第76話「初めてのおつかい……その子の名は…クルッポー!」

エクシア達の用意をする中、テロルは御令嬢に説明して兵士3人に警護を言い渡していた。


「冒険者が出払っている今、このギルドしか頼る事はできない…魔物の詳細もわからない俺では力になれんだろうが…壁役ぐらいは務まるはずだ!」



「じゃあヒロはまた感張らないとね!私と美香とそうまはひろには悪いけどここでこの子達のお守りかな?」



 そう言った結菜の後に僕は俯いている美香ちゃんに話しかける。



「美香ちゃん。その指輪でクルッポーと意思疎通できないかな?クルッポーが何か知らせてるみたいなんだけど?」



 僕は鑑定ができないフリで美香に気がつく様に促す。



「えっ?ちょ!ちょっとやってみます!」



 ひたすらにクルッポーがつつく美香の指輪に意味があるのは行動で何やら気がつくが、コレをどうやって使えばいいのか分からない僕らは美香に任せるしか無い。



「クルッポーちゃん…力を貸して!わたしにも出来ることがあるなら…お願い…!」



 そう言うと美香の指輪が白い光を放ち暖かみのある若干黄色い光になり落ち着く…。



「クルッポーちゃん…お願い3人のお父さんとお母さんが無事か知りたいの!」



 美香がそういうとクルッポーはギルドの中で美香の頭上を旋回し始める。



「あ!目が…片目がクルッポーちゃんの視界に…」



「オイ!テロル!男爵の家の方向はどっちだい!スグに美香に言うんだ!」




 エクシアは、直ぐにもギルドから飛び出していきそうなクルッポーの様子を見てテロルに男爵領の方向を指示する様に言う。




「えっ?えっと男爵の家は…」



「向こうです!お山のある方です」



「いっぱい畑があるのでそれを越えると、大〜きな!大き〜な!お池があります!」



「お池を越えると!大きな木が見えます!そのちょっと先にこんもりお山があってその先にお家があります!」



 テロルより早く3人娘が説明する…長女が山があると思われる方向を指刺し、双子の1人が池の大きさを手で表す…そしてもう1人が小高い丘を両手で表現する…3人の様はお遊戯会の出し物の様で可愛かった…その話を聞いた美香が笑いながらクルッポーを外に向けて飛ぶ様に指示をする。



「クルッポ〜クルルッポ〜」



 入り口から飛び立っていくクルッポー…それから飛んでいる場所の状況説明を美香がしつつ10分せずに美香の目に男爵邸宅が映し出された…どうやらクルッポーの本気の飛翔はものすごい速いらしい…。



 途中で、美香の視界に話に出た魔物も捕らえた様だが、美香は「ダメ!近寄っては!危険だからクルッポー!」こう言って近づこうとするクルッポーを魔物から遠ざけた様だ。



 速い速度で飛ぶ様は船酔いに近い状況になっているらしく、若干美香は若干フラフラしている。



「今、男爵邸の様な場所にいます、御庭があって、池がありますか?」



「「「あるーーー!」」」



「今は皆さん無事の様です。村人らしき人が…髪の長い女性でピンクのドレスの人に食べ物を分けてもらってます…あ!男爵様でしょうか?食事を与えている豪華な服を着た男性もいます…お父さんは目はアープちゃんと同じ青い瞳ですか?」



「それと近くには魔物も冒険者の様な人も居ません。」



「そうーー!アープと同じ青い目がお父様〜」



「「私たちと同じ水色の目がお母さま〜」」



「「「お母さまのお洋服は私達とお揃いのなの〜」」」



「何でそんな細かくわかるんですか?疑うつもりはないのですが…」



「あのなテロル…クルッポーって魔物はゲイズアウルと同じように我々が狩る事ができない魔の森の小さい小動物を器用に狩る魔物だ、時にはすごいスピードで空を舞いながら、的確に鎧のつなぎ目の肉を啄むんだよ?それだけ目がいいわけさ。」



「だから普通に飛んで、その辺りを見るだけなら人の目より優れているしその目を共有できるなら…どうなると思う?」



「成る程!このお方は偉大な薬師様であり、偉大なテイマー様でもあるんですね!大空の魔物を使役するなんてフォレストウルフを使役したと噂のウルフの王の様な方だ!それも力を使えるならそれ以上だ!さしずめ…天空の姫ですな」



 エクシアはビックリしながらも引き攣った顔をする…その後何かを決意した顔つきになった様な気もした。



「上手いこと言うな!まぁ今はまだ安全だが、急がなきゃいけない事に変わりはないよ!」




「すいません…ちょっとこれ以上は気分が…少し休めばまたできると思いますが…クルッポーちゃんありがとう!戻っておいで!」



 何故かここに居ないのにクルッポーに話しかける美香に三人娘はびっくりして見入ってた…僕もコレがテイマーのスキルだと間近で見たらびっくりする事しかない。



 多分彼女は気が付かずに何気なく声に出して話しているが、僕とモンブランの様な念和の一種だろう。



 能力を解除したせいか、その場にへたり込む美香を急いで抑えようとするエクシアと僕とテロル…美香は皮の水袋から水を飲みながら息を整えるが目が慣れないのかまだ辛そうだ。



 そうこうしていると、ギルドの奥から具材が何かも分からないものが3人娘の前に出される…それを見た3人は大喜びだが…見てくれはイカゲソの様だ…イカゲソ山盛りだ…。



「ううう…男爵様ご無事で!何より!!美香様!お礼の言葉もございません!」



 随分さっきの威厳がある感じと違うテロル様に…そしていつの間にか奥で飴と一緒に何かの山盛りの物を食べている3人の御令嬢と食べすぎないか心配そうに見つめる周りに立っている警備兵士の3人。



 ひとまず美香も休憩を終えて、普通に立てる様になったところで1人の男が奥から出てきた、先ほどから奥で何やら声が聞こえてはいたのだが、その声のほとんどがかなり大きなため息と、「あの馬鹿共」のフレーズが多かった。




「おう!お帰り!ギルマス!急な呼び出しだ!今仕事依頼が来たから確認してサインくれ!内容はギルド番犬の討伐だ…正式に冒険者組合からもさっき連絡が来た。」



「構成員12名 男爵令嬢3名の計画殺害(未遂)に関与そして、ウィンディア男爵の殺害計画(未遂)に関与…んで男爵財産目的の強盗計画…また派手にやったなぁ…奴さん」



「あとな正体不明の魔物、コレはジェムズマイン領主からの直々だ…衛兵の傷具合から魔物が万が一街に入ると死傷者がヤベェ事になるってよ!」



「因みに指名依頼だ!ファイアフォックスへの!『ジェムズマイン領主』そして『騎士爵位 テロル』及び『男爵家 長女アープ』連名だ」



「コレが完結すれば、2名以上からなる爵位依頼の完了を意味する…意味わかるな?」



「ほ!本当か!爵位権限依頼か!」



 エクシアの喜び方が尋常ではない…その依頼がエクシアにとって待ち望んでいたものである事は間違いない様だ。



 その言葉を遮る様にテロルからエクシアに話しかける。



「頼むから急いでくれ!こうしている間にも男爵の家に近づいているんだ!あのクズが!下手すると化け物連れて!」



「わかってるって!でもな一番大切な約束をしていない!今はまず口約束でも構わないが絶対に魔法契約を結んでもらうぞ!守らなかったら番犬の代わりに滅ぼす!命をかけて全力で!」



「わかっている!大丈夫だ、この依頼の反故などあり得ない!騎士の名誉に掛けてウィンディア男爵には苦言は言わせない!」



「違うよ!そうじゃない!今見たコイツらの能力含めてコイツらの存在を一言でも他人に漏らさない契約だ…そっちの兵士も、お嬢様3人も含めてだ…それができないなら…無理だ!」



「エクシア!待ちに待った依頼じゃないか!何を言って!!」



「悪いね…でもな!ここにいる全員コイツらの能力一言でも外で言ったらアタシは許すつもりはないよ!口が裂けても言うんじゃないよ!それが約束できなければこの依頼はなしだ!」


「さっき迂闊にもひろが受けたが…言っておくが…『今のコイツに依頼を受ける資格は何も無い!そもそも出来ない!まだうちのメンバーじゃ無いんだよ!』だから…約束が出来ないなら男爵が死のうとも…この依頼は無しだ!」





 エクシアは自分のギルド員である仲間にも容赦なく言い放つ…その迫力に黙り込むも彼は僕や美香そしてそうまと結菜を順に見て最後に雛美を見て目を見開き…何かを悟ったのか…ため息をつきながらヤレヤレと言う素振りを見せる。

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