豚肉コーナー

「どうも、浦島太郎です」

「わたくしは講師の亀でございます。へっへっへ、いい豚肉を仕入れました……今夜はコイツでキムチ炒めを作りますぜ……」

「献立を言うだけなのに、なぜ悪者口調」

「わたくし、昔シンガポールに住んでいたのですが、川の向こうのマレーシアの方がやや物価が安いので、週末に買い出しへ行くことがありました」

「買い出し程度の軽い理由で、国境を超えるのか?」

「はい。わたくしは外国人ですので、毎回パスポート審査がありましたが、シンガポール人の同僚は自動改札機のような機械で気軽に通過していました。それはそうと、マレーシアの国境はイスラム教です。豚肉を食べません。ですが、国民の4分の1は中華系です。中華料理に豚肉は欠かせませんよね」

「ギョウザ、小籠包、チャーシュー、豚まん……確かに欠かせないな」

「なので、マレーシアのスーパーでは、豚肉売り場が隔離されているのです。品のない例で申し訳ないですが、ビデオショップでアダルトコーナーが隔離されているようなイメージです」

「なるほど」

「別に違法ではないのですが、隔離エリアでこっそり豚肉を買うと、何となく悪いことをした気分になりました」

「それで冒頭の口調になったわけか」

「ひっひっひ、余った肉で豚汁も作っちゃうぜ……ぐへへ……」

「いや、ここ日本だし、堂々と作っていいからな。それにしても、買い出しでマレーシアへ行くなんて、お前は節約家だなぁ」

「何言ってるんですか浦島殿。以前はシンガポールにカジノがなかったので、わざわざマレーシアで打ってたんですよ。今も昔も、わたくしが国境を超える理由なんてそれしかありません」

「……(ノーコメント)」

「何か言ってください!?」

「いやまあ冒険心が旺盛でいいと思うよ」

「とかフォローしつつ、内心では呆れてますよね? その軽蔑の目、いい……」

「とにかく、早くキムチ炒めを作ってくれ」

「承知。以上、亀と浦島の恋愛講座でした」

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