さな村が見えてきた、木製の粗末な柵で覆われた村だがその柵は無惨にも破壊され村も荒らされていた…。



 初め僕はあの巨大蟷螂がこの村をこうしたと思った…何よりこの村の家畜であっただろう馬が巨大蟷螂に食べられていたのだから…美香もそう思ってテロルにかける言葉を考えていたが…しかし、ロズは違うことを言い始めた。



 「テロル様…この村を荒らしたのは残念ですがジャイアントマンティスだけでは無いですね…この焚き火の跡を見る限りまだ新しい…灰をかけた形跡もない上に、鳥を焼いて食い散らかした跡があるから間違いなく数時間前まで此処にいたはずだ。多分番犬のメンバーだろう。」


「この酒瓶の数からして、ここで数時間過ごしたと言うことは間違い無いだろう。飲み食い散らかして此処で寝てたはずだ…この村には申し訳ないが男爵邸まで行くのにこれで時間が稼げた事になる。だからさっき美香がクルッポーを飛ばした時まだ無事だったんだ。」


「それに、ついさっきまで此処にいたならあの魔物と鉢合わせしたはずだ。村人だとしたら逃げるとしてもあの魔物から逃げられるだけの村人はいないと思う。そして此処の村には荒らした形跡はあるが、争った形跡は無い…そもそも屋内に血痕がない…だから、この焚き火をした犯人がこの村を荒らしたあと、ジャイアントマンティスが偶然この村に来て残る家畜とあの馬を食ったと考えるべきですね。」



 村の家畜の柵の中には、無惨にも大きな鎌で切り裂かれたと思われる家畜が何匹か横たわっていた。



 それを見た美香が堪らず目を背ける…。



「大丈夫です!村人は間違いなく男爵邸だと思われます。先程男爵邸で食事を与えてもらっている人が居たと美香殿が言っていたので…それには確信があります。それがこのクリスタルレイク領での決まり事ですから!家畜は残念ですが、寧ろ村人でなくて良かった。」



「問題は何時ごろ番犬共が此処を出たかですね…領内に巡回兵が居るのでそれと上手く衝突していれば良いのですが…しかし、それは望めないでしょうな…私が死んだといえば速やかに報告する為に男爵領へ行けと言われるでしょうから…」



「私がまたクルッポーを飛ばしましょうか?今は体調が治ったので大丈夫です。」



「いや…美香それはやめとこう…此処まできたら先を急いだほうがいい。結果的には先に着くのが好ましいが…一先ず事件を起こすのを辞めさせないければならないからね!美香は男爵領についたらまたそのクルッポーを飛ばしてもらう事になる…他の所にジャイアントマンティスが居ないか調べないといけないからね!」



「分かりました!私頑張ります!」



 エクシアの美香への頼み事は多く無い…だからこそ彼女はよほど嬉しかったのだろう、ハキハキとしたいい返事だった。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 誰も村人がいない村で酒を煽って寝てしまったゲルゲだが悪夢で飛び起きる。



 昔ギルド番犬がまだまともだった時の仲間の夢だ…この夢を見た時は決まってゲルゲは丸一日不愉快になる。



「おい!お前ら起きろ!アホみたいに寝やがって…目的は男爵の金だ!寝てる場合じゃねぇよ!さっさと行くぞ!」



「何だよ!ギルマスだって寝てたじゃねーかよ!一番飲んでたのアンタじゃないか…全く…」



「本当だよ!鳥だって一番食ってたじゃねぇか…」



「なんだと!この村に来たのはお前らだろう!時間がないんだ早く片付けて隣の国までいかないと今しかチャンスはないんだ!」




 そう言って、転がった酒瓶を蹴飛ばして出ていく。



「何だよ!寝る前まで喜んでたってのによ!さっきまでこの先の村でまた村の蓄え回収していくって喜んでたから俺は楽しみにしてたのによ!」



「だから早く行くぞ!片っ端から奪って行くには時間がねぇんだよ!寝てる時間で1つの村潰せただろうが!次の村行ったらそのあとは一番近いの男爵の屋敷だ!金持ちになって一旗あげるぞ!」



「ああ!そう言うことか!すまねぇ!言われればそうだな!衛兵いない今がチャンスだもんな!さっき言ってたの酔っ払って忘れちまってたわ!」



「おしギルマス!行こうぜ!奴らの積立金の回収だ!」



 ゲルゲの勘違いで彼らの運命は大きく変わり、そして他の村を襲う選択をした結果大きく流れも変わる事になる…この後魔物が来て衛兵の足止めに役立つはずが彼等はその運を僅かな収入で不意にする事になるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る