第63話「真っ暗な森の中で………」

それからゲイズアウルの魔物の部位と魔石を集めてから暫く馬車を進める。


 美香の膝の上で寛ぐ鳩の魔物はクルッポーと言う魔物らしい。


 鳴き声から来ているらしいが見かけは殆ど鳩だった。


 身体のあちこちに大小様々な傷があり、そのほとんどが先程のゲイズアウルと言う魔物に付けられたものでなかなか痛々しい。


 美香はなんとか少しでもクルッポーの怪我を良くしたいらしく、自分の作った傷薬をこのクルッポーに飲ませ、傷に軟膏を塗り終わると頭をなでなでしていた。


 実に大人しく良く美香の言うことを聞くので、このクルッポーは本当に魔物なのだろうか…ただの鳩の間違いでは無いだろうか?と思ったが、その考えはすぐ改めることになった。


 このクルッポーは1時進ごとに黒尾栗鼠を狩っては美香に届けていた。


 初めは逃げてしまったと皆考えていたが、実際は狩りをしていた様で珍しい栗鼠を捕まえてきていた。



 この生き物は魔の森に住む魔物ではなく普通の動物だが、人の器用さと素早さでは捕まえる事が非常に困難な生き物で有名な生き物だ。



 魔物が多い魔の森で生き抜くにはそれなりの方法がある、この栗鼠は非常に俊敏で跳躍力もかなりある為見かけても人の歩行スピードでは追いつけないのだ。



 森に多数生息しているフォレストウルフでさえも、ちょこまかと逃げ回るこの栗鼠を捕まえることは出来ない。



 僕は美香に貸してもらいコッソリ鑑定した結果、この毛皮には驚くほどの価値があり、肉質はゴブ茸を主食にしている為に非常に美味で弱いながらもゴブ茸と同じ様な効果を望めるらしい。


 クルッポーはそんな獲物を毎時間必ず捕って来る出来る子だった。


 そんな事がありながらも、僕たちは荷馬車を街に向けて進める。


 時間的に夕暮れにさしかかり、そろそろ野営地を決めねばいけない時間でもあった。


 今いる場所から暫く進めば背を岩場にして見通しが効く場所に出るそうで、この辺りでは一番安全に野営ができる場所らしく、他の冒険者も皆そこに向かって歩くらしい。


 その為、僕達も夜営の場所をそこに決めるようだ。


 ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 僕らは道が広く荷馬車などがすれ違う事もできる半面が岩場で、半面が斜面になる場所で夜営の準備にかかる。


 ここは他の冒険者も夜営に使う場所で既に何組か冒険者が、夜営の準備をしていた。


 エクシアは、周りの冒険者とここ最近の情報交換の他と夜営時の罠設置に行く。


 お供として結菜とそうまを一緒に連れて行ったが、その理由は罠をかけるのが上手いそうまと、村にいる時に3人で作った作った軟膏と傷口を結菜と一緒に冒険者に売りに行ったのだ。


 お色気で冒険者に売り捌く気だろうか?エクシアはなかなか商魂たくましい。


 マッコリー二にも負けていないと思った。


 僕と美香はロズに連れられて一緒に焚火用の枝集めだ。一応他の冒険者がかけた周りの罠を作動させない様に気を使いつつ枝を集める。




「オイ!あまり奥に行くなよ!勾配が急だから一度足滑らせるとかなり下まで落ちるからな。まぁ下は崖じゃなく折れ曲った下りの道に通じてるだけだけど、大概問題起こすのは兄ぃだからオチオチ罠もはれねぇよ。」




 僕と美香は森に分け入った所は割と勾配が急な場所で、奥まで行くと危ないとロズが言っていたのだが、枝の集まりがよくなくついつい奥に入ってしまった。


 落ち葉で脚を取られ滑って斜面を転げて落ちそうになる美香の手を掴むも……残念ながら僕の足元も落ち葉が重なり足場の悪い斜面ではいくら踏ん張っても堪えられず、滑った僕と美香は一緒に斜面を滑って落ちてしまった。



 転げ落ちる時に、なんとか美香をクロークに包む事ができたお陰で僕と美香は大した傷はなかった。


 この辺りの森は魔の森な割りには普通の根が張った場所でもあった為、鋭いトゲでの切り傷はなく、更に運良く樹々に頭や身体を打ち付けずに済んだのは幸いだった。


 僕らはせいぜい打身くらいだが問題は落ちた先で、ここからはロープが無い状態では滑ってしまいとても上に登れず、僕も美香もこの斜面を降りるしか無かった。


 僕は気を付けながら下を見ると、もう少し降りた所にはロズが言っていた様に運良く森が途切れて道が見えた。


 道に続く斜面も滑って来た場所に比べれば遥かに緩やかで、美香でも降りられる傾斜なので僕は美香と相談して降りる準備をする。


 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 勾配が急な場所で枝集めをしていた僕らが、脚を滑らせて滑落した際に美香が悲鳴を上げた事でロズが僕らの異変に気がつく…。




「だから足元に気をつろぉって…ど!何処だ!ヒロ兄ぃ〜!美香ぁ〜!大丈夫か〜!」



 ロズがそう言って後ろを振り返ったときには既に僕らの姿はない…脚を滑らせて傾斜を滑った後だった。


 突然姿が見えなくなった僕達を捜す様が滑り落ちた先から見えたので、僕らはロズさんが二次被害に遭わない様に声を掛ける。




「ロズさん!美香ちゃんは無事です!此処からは傾斜が急で足元も悪く登れそうも無いので、一度下に向かい道に出たら上に登る道を探します。



「夜の森は危ないから、道に出られたらすぐに出てそこから動かない様にして、俺とエク姉さんが向かうまでじっとしてくださいよ!やたらに動くとフォレストウルフが気配を察知して来る可能背があるんで!」



「本当に絶対動かないでくださいよ!ヒロ兄ぃは魔法があってもフォレストウルフの群れ相手だと美香ちゃんは1人じゃ守れないでしょうから!」



 ロズは僕に厳重注意を言い残して急いでその場を後にする…



「エク姉さん!大変だ!ヒロと美香が足滑らせて滑落した。」



「何だって!無事なのか!何処まで落ちた?」



「下の道が見える場所って言っていたから半刻かからない曲がった真下だと思う!」




 この時エクシアと結菜とそうまはそれを聴いて…またか!という顔をしていた。実際は僕は滑って落ちてしまう美香を助けたんだが…。




「そうまと結菜はこのままキャンプに戻って皆に戻るまでキャンプで待つ様に伝えてくれ。馬車が無ければ半刻もしないでヒロと美香を見つけられるから、1時進せずに戻れる筈だ。」



「それとマッコリー二達のキャンプはベンとゲオルとベロニカで守る様に伝えてくれ。この周辺は今夜冒険者が数組夜営している。万が一が起きても連携して討伐できる筈だ。最悪チャームを使う様にマッコリー二さんに伝えて欲しい。」




 結菜とそうまに伝えてエクシアとロズは灯のない道を進んで行く。



 その頃僕らはというと、緩やかな落ち葉だらけの斜面を慎重に降りて道に出ようと頑張っていた…僕らはもう少しで道に出られる位置まで来たので、その道の先を見ると馬車が道を外し脱輪していた。



 迂闊だった…美香が滑落した時点で急いで守る動作をしたので、その後うっかり空間感知をするのを忘れていた。


 そもそも急な場所移動でスキル発動が消えるとは思いもしなかった。


 今回は滑落した事でスキルの発動条件がリセットしたのだろうか?徒歩スピードなら対応できるが滑り降りるくらいの速さだと多分周りを認識ができないせいなのじゃかいだろうか?



 その事に気がついたのは、目の前にフォレストウルフと別の人間が居たせいだ…僕は慌てて空間感知をする。


 馬車は窪みぬかるんだ路肩に脱輪してしまい身動きが取れ無い状態だったが、問題はそれだけでは無かった…数人の兵士と豪勢な鎧に身を包んだ騎士風の男がフォレストウルフの群れに襲われている真っ只中だったのだ。

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